第18話

「彼らには時間をかけて償って心を入れ替えてほしいと思っていたけど、結局痛い目に合うことになってもらったわね。少し残念だわ」


「仕方がありませんよ。悪に取り憑かれた性根はそうそう治らないというもの。厳しい手を使わなければ変えられぬことのほうが多いのです」



以前、リリィはマグーマとアノマにも変わってほしいと思っていた。しかし、その思いは叶わなかったわけだ。



「厳しい手を使わなければ変えられない……か。そうなると残っている王子殿下たちはどうなるのでしょうね」


「彼ら次第でしょう。そして、その周囲にいる人たちと助け合ったり傷つけあったりすることで良くも悪くも成長していくと思いますよ」


「助け合うことは分かるけど傷つけ合うことも大事なの?」


「お嬢様、これは私の経験論ですが……人と人とは助け合って成長するとよく聞きますが、それと同じくらい傷つけあって成長していくものだということです。その傷をバネにして立ち上がり上を目指す。それも大事なこと……人には必要なのです」


「ジェシカ……」



リリィに心酔するばかりのジェシカが真面目な顔で珍しく良いことを言う。ただ、それは精神面よりも肉体面での経験論だった。



「私も騎士としてひよっこだった頃には幾度も幾度も傷ついてきました。その度に立ち上がり、もう負けまいと傷つきながら努力して今の私になれたのですから」


「あ、ああ、そういうことね……」



リリィはちょっと違った想像をしたばかりに、ちょっと感動して損したと思った。だが、たしかにジェシカの言うことにも納得できる。



「それなら第二王子殿下は大きく成長できるかもね。ある意味一番の被害者だし」


「そうですね。親は能天気、兄はクズ、弟は子供。そんな面倒な家族に囲まれれば苦労人としてたくさん傷ついていたでしょうね。事実、発狂してお嬢様に婚約破棄ですし」


「その婚約破棄も国王陛下の権限で無かったことにされたけどね。まあ、国王陛下もいいかげん自分が能天気過ぎたと反省されたようだし」


「反省が遅すぎますけどね」



裁判の時に、国王は自分が能天気すぎたことを多くの貴族に対して謝罪した。これからはしっかりすることと、第二王子トライセラが正気を取り戻すまで王妃とともに王宮の仕事に励むと誓ったのだ。



「あの国王夫妻が能天気からしっかり者になると……今度は国王夫妻が行方不明になるのでは? もしくは王太子殿下が……」


「やめてよ。こないだまで末っ子の王子が行方不明になったばかりだから洒落にならないわよ?」


「そうですね。流石にこれ以上、行方不明はごめんですね」



二人が楽しそうに会話していると、レストランの外で少し騒がしくなった。



「? あれは?」


「ストリートミュージシャンのジミー・タカーナが歌を披露しているようですね」


「まあ。あのミュージシャンがここでも? 今度はどんな歌かしら?」



レストランの近くでストリートミュージシャン・ジミーが歌を披露していたので、二人は受付にお金を払ってレストランの外に出た。



「これはまた見事な歌ね」


「はい。迫力のあるメロディが刺激されますね」


「貴族のパーティーでは決して聴けない曲を奏でる人はたくさん増えたけど、ジミー・タカーナは別格だわ。新鮮で聞いているだけで熱くなるわね」


「ギターという楽器が上手く活かされています。他の楽器ではこんな音色は出ません」


「ふふふ、これは楽しみが増えたわね。ここに来る理由が増えたわ」



せっかくなので、二人は大人しく歌を聞いて楽しんでいた。このレストランもまたお気に入りになりそうである。



この二週間後、新たな王太子行方不明事件が起こるのだが、その事件にも彼女たちが関わることになるのは別の話になる。


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王太子殿下は豹変しました!? 〜第二王子殿下の心は過労で病んでいます〜 mimiaizu @mimiaizu

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