第14話 青いレインコート

高校時代のクラスメイトである、Bくんに聞いた話である。

Bくんの家は田舎にあり、学校までは毎朝片道5キロを自転車で漕いで通っていた。

通学路は特になんの変哲もない田舎道だったが、その途中で古い木造の廃校があった。

この廃校はBくんの祖父の代で、過疎化に伴い学校が合併された事によって廃校になった場所だった。


高校3年生の夏の終わり。

Bくんは朝、廃校を通りがかる時に変な人を見かけるようになっていた。

校舎の屋上に、青い服を着た人が微動だにせず立っている。その人はまるでマネキンのようにぴくりとも動かない。

その人を見かけるのは朝の5時、6時くらいの早朝だった。夕方になり、家に帰る頃にはその人はもう居ない。

最初はそれだけだった。

しかし、数日たってBくんは違和感に気が付き始めた。

その人が、徐々に近づいて来ているのである。

最初は校舎の屋上、次は窓から、じっとBくんの方を向いて立っている。

流石になんとなく気味悪くなってきた。

しかし、両親に相談しても軽くあしらわれるだけだし、別に特に何かをされたわけでもない。

Bくんはなるべく気にしないようにして、その場所を走るようにしていた。


ある日の朝、いつものように廃校に差し掛かったBくんは強い視線を感じた。

恐る恐る視線の方に目をやると、グラウンドにあの青い人がたっていた。

その姿は異様だったという。

薄っぺらい青いレインコートを着てフードを目深に被っている。顔はよく見えないが、レインコートから出た足は裸足で骨のようにやせ細っており、まばらに痣のようなものがあるのが見える。

それがじっとBくんの方を向いて立っているのだ。

Bくんは背筋が寒くなり、足早にその場を離れた。

この時に彼は、あれが自分を見ている事、自分に近づいて来ている事を確信したという。


更に数日後の朝。

Bくんはなるべく廃校の方を見ないようにして自転車を漕いでいた。

もし、廃校の方を見てしまえば、きっとあの青いレインコートの何者かの顔がはっきり見えてしまうだろう。何故かはわからないが、それだけは避けたいとおもった。

目を伏せて、必死に自転車を漕ぐ。

ちょうど廃校のフェンス前に差し掛かるその時だった。


ガシャン!!!

と、フェンスに何かが突進して、ぶつかる音がした。

驚いて、音の方を見てしまったBくんはすぐに後悔した。

青いレインコートを着た何者かがそこにいた。


それは人ではなかった。

しわしわに干からびた手でフェンスをつかみ、ガシャンガシャンと金網を揺らすその顔は、目や、鼻や、口がありえない場所についていた。

そいつが、Bくんに向かって何かを叫ぼうとする。

その瞬間、クラクションが鳴った。


Bくんは驚いて後ろを振り返った。

クラクションの主は、軽トラに乗ったBくんの祖父だった。

忘れ物を届けに来たのだという。

『ついでに乗ってけ。送ってやるから』

戸惑うBくんをよそに、Bくんの祖父は自転車を軽トラの荷台にのせ、Bくんを助手席に座らせ学校へ送っていったそうだ。

その時にはもう、あのレインコートの何者かは消えていた。


あれ以来Bくんは、廃校の前を通るのをやめ、別の道にある駅から電車で通学している。

満員電車は大変だが、またあの廃校前を通ると、今度こそあの青い男と鉢合わせそうで、怖いのだという。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る