第4話 悪口を言ったら謝りましょう
「悠莉歌ちゃん。宇野さん起きた?」
「るかお姉ちゃん? 起きないの」
晩ご飯を芽衣莉ちゃんと作り終えて後は盛り付けだけになったので、そちらを芽衣莉ちゃんに任せて宇野さんの様子を見に来た。
ちなみに献立は、お豆腐ともやししかなかったので、バキバキにしたもやしとお豆腐でお豆腐のお好み焼きを作った。
余ったもやしで次いでにお味噌汁も。
後、忘れずにお粥も。
「るかお姉ちゃん、元気になる?」
「大丈夫だよ。息も落ち着いてきたし、もう少し休ませてあげよ」
「うん。るかお姉ちゃん、いつもなにかしてて休んでなかったの」
学校で聞いた噂でも、先生のお仕事を手伝っていたり、誰かが困っていたら助けたりと言い出したらキリがない程に色々と聞く。
「ご飯、できましたよ」
盛り付けが終わった芽衣莉さんがお盆に載せてご飯を運んできてくれた。
「手伝うね」
「こ、これくらい一人で大丈夫です。篠崎さんは流歌さんを見ててくれませんか?」
「じゃあお願い。宇野さんの事は僕と悠莉歌ちゃんに任せて」
「せて」
悠莉歌ちゃんが立ち上がって胸を張りながら言った。
それを見た芽衣莉さんが「頼もしいです」と笑顔で言ってくれた。
「悠莉歌ちゃんは熱出た事ある?」
「あるよー」
「その時に宇野さんって何かしてくれた?」
「んーとね。ずっとおてて繋いでくれた」
「じゃあ悠莉歌ちゃんもやったら宇野さん治るかな?」
「やる!」
手を繋いだら治るなんていうのは、一種のおまじないみたいなものだけど、信頼できる人に手を握ってて貰う事は安心できるから効果がないとも言えない。
「お兄ちゃんもやる?」
悠莉歌ちゃんが宇野さんの手を両手で握りながら僕に聞いてきた。
「僕だと安心できないんじゃないかな?」
「でもゆりかお腹空いたからご飯食べに行きたい」
「正直だ。じゃあ僕が見てるから行ってきていいよ」
「その間はお兄ちゃんがやるの!」
悠莉歌ちゃんが宇野さんの手を僕の方に伸ばす。
「るかお姉ちゃんが起きちゃうよ」
「策士だ。わかった」
悠莉歌ちゃんから差し出された宇野さんの手を僕が優しく握る。
(小さくて柔らかい手。華奢って言うのかな?)
でも少し肌が荒れていたり、ペンだこなどもあり、頑張っている人の手なのがわかる。
「無理しすぎたら駄目だよ」
眠る宇野さんに優しく告げる。
「なんかいい雰囲気を
「どうしたの梨歌ちゃん?」
梨歌ちゃんがとても気まずそうに僕に声を掛けてきた。
「一緒に食べないの?」
「だって宇野さんの家の食材だから」
「作ったのは篠崎さんでしょ?」
「芽衣莉ちゃんだよ?」
僕は作り方を教えただけで、実際に作ったのは芽衣莉ちゃんだ。
「屁理屈言うなし。姉さんを見ててくれるのは嬉しいけど、ここまでしてくれた篠崎さんが蚊帳の外なのは気が引けるの」
「一緒していいの?」
「むしろそうして。姉さんは放置したらコロッと起きるかもしれないし」
「そうなの?」
「意外と寂しがり屋なの」
梨歌ちゃんが優しい笑顔を宇野さんに向ける。
「じゃあお言葉に甘えるね」
宇野さんに「早く元気になってね」と告げてみんなのところに向かった。
「芽衣莉は最初から一緒に食べるつもりだったから篠崎さんの分も用意してたんだよ?」
「そうだったの? ありがとう芽衣莉ちゃん」
「い、いえ。篠崎さんにはご迷惑をおかけしているので、お返しにはなりませんけどせめて」
「十分過ぎるよ。ほんとに……」
僕は思わず泣いてしまいそうになったのを堪えた。
(家族での食卓ってこんな感じなのかな……)
そんな事を思いながらみんなで「いただきます」をした。
すると僕の隣に悠莉歌ちゃんがやってきた。
「お兄ちゃん、座っていい?」
悠莉歌ちゃんが僕の足を指さして言う。
よくわからなかったけど、正座を崩してあぐらになり悠莉歌ちゃんを座らせた。
「悠莉歌あんた……」
「るかお姉ちゃんにいつも食べさせて貰ってたの。だからね、食べさせて」
「いいよ。芽衣莉ちゃん、悠莉歌ちゃんのご飯達取って貰っていい?」
「あ、あの、ご迷惑ですから断って貰っていいですよ? 悠莉歌ちゃん、私が食べさせるんじゃ駄目?」
悠莉歌ちゃんは「お兄ちゃんがいい!」と言って僕に抱きついてきた。
「僕はいいよ? 甘えたいお年頃なんだよね」
「本当にごめん。姉さんが甘やかしすぎて」
「大丈夫だよ。まだ危ないもんね」
悠莉歌ちゃんの年齢は知らないけど、一人で食べさせるにはまだ不安が残る年齢に見える。
「来年からは小学生なんだから今だけだよ?」
「りかお姉ちゃんもして欲しいからってゆりかを責めるのだめだよ?」
「あんた後で説教するからね」
梨歌ちゃんがとても怖い笑顔を悠莉歌ちゃんに向ける。
悠莉歌ちゃんは「るかお姉ちゃんに言いつけるよ」と物怖じせずに梨歌ちゃんを脅している。
「悠莉歌ちゃんって精神年齢高い?」
「梨歌ちゃん限定です。多分梨歌ちゃんの真似をしてるんだと思います」
芽衣莉さんのその言葉に少し納得した。
確かに小さい梨歌ちゃんのように見える。
「悠莉歌ちゃんは梨歌ちゃんが大好きだもんね」
「一番はるかお姉ちゃんだよ?」
「そこは素直に『うん』って言いなさいよ」
「りかお姉ちゃんと違って素直なの」
梨歌ちゃんの機嫌がどんどん悪くなっていくのがわかる。
「いつもは宇野さんが止めてるの?」
「そうですね。でも止めると言うよりは、流れ弾を受けて落ち込んだ流歌さんを梨歌ちゃんと悠莉歌ちゃんの二人で慰めてる感じですね」
「想像するだけでかわいい」
宇野さんとはちゃんと話した事がないからどういう人なのかは噂でしか知らない。
でもみんなから聞いた宇野さんの人物像は真面目だけど、空回りも多い感じだ。
学校の噂では完璧超人のように思われるけど、実際は天然さんなのかもしれない。
「篠崎さんと少し似てるんですよ」
「宇野さんと?」
「はい」
それを聞いた梨歌ちゃんが「天然なとこは確かに」と言って、悠莉歌ちゃんが「優しいとこと真面目なところも」と言った。
僕としては、自分を天然とも優しいとも真面目とも思わないからわからない。
「なんか宇野さんと早く話してみたい」
「もう少し楽しそうにしてたら起きるでしょ。それより冷める前に食べよ」
「そうだね」
「いただきます」をしようとしたけど、そういえばさっきやったのを思い出した。
芽衣莉ちゃんから悠莉歌ちゃんのご飯とお味噌汁を受け取り、切り分けられたお豆腐のお好み焼きを一口大に箸で切ったものを悠莉歌ちゃんの口に運んだ。
「あーん」
「あーん」
「どう?」
悠莉歌ちゃんがもぐもぐと食べる。
飲み込んだ後も無言が続く。
「美味しくなかった?」
「……おいしい」
悠莉歌ちゃんが真顔で僕を見てきた。
「良かった」
悠莉歌ちゃんの口には合ってくれたようだ。
芽衣莉ちゃんも「おいしい」と口元を押さえながら言ってくれた。
梨歌ちゃんは無言だ。
「りかお姉ちゃんがまたひねくれてる」
「梨歌ちゃん。篠崎さんに失礼ですよ」
僕が来た時に言ってたのとは明らかに違う芽衣莉ちゃんの声だ。
「いや、違くてね。美味しいんだよ。美味しいんだけどさ……」
「私は言わないよ」
「ゆりかも言わない」
「だから私も抑えたんでしょ」
みんな何か思う事があるようだ。
「不満なら言って。味の誤魔化しならできるから」
「美味しいのはほんとなの。ただ美味しすぎるってだけで……」
「つまり?」
梨歌ちゃんがちらっと宇野さんの方を見た。
「……姉さんの料理より美味しいって思っちゃっただけと言いますか」
「流歌さんのお料理も美味しいんですよ。ただ節約なのか薄味で」
「お兄ちゃんの方が美味しい。だからもっと」
なんだか罪悪感がすごい。
美味しいと言って貰えたのは嬉しいけど、宇野さんが寝ていて良かったと思った。
「でも篠崎さんも多分使う調味料の量って減らしてましたよね?」
「人の家だといっぱい使う訳にもいかないし、濃すぎる味付けは女の子は嫌かなっておも……」
言ってる途中で背後から音がした。
詳しく言うと寝返りを打ったような、枕に顔を
「みんな、いい?」
「準備はしてた」
「私もです」
「ゆりかは悪くないよね?」
「悠莉歌ちゃん、ご飯抜きにするよ」
「ゆりかも準備万端」
みんなで一斉立ち上がって、うつ伏せになっている宇野さんの前に横並びに正座して。
『すいませんでした』とみんな一斉に土下座した。
「……や」
宇野さんからはとても弱々しい否定の声が返ってきた。
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