スクロール使いのダンジョン講座 ~創作系の力に目覚めたのだが、探索者を諦めきれないのでこの力でダンジョンに立ち向かおうと思います~
@YA07
第1話 夕海創太の現状
「今日もダメか……」
ある日の放課後。
俺こと夕海創太は、自宅に着くなりため息混じりにそう呟いた。
今俺の前に開かれているのは、ダンジョン関連専用の通販サイト『ダンコネ』だ。
ダンジョンというのは昔突如に現れた異次元への入口・及びその内部の通称で、その起源はそれよりも少し前に現れた未確認生物と人類との戦争にあたる。
その未確認生物との戦争には辛くも勝利した人類だったが、彼らが地球に残したものは人類に多大な影響を与えた。
未知のウイルスや生態系の破壊、そしてダンジョンの発現と人類の超人化現象、エトセトラ。
当初は大混乱に陥った人類だったが、ワクチンの開発や環境保護などが行き届いた結果、我々に残されたのはダンジョンという未知の宝庫と現代科学では解明不可能な『超人化現象』だったというわけだ。
今ではダンジョン関連の研究が各所で活発に行われているらしいが、一般人の俺にそんなことは関係ない。
俺に関係あるのは、このダンコネとその売り上げだけだ。
「……購入やコメントどころか、アクセス数すらついにゼロか」
ところが、その売り上げは芳しくなく……というかゼロだ。
ただ一つだけ言っておきたいのは、別に俺が売っている商品が悪いと言う訳では無い────と思いたいということである。
ではなぜ全く売れていないのかというと、それは同級生たちのイタズラが原因だった。
超人化現象といえば凄い力を得るように聞こえるかもしれないが、実情は少し異なる。そのイメージ通りとてつもない身体能力や魔法といった原理不明の超常的な力を得る人もいるのだが、中には純粋な力ではなく超技術的な能力を得る人もいるのだ。そして俺が得た超能力こそ、この後者である。
もちろん後者も凄い能力であり、社会的な格差はほとんどない。だが、生憎俺は高校生。高校において人気なのは圧倒的に前者であり、超人化現象で得られる能力は一つというデータから、後者の能力を得た人は「もう戦闘に役立つ超能力を得る可能性すらない奴」として少々肩身が狭い思いをしているのだ。
そしてその延長で、前者の超能力を得た所謂カースト上位の奴らに、イタズラで低評価を押されまくった結果がこれである。
「マジでアカウント作り直してえなあ……」
だが、そういう訳にもいかない。
ダンコネでは登録に探索者カードを要し、悪用を防ぐために複数のアカウント登録や削除後の再登録が禁止されている。
もちろん悪質な行為を受けた場合は対応してくれるのだが、イタズラをしてきた彼らも馬鹿では無かった。俺の商品を購入してから低評価を押されているので、文句を言おうにもこちらの事情を知らない運営では最悪こちらが悪者にされかねないのだ。詳しく調べてくれれば大丈夫なのかもしれないが、今では国民の大多数から関心を寄せられているダンジョン産業のトップ企業は、一底辺ユーザーのためにそんな時間を割くほど暇ではないだろう。
アイツらに「これでマ〇クでも食べとけよ」と言われた時はぶん殴ってやろうかと思ったが、そんなことをしても返り討ちにされるだけなのが悔しくも虚しいところである。
「やっぱ誰かが見つけてくれるのを気長に待つしかないのか?値段だって下げすぎても意味無いし……つかアクセス数ゼロなんだから、もう表示すらされてないのか?」
ダンジョンに関する商品、特に俺が扱っているスクロール系アイテムは、その品質が命に直結するアイテムだ。
なので値段をとにかく下げればいいという訳ではなく、購入希望者は大体の相場から自分の希望に合う価格帯のスクロールを探す。そして販売者の情報をチェックし、その商品の信ぴょう性を確認するというのが一連の流れだ。
そして一度はアクセスしないと俺の評価が低いことすら知りようがない訳で、少しはあったアクセス数がゼロになったことを考えると、サイト側のAIが俺の評価と売れ行きから表示順を徐々に下げていき、ついにアクセスすらされない領域まで下げられたという状況なのだろう。
俺は無意識のうちに、深いため息をついていた。
どうしてこうなってしまったのか。創作系の超人に覚醒してしまった俺が悪いのだろうか。
……いや、悪いかどうかという話ではないが、少なくとも俺は創作者になったことに落胆していたはずだ。今のため息だって、心のどこかで感じているこの不満の現れなのだろう。
超人化現象を引き起こすには、ダンジョンでモンスターを倒し必要がある。
どの程度倒せば覚醒できるかは個人差だが、ダンジョンへの入場が許可される高校生になってすぐ覚醒を果たすような人は、みな英雄に憧れているような人だ。
俺もその例に漏れず、覚醒した時にはその嬉しさから感じなかったが、どこかで創作者ではなく探索者になりたかった自分が失望していたはずなのだ。
「俺も戦闘系に覚醒してれば……」
その言葉が重く響く。
探索者を諦め切れない心。
創作者としてすら立ち行かない現状。
燻る気持ちを抑えきれなかった俺は、売れるはずもないスクロールを握りしめて家から飛び出したのだった。
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