特別編 ○○しないと出られない部屋

『注意:これは本編とは一切関係ありません

 ○○しないと出られない部屋』


 と、書かれた紙が貼られた扉が、朝起きると宇野姉妹の部屋に突然召喚されていた。


「○○……つまりそういうことですよね!」


 芽衣莉がとても嬉しそうに叫ぶ。


「違うでしょ、まずはここがどかってことと、本編ってなに? ところからだよ」


 それに流歌が正論で返す。


「るか姉はわかってないよ。ここには私達しか居ないんだよ? 足りないのは?」


 鏡莉が楽しそうに悠莉歌を指さした。


「お兄ちゃん」


「正解」


 鏡莉が悠莉歌の頭を撫でる。


「つまりなんなの?」


 それを梨歌がめんどくさそうにしながら問う。


「まぁ梨歌にはわかんないか」


「は?」


「そうやってすぐキレるから。あ、でもなっつんには最近キレないよね。ねぇ、なんでなんで?」


 鏡莉がニマニマしながら梨歌に近づく。


「あんたみたいにうざくないからだよ」


「えー、ほんとに〜」


「一回ちゃんとキレといた方がいいか?」


「梨歌こわぁい、なっつんに嫌われるよ〜」


 手が出そうになった梨歌の動きが止まった。


「反応あ──」


「調子にのんな」


 梨歌が鏡莉の口を物理的に止めた。


 自分の唇で。


「吐き気がする」


「り、梨歌?」


「なんかここなら何しても平気な気がして」


「でもしないでしょ」


「バカを静かにするには最適じゃない?」


 梨歌はそう言って顔を真っ赤にしている鏡莉を指さす。


「わ、私の初めてが梨歌なんかに……」


「初めては誰にあげたかったのかなぁ?」


「うるさいばか梨歌!」


 鏡莉が梨歌に襲いかかろうとしたのを流歌が止める。


「きょうりお姉ちゃんかわいい」


「確かに。いつもの余裕がなくて、永継君と相手してる時みたい」


「ゆりもるか姉もうるさいよ! 梨歌を一発殴らせてよ」


「はっ、調子にのるからだよ。……さて、どうするの姉さん」


 梨歌が鏡莉にはもう興味はないといった感じで無視をして、流歌に話しかける。


「○○しないと出られないって言うけど、私達捕まってる訳でもないよね?」


 ここはいつものアパートの部屋だ。


 この扉を無視したら、多分普通に外に出られる。


「多分この扉に入ったら出られなくなるんだよね? それなら入らなければ何もならないんじゃない?」


「でもお兄ちゃんが中に居るかもだよ?」


「それこそなんで?」


「なっつんが私達とそういうことをしたいから、こんな大掛かりなことしたんじゃない?」


 梨歌に無視をされて、自分だけ気にしてるのが気に食わなくなった鏡莉が顔を赤くしながらそう答える。


「永継君が? ありえないよ。もしそうなら言ってくれれば……なんでもない」


「あっれぇ? るか姉なんて言ったの。もっかい」


「私もキスして口を封じるよ」


「え? るか姉からならむしろご褒美じゃん。私からしよっか?」


 鏡莉が口元を指さしながら流歌に聞く。


「そういうのはいいの! まったく」


 流歌が顔を赤くしながら鏡莉を離す。


「姉さん、そこも大切なことだけど、違うよ」


「なにが?」


「芽衣莉が入ってった」


「え?」


 芽衣莉は鏡莉と梨歌がお楽しみの少し前ぐらいに扉を開けて中に入って行った。


「楽しんでないわ!」


「鏡莉が頭おかしくなった……いやいつもだった」


「は? 黙れし。先に頭のおかしい行動とったのは誰だよ」


「喜んでたくせに」


 また梨歌に襲いかかろうとした鏡莉を流歌が止める。


「喧嘩しないの。今は芽衣莉で──」


 流歌がそこまで言うと、扉が開き、芽衣莉が這うようにして出てきた。


「芽衣莉!」


 みんな、芽衣莉のことを凝視する。


 特に服装を。


「そんなに服をはだけさせてどうしたの?」


 芽衣莉の服は、着れる状態ではあるものの、とてもボロボロだ。


 髪も乱れて息もきらしている。


「芽衣莉?」


「……た」


「え?」


「最高でしたぁ」


 芽衣莉が流歌の服を掴んでよじ登り、抱きつきながらそう言った。


 芽衣莉の顔は真っ赤でとろけている。


「ま、まさか篠崎さんにあんなことやこんなことをしてもらえる日が来るなんて。後でもう一回行きます」


 芽衣莉は身体には力が入らないようだけど、声にはとても力が入っている。


「な、永継君が芽衣莉をこんなにしたの?」


「……すぅ」


 芽衣莉は疲れたようで、眠った。


「そこで寝る!?」


「とりあえず芽衣莉は寝かしといていいんじゃない? 私が中を見てこようか?」


 梨歌がそう流歌に提案する。


「とか言って、ほんとはなっつんにエロいことして欲しいだけなんじゃないの?」


「なんか現実味ないし、それもいいかもね」


「認めんなし、今日の梨歌いつも以上に嫌い」


 鏡莉はそう言ってそっぽを向いた。


「確かに中は気になるけど、入らないって手もあるんだよ?」


「姉さん、ほっといても芽衣莉は入るよ」


「……梨歌、ほんとに行ってくれるの?」


「いいよ」


「るか姉もめいめいの扱い酷くない?」


 放置して芽衣莉がまた入るのなら、中の様子を知っておいた方がいい。


 だって止めたところで芽衣莉なら入るのをみんな知っているから。


「じゃあ行ってくるね」


「気をつけて」


 梨歌は流歌に手を振りながら扉の中に入って行った。


「と、送り出したのはいいんだけど、どう思う?」


「後で私も入ろ」


「ゆりかもー」


 流歌の言葉を無視して鏡莉と悠莉歌はウキウキしながら扉の前で梨歌が出てくるのを待つ。


「私の扱いが雑……やっぱり梨歌の言う通り、何か違うのかな、いや、いつも通りか……」


 流歌が嬉しそうに眠る芽衣莉を抱きしめて、一人落ち込む。


 流歌が落ち込んでいると、扉が開いた。


「……また姉さんをいじめたの?」


「るか姉を無視しただけ。次は私が行く」


「ゆりかもー」


「じゃあ一緒に行こっか」


 鏡莉と悠莉歌は一緒に扉の中に入って行った。


「りかぁ」


 流歌が涙目になりながら梨歌を見る。


「姉さんは反応がいいから、つい、いじめたくなっちゃうんだよね」


「梨歌も嫌い。私の味方は芽衣莉と永継君だけだよ」


 流歌はそう言って眠る芽衣莉を強く抱きしめた。


「一番に裏切って中に入ったのは芽衣莉だけどね」


「別に裏切った訳じゃないでしょ」


「永継……篠崎さんが中に居るって話はしてたんだし、裏切りでしょ」


「梨歌、中でなにがあったのかちゃんと説明して」


 流歌が芽衣莉を横にして、梨歌に正座のまま向き直る。


「……秘密」


「梨歌はなんの為に中に入ったのかな?」


「安全かどうかの確認?」


 元を正せば確かにそうなのだ。


 梨歌は別に、中になにがあるかを言うなんて一言も言ってない。


 ただ中を見に行っただけ。


「確かに中に篠崎さんは居たよ。それで、まぁ、うん」


 梨歌が少し顔を赤らめながら、流歌から視線を外した。


「だから何したの!」


「秘密だよ。姉さんも行けばわかるから」


「行か……ないもん」


「姉さんはわかりやすい」


 梨歌が流歌の頭を優しく撫でた。


「子供扱いして……」


「してないしてない。可愛いなぁって思っただけ」


「してるじゃん!」


 流歌が頬を膨らますが、梨歌の手ををどけようとはしない。


「姉さんは篠崎さんに何して欲しい?」


「私は別に」


「いいの? 多分これを逃したら付き合うか結婚するまで出来ないようなことも出来るよ?」


「……しないもん」


 流歌がそっぽを向きながらそう言うと、梨歌が梨歌を優しく抱きしめた。


「姉さんのそういうとこが好き」


「なんか今日の梨歌素直」


「なにをしても平気な気がするからね。自分の気持ちに素直になってる」


 梨歌の言葉が嬉しくなり、流歌も梨歌を抱きしめた。


「姉妹の百合だ」


「ゆりか?」


「絶対わかって言ってるでしょ。百合はBLの逆だよ」


「それでわかったって言ったら、ゆりかがBLを知ってるって言ってるみたいじゃん」


「ゆりはBL好きじゃん」


「好きじゃないもーん、嫌いじゃないだけだもーん」


 いつの間にか出てきていた鏡莉と悠莉歌に気づいた流歌が梨歌から離れようとしたが、梨歌が離さない。


「もうちょっと」


「梨歌の甘えたなんて珍しいから嬉しいんだけど、離してよぉ」


「梨歌、離してあげてよ。るか姉もなっつんとやることやりたいんだから」


「それもそっか」


 鏡莉の言葉を聞いた梨歌が流歌を離した。


「だから私は入らないって」


「本当にいいの? すっごいいい気持ちになれるよ?」


 鏡莉が悠莉歌に「ね?」と言うと、悠莉歌も「うん!」と嬉しそうに答える。


「な、永継君が不純なことを……」


「るか姉が望めばなっつんもそういうことをしてくれるよ」


 鏡莉がそう言うと、流歌が立ち上がった。


「……こ、これは別に永継君にそういうことをして欲しいとかじゃないからね。私は永継君を信じてるけど、姉として確認の義務があるからだからね。それと、もしも永継君がそういうことをしてたら、私が叱らないといけないからだからね」


「別にそういう言い訳はいいから」


「るかお姉ちゃんはほんとにめんどくさい」


「るか姉、楽しんで来てね」


 みんなに見送られて、流歌は扉に手を掛ける。


 そして扉を開けると……。


「はぁ……」


 流歌が、盛大にため息をついた。


「私はなにを残念がってんの?」


 後少しで永継にそういうことをして貰えたかもしれなかったのに、ちょうどいいところで起きて悲しんでいる。


「別に悲しんでないし。あれ? 私は何に怒ってるの?」


 そんなよくわからないことを考えるのはやめた。


 そして夢のことはみんなには秘密にすることにした。


 少ししたら全員起きたが、芽衣莉は頬を赤く染めながらトロンとした目をしていて、梨歌は何かを思い出してうずくまり、鏡莉と悠莉歌は楽しそうに永継が早く来ないかの話をしていた。


 みんな何かあったようだけど、そこを深く聞くことは誰もしなかった。


 あれは所詮ただの夢なのだから。

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