十六、植生が変わった理由とは ※補足説明を追加しました(9/4)

「どうして鳳凰が、植生変化の原因となるのですか?」


 私には皆目見当がつかなかった。何がどう繋がるというのだろう。

 黒竜王は私を当たり前のようにまた抱き上げる。やっぱり下ろすのは嫌らしい。


「鳳雛であればそこまでの影響はないが、鳳凰となると別だ。鳳凰が住みつくことでその辺りの生態が変わってしまうこともある。だからこそ鳳凰は東の泰山に住まわされていた。そうだな?」


 鳳凰は頷いた。


『はい。ただ全く他の地域を飛んではいけないという決まりもありませんでしたから、あの日私はこの国を飛んでいたのです』

「それで卵をどこかへ生み落としてしまったというのか」

『そうなのです。いくら鳳凰の卵とはいえ、強い魔鬼に遭遇してしまえば餌となってしまってもおかしくはありません。ですので本来ならば泰山に戻らないといけないことはわかっていましたが、こちらの国に留まらせていただいておりました』


 鳳凰の話では、この地がちょうど住みやすかったことから十年程前からここに半ば定住しているらしい。それでこの辺りの植生が変わってしまったのではないかという話だった。

 鳳凰が住みつくことで植生が変わるというのも不思議な話だと思う。詳しく聞けば、鳳凰は普段から光と熱を自ら生み出しているという。植物が育つには光と、育つだけの栄養が必要だ。例の木の葉の生え変わりが早くなったのは、鳳凰の光と熱によって木が木の葉を作る力が増したのではないかという話だった。

 この辺りがあんなに明るかったのは間違いなく鳳凰の影響だった。日照時間が増えたことで、木が木の葉を頻繁に作れるようになったのだろう。


橙紅チョンホンは、これからどうなるのでしょうか? 連れて帰られるのですか?」


 不安に思って鳳凰に聞けば、鳳凰は首を振った。


『いいえ。我が子は鳳雛です。成鳥となった暁には泰山に移り住まわせることも考えなければいけませんが、今はまだこちらにいてもかまいません。どうしますか?』


 キュイー、キュキューッ!

 機嫌良さそうに橙紅は鳴いた。私の側にいてくれるらしい。ほっとした。


『ほう、黒竜王から伴侶を奪い取りたいと……』

「ええっ?」

「まだ諦めておらぬのか」


 王が嘆息する。鳳凰はじろじろと橙紅を見た。


『……ふむ。随分とおいしいものを食べすぎて丸くなっているようですが……』


 橙紅は衝撃を受けたように目を見開いた。

 キュ、キュイイイイイ……


『そんな姿で王の伴侶を奪い取ろうとはとてもとても……』


 鳳凰は容赦がなかった。橙紅が涙目になる。


「ま、丸いのもかわいいと思うわ」


 やはり気のせいではなく、実際に丸くなっていたらしい。


「そなたはこの先どうするつもりか?」


 王が鳳凰に聞いた。


『冬になりましたら泰山へ戻ろうと思います』

「ならば、戻る時は一度王都へ寄るように」

『かしこまりました』


 鳳凰は丁寧に頭を下げると、山の上の方へと飛んで行ってしまった。もっと橙紅と一緒にいたいものなのかと思ったけど、そういうものではないらしい。橙紅は王の足元へ戻ってきた。

 キュイー、キュー!

 私を下ろせと王に要求しているようだった。


「随分と簡単に済んでしまったが……」

「あのぅ……差し支えなければもう少し散策させていただいてもいいですか?」

「何故だ?」


 これですぐに帰るなんて味気ないし、用事が済んでしまったなら王と少しゆっくりしたいと思ったのだ。


「ええと、その……氷流ビンリュウ様と少し歩きたいと思いまして」


 頬が熱い。希望を口にして、すごく恥ずかしくなった。


「……わ、忘れてください」

「……せっかくの妻の頼みだ。そうだな、昼過ぎまではここで過ごそう。よいか?」


 そっと下ろされて、とても嬉しくなった。成和チョンフアがまだへたり込んでいる村人を立ち上がらせ、そうしてもいいかと聞いた。村人はかまわないという。

 石や岩が多くでこぼこしているが、ところどころに薬草や食べられる草が生えていて面白かった。王に手を繋いでもらいながら、橙紅と共にいろいろ探した。


「これは傷に効く薬草で、まぁ……これは石鹸の実! すごいわ……」


 元いた村の植生もこんなによかったら、どんなに暮らしが楽だったろうと思うぐらい有益な植物が生えていた。けれど村人たちは木の方ばかり気にして摘もうともしない。

 それともこの草たちも植生が変わって生えたものなのだろうか。


「これらは、植生が変わってから生え始めたのでしょうか?」


 成和を通して聞いてみたが、わからないという返答だった。確かに気にしていなければわからないかもしれない。

 それにここではどれぐらいの期間で生えるものなのかもわからない。

 玉玲ユーリンは花が気になるみたいだった。もちろん勝手に摘んだりはしない。


「そろそろ昼食にいたしましょう」


 翠麗ツイリーに声をかけられて、もうそんな時間かと驚いた。王がまた私を抱き上げる。かまわないのだけど、毎回嬉しくも恥ずかしくも感じられるからどんな顔をしたらいいのかわからない。

 そういえば成和と翠麗は何やら大きな籠を背負ってきていた。その中にお茶や食べ物などを運んできていたようだった。

 眷属たちは当たり前のように敷物を敷いた。そこで昼食をとる。村人たちにも食べ物を渡し、感謝されていた。

 饅頭マントウの間に肉と野菜を挟んだ物や、肉包(肉まん)、菜包(野菜まん)が用意された。それだけでなく野菜がたっぷり入ったスープも出された。どれも不思議と温かくておいしかった。これらにも全て竜力を使っているのかもしれない。私には考えられないことだった。

 橙紅はそこらへんの草をおいしそうに食んでいた。


「贅沢ですね」


 ここでこんなにおいしいものが食べられるなんて。王はじっと腕の中にいる私を見つめ、こう呟いた。


「……何故そなたはそんなに愛らしいのか」

「はいっ!?」

「……いちゃつくのはよそでやってー……」


 玉玲がげんなりしたような顔をした。



ーーーーー

補足説明

常緑樹も葉は生え変わっています。光合成を如何に効率的に行うかというサイクルで生え変わっているので、気候が変わることにより葉の生成が早まる、遅くなることが考えられます。


参考:

常緑樹と落葉樹

https://www.shinrin-ringyou.com/topics/jyouryoku.php

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