十八、朝市に顔を出してみました
私は冒険家だった父に憧れて、そしてつらい現実から目を背ける為に冒険を求めていたのかもしれない。
冒険者公会に登録したし、実際に依頼も受けて遂行した。(主に王が)
これ以上の我がままはもう、言ってはいけない気がする。
「
明日には王都へ戻る。だから今夜話さなければいけないと思った。
寝室に運ばれて、そういう雰囲気になる前にと私は声をかけた。
「如何した?」
「私の我がままに、冒険に付き合っていただき、ありがとうございました」
建物の寝台の上に優しく横たえられた状態である。王は私が愛しくてならないと言ってくれる。王にとっての伴侶とは、片時も離したくないし、ずっと抱いていたい存在なのだと何度も聞いた。
「此度はそれほどでもなかっただろう。今回の依頼は
王はとても優しい。
「その……もう大丈夫です」
「何が大丈夫なのか」
「氷流様は黒竜王です。私の我がままで連れ出していい御方ではありません」
王は口元をクッと上げた。
「そなたは……そうやって今までずっと我慢してきたのだな」
「我慢などしておりません……」
「よい。ならばこれからは我の我がままとしよう。子を成すことは急ぐことでもない。
「はい……」
きつく抱きしめられた。嬉しくてたまらない。
「我と共に、この世界を冒険者として巡ってはくれぬだろうか」
「氷流様っ!」
王に抱き着いて、私は涙をこぼした。どうしてこの方はこんなにも甘くて優しいのだろう。
「はい、はい……氷流様、大好きです……」
「……そなたは我を煽るのがうまい」
それからは大人の時間だった。
翌朝、朝食をいただいたらすぐに出立するものかと思っていたけれどそういうわけではなかった。
朝市があると知らされたので朝食は軽めにいただき(それでもけっこうな量があった)、王に抱かれて町の市が開かれている通りを散策した。
屋台が並んでいて、人が沢山歩いている。そんな中を抱き上げられて進むのは邪魔ではないかと思ったけど、みな普通に避けていくのが不思議だった。
「食べたい物や見たい物がございましたらお声掛けを」
先を進む
今回の調査依頼で王が受け取ったお金は全て私にくれるという。好きに使えと言われて目を白黒させた。王はお金には全く困っていないらしいから、押し問答をするのもなんなのでとりあえず私が受け取ることにした。
「あの串焼きが食べたいわ!」
「
「ありがとう……」
串焼きを一本受け取ってしまった。玉玲はにっこりと笑む。
「氷流様、一緒にいただきましょう」
「そなたは優しいな」
道の端に寄り、
「両手が塞がっている。そなたが食べさせてくれ」
「はい」
串を王の口元に差し出して食べてもらう。あとは私と橙紅で一口ずつ食べたらなくなった。少し硬かったけれど肉の味がしっかりしていて、おいしかった。
「こういうのもいいな」
「はい」
王の口元を布で拭う。どうしてこんなに愛しいのかわからない。でもこんなちょっとしたことが楽しくて、王と一緒にいられて幸せだと思った。
それからちょっとした飾りを売っている店を見たり、翡翠を扱っている店を覗いたりした。
屋台である。翡翠と謳ってはいるが、あれはニセモノですと翠麗は容赦がなかったが、ニセモノでも綺麗だったからかまわなかった。王に髪飾りを買ってもらったりして、とても楽しく過ごした。
「次は商人を呼ぼう」
「そんな……これで十分です」
私は表に出ることはまずないから、それほど飾りなども必要ないと思う。
「我がそなたに贈りたいのだ」
「そ、そういうことでしたら……」
「あーもう甘すぎるっ! 勘弁してっ!」
玉玲からとうとう苦情を受けてしまった。母へのお土産は、いつのまにか翠麗と成和が用意してくれたらしい。この辺りのお菓子だというそれは、胡麻がまぶされた丸くてかわいいものだった。そういえばこんなお菓子というものも父がいた時に食べたきりだったと思い出した。
王には本当に、いろいろなものを与えてもらっている。少しはお返しができたらいいのだけど。
そうして今度こそ、竜に変化した王の背に乗って王都へ帰ったのだった。
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昼頃もう一話上げますー
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