十七、思ったより早く済んでしまいました
昼食を終えてから村へ戻ることになった。
調査は鳳凰に会ったことで、あっという間に終わってしまったから。
早すぎてあまり冒険した気はしないけど、これはこれでいいのかもしれない。私が冒険をしたいと言ったらもれなく黒竜王も一緒で、そうなると眷属たちも一緒に出かけることになってしまうから。
「もー、自分で歩きたいのに!」
「危ないですから、ね」
なんだかその図におかしなものを感じてしまい、王を見た。
「如何した?」
「ええと、明和は女性、ですよね?」
「……眷属の性質は梅玲様にお伝えしたはずです」
後ろから
「……そ、それは……」
「まだ玉玲殿は成人されていませんので、明和も女性の姿のままでいるのかもしれません。こればかりは本人に聞かなければわかりませぬが」
「えええーーー……」
確かに黒竜王の眷属は美しいし頼もしいとは思うけれども、それはそれでどうなのだろう。
「
「はい。妻がおります」
前を歩いている成和が返事をした。眷属は夫婦共にいたいということはないのだろうか。今回はすぐに戻れそうだけど、何日も王に付き従っていく仕事というのはどうなのだろう。
「私たちはすでに結婚してから二百年は経っておりますので、一、二か月会わなくてもどうということはありません」
なんとなく私の考えていることが伝わったのか、成和が補足する。
「二百年!?」
人であればとっくに土に返っている時間である。
「一応結婚記念日だけは共に過ごすことになっておりますので、その日だけはご容赦いただきたいですが」
「それは聞いている」
王が答えた。
行きは暗くて気づかなかったが、村へ続く道にもたくさん薬草が生えていた。もちろん食べられる草もだ。キュー、キューイと鳴いて橙紅が教えてくれた。
「いいわね、ここは……」
貧しかった村とはえらい違いだと思った。あの村はこちらの地域よりも寒いのだろう。ここも涼しいが、村は夏でももっと涼しかった。
そんなことをしている間に村に着いた。案内役の村人はとても疲れたような顔をしていた。ご苦労様と思った。
「もう帰ってきなさったのか。それで、どうでした?」
村の門をくぐると、たまたま村長が表に出ていたらしく駆けつけてきた。
「調査は無事終了した。協力に感謝する。調査結果につきましては冒険者
成和は村長に拱手した。案内役の村人には謝礼は渡してあると言っていた。
「そ、そうですか……ですが、その……」
村長は何か言いたそうだった。もっと何かないかと言いたいのだろうけど、相手は黒竜王の眷属だから何も言えないのだろう。
「現時点では変化した植生に異常は見受けられない。ただし、今後はわからぬ」
王が補足した。
「あ、ありがとうございます」
村長はバッと平伏した。
「では町へ戻りましょう。王、よろしくお願いします」
「うむ」
玉玲を下ろし、成和と明和が建物を村の外へ運ぶ。私はまた黒竜の姿となった王の背に乗り、そうして安生町へと戻った。
町の門では村に連絡に来た眷属が待っていた。
「お戻りを、お待ちしておりました」
王が変化し、人の姿になる。その時には毎回私を抱き上げているのだからよくわからない。王はどうしても私を下ろしたくないようだ。頬が熱くなってしまったけど、薄絹がかかっているから王以外に見られないことが幸いだった。
橙紅は毎回いきなり落とされるかんじなのか、ギュイー! と王に抗議している。それを翠麗が捕まえた。キュイイー! と橙紅が鳴く。橙紅は翠麗が苦手みたいだった。
「冒険者公会に向かう」
「はい、どうぞこちらへ」
町の外に建物を置き、眷属が用意してくれたであろう馬車でまっすぐ公会へ向かう。
「依頼を完了しました」
成和が紙を提出した。受付にいた男性が慌てて二階へ上がる。そして会長が顔を覗かせた。
「もう調査依頼を終えてきたんですかい? さすがですな! 上へどうぞ」
会長に促され、みなで二階へ上がる。明和が玉玲を抱き上げようとして怒られていた。
「申し訳ありません、つい……」
「ついで抱き上げようとしないでよ!」
玉玲の顔が真っ赤だ。眷属はなかなかに過保護みたいだった。橙紅は遠慮なく私のおなかの上に飛び乗り、王に微妙な顔をさせる。
そうして二階の応接間に通され、成和が今日の調査結果について報告した。
会長は難しい顔をした。
「鳳凰が絡んでいたとなると、いずれ植生が元に戻る可能性もあるんですね?」
「すぐには変わらないでしょうが、何年後かにはいずれ」
「そうかー……」
会長は頭を抱えた。
「わかりました。依頼主に調査結果は伝えます。その上で王に話が上がることはあるかもしれません」
「我はかまわぬ」
王は鷹揚として答えた。私にはわからないけれど、王はこの調査結果によって何が起こるのかすでにわかっているみたいだった。
依頼は無事完了したということで、依頼達成の報酬は王が受け取った。
公会を出ると、すでに西の空が赤くなっていた。
「今宵はこの町で逗留し、明日の朝にでも出立しよう」
「御意」
会長から教えてもらった別の
「魚なんて……王都に行ってから初めて食べたけど、おいしいものね」
玉玲が呟いた。あの村の側にも川はあったけど、私たちは魚なんて捕らせてはもらえなかった。
「そうね」
「魚が好きか」
王に問われて、「はい、好きです」と素直に答えた。橙紅も肉をもらってご機嫌である。
冒険というかんじではなかったけど、王とこうして出かけられたことがとても嬉しかった。
ーーーーー
また明日~
明後日には一部完結します。よろしくー
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