一章

 しばらくはだだっ広い平原をカシムの爺ちゃんが疾走してた。

 途中めちゃでっけぇ黒い猪が現れて、爺ちゃん進む合間にピョーンと飛んで猪の眉間を足蹴にして一撃で絶命させてん。

 この爺ちゃん、亀仙人とかか?


 んで爺ちゃんマジックバッグに猪入れた。初めてみるとインパクトあるね。でっけぇのちゅるんって入っていくし。


「今日はこっちくる予定違うかったから儲けたぞ。ルーノ」

 名前聞こえてたんや。


「さぁあと少しだ」


 またもグワシっと掴まれてリスタート。


「子供がくるのは久しぶりじゃ」


 原っぱを抜けたら木製の粗雑な門と塀があって。


「戻ったぞ!」


 門番してたらしいこれまた屈強な爺さんが、

「おう、そのちびすけがお告げの子供か?」

「ちゃんと原っぱにおったぞー」

 もう一人の爺さんが、

「お前のその感じだと誘拐犯だな」

「違いねぇ!」

って笑い合う。

 ここ爺しかいないとかないよな?


「とりあえずヨメに見せてくるからまたな!」

「おう、今夜はみんなでメシ食うぞ」


 朗らかな爺さんズと別れて、爺ちゃんは私を小脇に抱え直して、ちょっと進んだ先にあったログハウスっぽいお家に入った。


 木の香りと薬草っぽい香りいっぱいの室内には今度は綺麗な婆ちゃんがいた。


「帰ったぞ」

「はいはい、その子が預かり子かい」

 小脇に抱えられた私を見て、婆ちゃんは今帰ったばっかりなのかザルに山盛りのキノコをテーブルに置いた。

 

 爺ちゃんは原っぱで狩りに婆ちゃんは山にキノコ狩りにってか?


 私が桃か竹から生まれたんじゃなく原っぱに落ちてたのが残念な気分や。

 

「私はシルバだよ。名前を教えてくれるかい」


 やっと爺ちゃんに降ろしてもらったのでホッとした。


「シルバさん、私はルーノです」

「そうかい、畏まらなくていいから楽に話なよ」

 一応標準語を意識して話したらすぐ言われた。話し方ぎこちなかったんか?


「とりあえず身綺麗だしこのままで良さそうだね」


 そう言って私の手を引いて、部屋を案内してくれた。

 夫婦の部屋、婆ちゃんの仕事部屋、武具とかが置いてある道具部屋、厨房、食材がある貯蔵庫、風呂、トイレ、そして私の部屋!


「なんで私の部屋?」

 爺ちゃんもお告げがどうとか言ってたけどどう言う意味?


「神様から子供を預かってこの世界の暮らし方を教えてやって欲しいって頼まれたのさ」


 ほ!?


「神様とお話しできるん?」


「夢のお告げだね。今回はカシムと私と、あとはアクィラが視たって言ってたね」


 今回は!?何回もあるん?


「常識や職業訓練、色々教えてこの世界で生きていけるようにするのが私らの役割だね」


 チュートリアル村ってやつかね。

 ゲームはあんまやったこと無かったけど、多分そう言うやつ。


「勉強終わったら出てく?」

「居たけりゃいつまで居てもかまいやしないけど多分出て行ってしまうよ」

 婆ちゃんはニヤリとする。


「まずは日用品でも買いに行こうか」


 神様がくれた初期装備に色々揃ってるけど、この村が気になるからお出かけは嬉しいので婆ちゃんと爺ちゃんと外に出た。


 お金は初期装備に少し入ってるしな。


 婆ちゃんと手を繋ぎながら歩いて行くとちょいちょい声がかかる。


「こりゃまためんこいのがきたもんだね」

「へぇ、さすがにあんたらが保護者になるもんだね」

 歩くたびに声が掛かる。

 ただ、どう見てもみんな初老入ってん。 

 若いのも子供もおらん。学校か仕事か行ってるんかしら。


 ちょっと村の奥まで歩いて行ったら、なんちゅうの?田舎の八百屋っていうんかな。

 おっきめなお家一軒に野菜や果物、穀物、調味料が売ってる。

 横に肉屋さん、パン屋さんと酒屋さんや。


 んで雑貨屋さんには服も金物も売ってる。


「この村は基本自給自足。助け合いだからそんなにお店はないのよね」


 声かけてくれるお店の人も初老。

 全然若いおらん。


 お買い物は私の顔覚えてもらうんが目的みたいなもんやな。


 この村で浮かへん服買うにしてもサイズがないので布買ってもらって婆ちゃんが縫ってくれるらしい。


 酒屋さんでドワーフに遭遇って言うか店主やけど。

 ファンタジー発見や。ほんまにずんぐりむっくりなんやね。私よりは大きいけどふさふさな髪と髭の中かから優しい目が見えた。

 偏屈と人嫌いなタイプじゃないんね。


「ブリンちゃん、今夜食事に来な」


 爺ちゃんが誘うと二ってヒゲが動いて口角を持ち上がったっぽい。


「おう!じゃぁこれ運んでくれぃ」


 酒樽と大瓶をたくさん置いてある棚を指差す。

「あいよ」

 婆ちゃんが答えて手のひらを向けたら全部消えた。

 婆ちゃん、アイテムボックス持ちやん。

「村の中では気にしなくて良いよ。好きに行動しな」

 常識学べって言うたんにええのかしら?


 その様子を見てた肉屋の親父と八百屋の親父も棚を指差して婆ちゃんが消してく。いや仕舞うって言えば良いんか?


「「久しぶりに宴じゃぁ!!!」」


 あれ?いつの間にか夕食が宴になってる。


「さて、準備しようかね」


 家に帰るのかと思ったら野外キャンプの炊事場みたいな設備の場所に行って、さっき預かった食材や酒をドンっと出した。


 さっき通り沿いに出会った人たちがちらほら集まってきて食材を手に調理を始める。


「村じゃ新入りが来たら宴会で歓迎するんだ」


 これまたイケメンな爺さまが頭を撫でてくれた。


「俺はアクィラ、昔は賢者と言われておった」


 さっき婆ちゃんが夢のお告げをって言った時に出てきた名前だ。

 なんやろ。魔法学校の映画の校長先生より少し若いけど綺麗な顔の爺さまや。


「ルーノって言います。よろしゅうしてください」


「あらぁ可愛い子ねぇ、ルーノちゃん、あたいはルージュ。豹獣人よ。今も昔も拳一つで勝負よ♡」


 色気ムンムンな黒耳のお・・・ばちゃん?獣人さんや。めっちゃファンタジーな存在や。ちと薹がたってるけど美人でボインさんや!!

 猫科だから猫パンチなんかな。キックも強そうやのに。


「ルーノ村の外には付き添いなしで出てはいけないよ。戦う技術を身に付けるまでは」


 へ?戦う技術?楽ちん平和なイージーモードやないの?


 クエスチョンマークを浮かべた私に気がついて、

「どうしたの!」

「どうした?」

って聞かれた。

 詐欺や!!

 いやアクィラたちやなくて、神様な。


「なんもせんで楽ちんに生きれる言うたんに・・・」


 しもた。私のごちゃ混ぜ方言で通じんよね?


「楽ちん?」

「それだけ加護と魔力があれば楽は楽でしょうけど使い方わからないと使えないでしょ?」


 あ、通じてる。どうやら言語理解と翻訳が勝手に作用してるみたい。


 魔法の使い方は勝手にインプットされへんのか・・・。


「ルーノ、神に何かしら交渉してこちらに来たんだろうが神の基準は人には計り知れないから思わぬ効果や結果が出ることが多いぞ」


 NOoooooooOOooooo!!


 マジか。神様基準なんてわからへんやん。


「・・・アクィラ、私普通より可愛い顔になりたいから十人中七人くらいが可愛いって言う顔にしてもろたん」

 

 アクィラもルージュも可哀想なものを見る目になった。


「絶世に美女に育つと思うぞ」

「神がかった美人さんよ」


 神様の十人中七人はって言っても神様みんな美形だっただから計測不能じゃ!


 可愛いは正義でも美しすぎたら傾国とか悪い方に作用すんで!!


「まぁ良いんじゃない?損はしないわよ」


 ルージュさんみたいな美人が言うなら美人でいいんかな?


「護身術と隠蔽を学べば問題なかろう」


 かーーー!!結局めんどいじゃろがー!!


 アクィラとルージュに話してる間に獣が運び込まれ・・・獣?


「おー、レッドドラゴンじゃーん」


 ルージュがぴょんと飛び跳ねてそっちに行っちゃった。

 ドラゴンって多分強いよね。すごいなぁ。


「ふむ、張り切りおって」


 ドラゴンを獲ってきたふたりがワイワイ囲まれてる。


「!!???」


 大剣担いで笑ってるのも腰に洋剣差してるのもオジサン?爺ちゃん?集まってるのも爺ちゃん婆ちゃんや。


「ああ、ここは隠居村だからな。年寄りが上に居座っていると嫌われるからな。ある程度冒険に満足した連中が村を作ってスローライフをしておるのだ」


 爺さんズを見てアングリしてたらアクィラが笑いながら説明してくれた。


「ドラゴンは久しぶりだ」


 隠居?スローライフ?


 知らんけど、ドラゴンやっつけるスローライフってなんやろか!?


 チュートリアルが隠居村ってどうなん?


 唖然としてたらどんどん魔物?獣が運ばれてきて解体ショーや。


 歓迎は嬉しいけど刺激強いわ。



 




 

 

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