第4話 氏神様

 もともと好きだった神社巡りだが、今までは伊勢神宮や出雲大社など超有名どころの神社に旅行を兼ねて参拝する、という形式だった。

 しかし神社は日本全国に八万とも十万ともいわれている。どこに行っても神社はある、ということは自分の身近な場所にも私が知らない神社が山のようにあるはず。

 まずは自分の家の周りの神社に参拝することにした。自宅に一番近い神社は「天神社」

 天神といっても菅原道真公、天満宮の天神様ではない。私は知らなかったのだが「天神信仰」とは、日本における天神(雷神)に対する信仰のことらしい。本来天神は大国主命などの国つ神に対する天つ神のことであり、特定の神の名ではなかったそうだ。

 道真公が怨霊となり火雷天神と呼ばれるようになってから、本来の天神信仰と結びついて(というか一緒くたになってしまって)天神=菅原道真という図式が一般的になってしまったようだ。

 因みにうちの近所の天神社には東天神社と西天神社がこれまたすぐ近くに存在している。とりあえず全部参拝しておくことにした。

 

 結婚して今の場所に住み始めてから二十年以上経っている。「今更何か用ですか?」と神様に言われそうだが……

「天神社」

 我が家から100メートルも離れておりません。そして昔から存在は知っていた。今でこそキレイに整えられているが、私が小学生の頃は周りの木々が鬱蒼とし過ぎていて超不気味だった。「鈴おじさん」という鈴を付けたおじさんが住んでいて、何故か男の子だけを狙って追いかけてくる、という都市伝説がうちの小学校ではまことしやかに囁かれていた。

「鈴おじさん」が何者なのかはよくわからないが、クラスの男子は友達の友達が追いかけられた、とか言うお決まりの「誰か知らんけど誰かが言うてた」方式で、怯えて神社の中には決して入らなかった。

 確かに鳥居の中は境内が見えないぐらいに薄暗く、隣には手入れされていない竹藪があり、竹が道路にまでぼうぼうに飛び出していた。

 そんなあまり良い印象がない神社だが、どう考えてもこちらが我が家の地域の氏神様なのだ。

「ご挨拶が遅れまして……」と恐る恐る参拝した。

 御祭神は大己貴命 熊野皇大神 天照皇大神 応神天皇 豊受姫大神

 

 あ、大己貴命様(大国主命)またお会いしましたね。

 

 阪神淡路大震災で一の鳥居が倒壊し再建されたそうだ。手水の水が枯れていた。拝殿中央の鈴は紐が巻き上げられ鳴らすことが出来ないし、社務所らしき建物にも誰もいない。隣にあったぼうぼうの竹藪は公園とマンションの駐車場になっていた。

 東天神社・西天神社(伊弉諾尊・伊弉冉尊)はどちらも綺麗に管理されているのに、何故一番、主である神社っぽい天神社はこんなに寂れているのだろう……鈴おじさんのせいか?

 とにかく今後は足繁く参拝させていただこうと心に誓った。鈴おじさんはおばさんには興味がないと思うので。


 氏神様にご挨拶も済んだので、その後私は、電車で直ぐに行ける最寄りの神社巡りを始めた。

 今まで知らなかったたくさんの神様に出会うために。

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