第3話 透明なチューブ

私が来た頃には、リビングに小さなソファがひとつだけあってね、そこには

ジィジが座っていた。


ソファの背もたれの下の空間は、片側が開いたトンネルみたいで、小さな私がもぐって進むにはちょうど良かったの。腹ばいでずんずん進むのが楽しかったわ。


ジィジは、ごはんの頃に隣の部屋から出て

ここに座って、食卓にご馳走が並ぶのを待っていたわ。

ジィジの行く所にはいつも透明なチューブがあった。

正確に言えば、ジィジの鼻の穴にチューブの先がくっついていて、隣の部屋に置いてある在宅酸素濃縮器の酸素を吸っていたらしい。

ジィジは肺の病気で、それが無いと生きられないから、私もチューブに足が絡まないように気をつけたわ。


ごはんの時にみんなが揃うことはめったになくて、ゆっくり時間をかけて食べるのはジィジとバァバだけ。

食べる時はジィジも鼻のチューブを取っていたわね。

バァバがおかずの説明をしながら、少しでも多く食べられるようにしていたわ。


ごはんが済むと、バァバと母さんが3つの白い袋からパチンパチンと粒のお薬を出して、小皿に入れる。呼吸器、耳鼻咽喉科、心療内科のお薬ね。


前はジィジが自分でやっていたらしいけど、ある日「薬が多すぎてワケがわからない」と怒って悲しんで、それからは飲むだけがお仕事になった。


のどにガンもあったけれど、手術や抗がん剤治療をするのも体力的にムリで、心もすっかり沈んでいたジィジ。

私も、どうすることもできなかったわ。


ある日ジィジは家で作る酸素の量ではムリになって、入院しました。


この先どうするか。入院1日目はバァバが付き添うことにして、母さんはホスピスケアをしてくれる所に出向きました。

珍しく家に帰ってきた、ナナミさんのお兄ちゃんと一緒に。


やれやれとその病院を出た途端に、バァバの電話が入りました。

「ちょっと前に、ジィジ亡くなった」って。


見上げた空は、青一色。

お家を離れて18時間、秋晴れの正午のことでした。



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