第6話 陰陽師の弟子入り
「董禾、相談とお願いがあります」
「話はお聞きしますが、願いは受け付けません」
朝餉の席。
高杯を向い合わせで並べて晴明と董禾は座っていた。
無表情で淡々と返す董禾に、晴明も笑みを崩さずに告げる。
「まあ、そう言わずに」
「どうせ、碌な事ではないでしょう」
「そんな事はありませんよ。私は新たに弟子を取ろうと考えているのです」
「それは結構ですが、無論ご自身で面倒を見るのでしょうね?」
「流石は董禾ですね。貴方にお願いを」
「お断りします」
「まあ、そう言わずに」
「弟子を取りたいのであれば、いい加減ご自身で面倒を見られたらいかがです?」
「まあまあ。私はこれでも、貴方の腕を信頼しているのですよ」
「話になりませんね」
「それで、緋眼を迎え入れようと思うのです」
「勝手に進めないでください」
マイペースに話を進める晴明に、董禾も淡々とながら言葉を返す。
「貴方も彼女の力の片鱗を見たでしょう。あれを放っておく訳にはいきません」
「ならば尚の事。師となる貴方がご自分で面倒を見てください」
「私は貴方の人を見る目をとても評価しています。そんな貴方に彼女を見極めていただきたいのです」
「そう仰いますが、今まで迎え入れた奴はどいつもこいつも半刻も持たなかったではありませんか」
「そうでしたねえ。残念でした」
「言っておきますが、私は女だからと言って加減はしません。女だから特別扱いしろと言う事であれば、他を当たってください」
「勿論、そこは貴方のやり方で構いませんよ。その方が彼女の為でもありますからね」
「ではお約束ください。あの女が続こうが続くまいが、弟子の面倒を押し付けるのはこれで最後にしていただきます。それをお約束いただけるのであれば、今回はお引き受けします」
「分かりました。他ならぬ愛弟子の頼みですからね。お約束しましょう」
「では、書面を作成しますので暫しお待ちください」
「約束しますと言っていますよ」
「貴方の言葉は当てになりません。書面で証拠を残させていただきます」
董禾は立ち上がるなり廊下に向かった。
「どうせ、あの女も直ぐに音を上げますよ」
そして、吐き捨てるように言ってから部屋を後にした。
「さて、それはどうでしょうねえ」
そんな董禾とは対照的に、晴明はどこか楽しそうに笑みをこぼした。
「ん……」
御簾から漏れる光で緋眼は目を覚ます。
少しの間まだ頭が覚醒しなかったが、少しずつ覚醒してきた頭で自分は昨日いつ寝たんだっけなと思いながら起き上がろうとして、全身の痛みに顔を歪めた。
「い…たい…」
「緋眼、大丈夫カ?」
ロトが声を掛けるが、全身の節々まで痛む体に緋眼は蹲ろうとして、手を握られている事に気付く。
その先には彩耶香がいた。
「彩耶香チャン、ズット付キ添ッテクレタ」
どうして彩耶香がいるのだろうと思う前に、ロトが説明してくれた。
彩耶香はまだ寝ているようで、目は閉じられたままだ。
しかし、その目には泣いたような痕があった。
「彩耶香ちゃんに何かあったの?」
「緋眼殿、お目覚めになりましたか?」
ロトに問おうとすると、御簾の向こうから弥彦の声がした。
弥彦は一言声を掛けると御簾を上げた。
緋眼は体の痛みに堪えながら起き上がる。
「弥彦様…、彩耶香ちゃんに何かあったんですか?」
「姫には…何も。緋眼殿、お体の具合はいかがですか?」
弥彦の問い掛けに緋眼は不思議に思うが、目を覚ましてから身体中が痛い。
弥彦はその事について何か知っているのだろうか。
緋眼は話してみる事にした。
「その…少し痛みます…」
「少シカ?」
「う……。痛い…です…」
それを聞いた弥彦は申し訳なさそうに目を伏せた。
「緋眼殿、昨晩の事は覚えておられますか?」
「昨日…?」
次ぐ質問に緋眼は首を傾げながら記憶を手繰り寄せる。
そう言えば、昨晩は何をしていたっけ。
「清水寺行ッタノ覚エテルカ?」
「あ、うん…」
ロトの言葉で頼光達と清水寺に行った事までは思い出せた。
しかし、その先は全くと言っていい程思い出せなかった。
「昨晩、緋眼殿は怨霊に取り憑かれてしまったそうなのです。後程、頼光殿からもお話しがあるかと思いますが、緋眼殿の身を危険に晒してしまった事、先にお詫びいたします。申し訳ありません」
弥彦はその場で頭を下げた。
「え?あの…」
身に覚えのない事に、緋眼はただただ困惑するばかりだ。
この身体中の痛みは怨霊に取り憑かれたせいなのだろうか。
それならば痛みには納得だ。
それに今こうして緋眼がいると言う事は、頼光や晴明達が助けてくれたからなのだろう。
寧ろ、謝らなければならないのはこちらだ。
何か進展がある事を期待して付いていったはいいものの、足手まといになったと言う事ではないか。
「あの、弥彦様。どうか頭を上げてください」
尚も頭を下げたままの弥彦に緋眼は声を掛けた。
「怨霊に取り憑かれたのは皆様のせいじゃないです。寧ろ取り憑かれたりしてしまって、申し訳ありませんでした」
申し訳なくなった緋眼は、弥彦に頭を下げた。
「何を言うのですか!緋眼殿は何も謝る事ではありません。守る事をお約束しながら役目を果たせなかった、こちらに非があるのです。ですから、姫もその事でお怒りでした」
「彩耶香ちゃんが…?」
弥彦に頭を上げるよう促された緋眼は、そのまま己の手を握って眠る彩耶香を見た。
「姫は緋眼殿を危険に晒し、怪我までさせた皆様に抗議されたのです。そして、緋眼殿を案じて一晩お過ごしになられたのですよ」
弥彦から説明を聞き、緋眼は握られた手にギュッと力を込めた。
彩耶香は清水寺に行く事に賛同していなかった。
緋眼の身も案じてくれていた。
こうして心配まで掛けてしまった事に申し訳なくなると同時に、何だか胸が温かくなった。
「彩耶香ちゃん、ありがとうございます。心配掛けてごめんなさい…」
「ん…ひがん…?」
眠る彩耶香に声を掛けたのだが、その彼女の目がうっすらと開いた。
「緋眼!」
緋眼を認識した彩耶香はガバッと起き上がると緋眼に抱き付いた。
「緋眼…緋眼……」
「彩耶香ちゃん…」
体に痛みはあったが泣きながら緋眼の名前を呼ぶ彩耶香を、緋眼はしっかりと受け止めた。
「緋眼…どこが痛むの?」
「少し痛いだけでもう平気ですよ」
「もうあんな奴らの事、信用しちゃダメよ」
「彩耶香ちゃん…」
彩耶香を安心させようとしたが、次ぐ言葉に緋眼は返答に困ってしまった。
「緋眼は目を覚ましただろうか?」
そこへ頼光の声が割って入った。
頼光の声を聞くなり彩耶香は眉尻を上げる。
「緋眼。此度はそなたを守れずに危険に晒し、誠に申し訳なかった」
緋眼の姿をその目で確認すると、頼光と綱が廊下で膝を付き頭を下げた。
「謝るだけなら子供にだって出来るわよ」
彩耶香は冷たく言い放つ。
「姫の言う通りだ。如何なる責めも受けよう。だが、我々にはそなたらの力が必要なのだ」
頼光は頭を下げたまま告げた。
「あの…、頼光様達は何も悪くはありません。私は昨日怨霊に取り憑かれたとお聞きしました。付いていった身でありながらご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「何言ってるのよ、緋眼!危険な所に連れ出したのはこの人達よ!その上、怨霊ってのから守れなかったからこうなったんじゃない。貴女は何も悪くないわ」
頭を下げようとした緋眼の肩を抱いて彩耶香は言い放った。
「姫の言う通りだ、緋眼。そなたが謝る事は何一つない。もう二度とそなたを危険に晒さぬ事を誓おう」
「次があると思ってるの?」
「彩耶香ちゃん?」
「私達は元の世界に戻りたいの。化け物とかお化けなんて懲り懲りだわ。二度と関わらせないで!」
彩耶香の言葉に頼光達は言葉に迷っている様子で、逡巡した様に視線を泳がせてから口をキツく結んで目を伏せる。
すると、季武が静かに近付いて膝を付いた。
「頼光様、晴明殿がお見えです」
「分かった。緋眼よ。晴明殿からそなたの今後について大切な話がある。聞いてはもらえぬだろうか」
「大切なお話…ですか?」
「何を話すつもりか知らないけど、もう私達を巻き込まないでちょうだい」
「彩耶香チャン、ロト カラ、ロト ノ大切ナ人ノ事デオ話シタイ」
「なに…言ってるの?こんな時に…」
突然のロトの言葉に、彩耶香は困惑の表情を浮かべる。
「ロト ノ大切ナ人。彩耶香チャン、分カッテクレル」
「では、緋眼は此方へ」
「ま、待ちなさいよ!話なら私も」
「彩耶香チャン、大丈夫」
「ロト…?」
まだ食らい付く彩耶香にロトは止めに入る。
緋眼も話を聞くだけだからと心配する彩耶香に告げると、身支度を整えてから広間に向かった。
「緋眼、お加減はいかがでしょうか?」
季武に案内され広間に入ると、晴明からそう声を掛けられた。
広間には晴明と董禾が座っていた。
季武は話を聞かないのか、中には入らずどこかへ行ってしまう。
「大丈夫です」
本当はまだ身体中が痛かったが、痛みの原因はもう知っている。
助けてもらった身でありながら不要な心配を掛けぬよう緋眼はそう答えた。
「先ず初めに、貴女を危険な」
「あ、あの!お話は伺いました。怨霊に取り憑かれてしまった私を助けていただいて、ありがとうございました。そして、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
先に弥彦や頼光からも謝罪された事もあり、晴明にまでそうさせるのは気が引けた緋眼は、彼の言葉を遮って感謝と謝罪を告げた。
弥彦や頼光もそうだが、晴明に責任があるとは思えなかったのもあるからだ。
「貴女が謝られる事は何もないのですよ」
そんな緋眼の様子に晴明は困った様な表情を浮かべた。
「でも…私は何のお役にも立てなかったばかりか、ご迷惑をお掛けしてしまいましたから…」
「そんな事はありません。貴女の身を危険に晒してしまう事にはなりましたが、一つ分かった事があるのです」
晴明のその言葉に、緋眼は伏せていた顔を上げて彼を見る。
「今回の事で、貴女に呪術の才がある事が分かりました。それが厄災へ対抗し得る力になるかはまだ現段階では分かりません。ですが、貴女のその才を引き伸ばす事が今後に繋がるのではと考えています」
「呪術…ですか?」
急な話に緋眼は首を傾げる。
何がどうなって呪術の才能があると思われたのかは知らないが、呪術なんて緋眼には無縁の事だ。
よくフィクションで見られる魔法の様なものと言う認識しかない。
「貴女や姫の故郷では、呪術がまじないや儀式と言う形式的な形でしか存在しないとロトより伺っております。なので、貴女にとっては遠い存在かもしれません。ですが、此処では使用者の力量により体現し得る力なのです。私の元で陰陽道を学び、その力を極めてみませんか?」
「陰陽道…」
またもや話が大きくなった。
要するに、魔法みたいなものを勉強して身に付けないかと言うお誘いだろうか。
子供の頃ならば全く理解せずとも二つ返事で受けていそうな内容だが、緋眼はもうそんな歳でもなければ、呪術や陰陽道と言われてもピンと来ないのも相俟って返答に困る。
「お嫌でしょうか?」
鸚鵡返しだけできちんとした反応を見せない緋眼に、少し心配を滲ませた晴明が問い掛ける。
「あ、いえ…。嫌と言うよりは、頭が付いていかなくて…」
正直に話した。
感情云々よりは、実感も何もない雲を掴む様な話だからだ。
「突然のお話になりましたからね。それに、陰陽道を学び極める事は生半可な気持ちでは出来ません。本人の心持ちが何よりも大切になってきます。本来ならば強制する事でもないのですが、貴女は厄災に対抗する為の大切な姫君。ですので、貴女のその力を、私達の希望となり得る力を育ててほしいのです」
「彩耶香ちゃんは…彩耶香ちゃんにもそう言った力があるのですか?」
大きくなった話が自分に押し掛かる様な息苦しさを覚えて、思わず緋眼は彩耶香の名前を出した。
「今のところ呪術の才が見られたのは貴女だけです。ですが、彩耶香姫には彩耶香姫の何らかの力、役目があるものと私は見ております」
「………」
「陰陽道を極める為の修行は軽い気持ちでは出来ませんが、危険が伴う事はありません。そこは、安心していただけたらと思います。ですが、そう簡単には決められませんかね」
判断しかねている緋眼の様子に晴明は苦笑を浮かべる。
「私は一度帰りますが、今一度考えてはいただけませんか?貴女のその力が私達を助けてくださるかもしれません。厄災を乗り切る事が出来れば、貴女も彩耶香姫も故郷へと戻れる道が開くかもしれません。様々な可能性の為、貴女には重荷を背負わせてしまう事になるかもしれませんが、前向きにご検討いただきたいのです」
深く頭を下げる晴明を緋眼はただ見つめる事しか出来なかった。
それから少しの間、晴明の世間話を聞くと、彼は董禾と共に帰っていった。
ーー陰陽道を学ぶ。
こんな状態でなければ、かの有名な安倍晴明から教えてもらえると浮き足だっただろうか。
重い足取りで部屋に戻ると、そこにはまだ彩耶香と弥彦がいた。
「緋眼!」
彩耶香は緋眼の姿を捉えると、急いだ様子で近付いてきた。
「彩耶香ちゃん」
「何を…話されたの?」
彩耶香は今日はずっとずっと浮かない表情ばかりだ。
そんな彩耶香に緋眼は本当に申し訳なく思う。
一度座るように促してから、彩耶香には晴明から言われた事を全て話した。
「どうするの?」
黙って話を聞いていた彩耶香が緋眼に問い掛ける。
「まだ…どうしたら良いのか分からなくて…」
「やりたくないなら、やらなくて良いわよ。姫だか何だか知らないけど、緋眼が無理をする事じゃないわ」
彩耶香は緋眼の手を優しく握る。
彩耶香のその温もりがとても嬉しくて、緋眼も手を握り返した。
「ホント、これからどうしたら良いのって感じよね。元に戻れるかは分からないし、その間はこんな所にいなきゃいけないって事でしょ。もううんざりだわ」
「彩耶香ちゃん…」
「でもさ…、私達二人…二人だけど、一緒に…一緒に絶対帰れるよね…?」
彩耶香は握る手に力を込める。
それは、泣き出しそうになるのを堪えているように見えた。
「彩耶香チャンモ緋眼モ、ロト ト リネット ガ必ズ守ル。怖イモノカラ必ズ守ル。ダカラ、今出来ル事考エテ。自分ニ出来ル事実行シテ」
「自分に出来る事…」
ロトは彩耶香を慰めながら、緋眼を叱咤している様だった。
少なくとも緋眼にはそう思えた。
なかなか一歩を踏み出せない緋眼に、前に進めと言っている様に聞こえた。
確かに、よく分からないからと、実感がないからと臆病になっていても何も始まらない。
何も変わらない。
緋眼は姫ではないと未だに思っているが、もし晴明の言う通り呪術を身に付ける事が出来たら彼らの助けになれるかもしれないし、彩耶香を危険から守れる力になるかもしれない。
晴明達も分からない厄災については、やはりどうにか出来るものとは思えないが、元の世界に戻れない以上は此処で過ごさなければならない。
妖だとか怨霊だとかがいるのなら、呪術を身に付けていても困る事はない筈だ。
身に付けられればの話だが、何もしないよりはやってみる価値はあるだろう。
先程までのモヤモヤが嘘の様に緋眼は吹っ切れた。
「私、明日晴明様に会ってみます」
「緋眼…?」
「私が今出来る事をしてみます。元の世界に戻れる方法も見付けてみせます。だから、絶対に元の世界に帰りましょう!彩耶香ちゃん!」
彩耶香は驚いた表情を見せたが、緋眼の言葉にそれを次第に笑みに変えた。
僅かな悲しみも乗せて。
翌日、お昼過ぎには晴明は自宅に戻ると頼光から聞き、緋眼は弥彦に連れられて晴明の屋敷に赴いた。
弥彦は外で待っていると言い一緒に屋敷内へは入らなかった。
「さあ、上がってください、緋眼。お待ちしていましたよ」
「お邪魔…します…」
異様に気分の良さそうな晴明に招かれ、恐る恐る屋敷へ上がる。
廊下を歩くと客間と思われる部屋に通された。
「今、飲み物と董禾が来ますから」
「あの、どうかお構い無く…」
(飲み物と橘様がセット…)
晴明の言い様に突っ込みたくなる気持ちを抑えて、緋眼は促されるまま茵に腰を下ろす。
「白湯と菓子をお持ちしました」
「ええ、董禾も早く此方に来なさい」
晴明は白湯を出す董禾を急き立てる。
「それで緋眼。本日は例のお返事をいただけると言う事で良いですか?」
「あ、はい」
他に用事もないのだ。
別に驚く事ではないのだが、先に用件を言われ緋眼は少し身を固くする。
「そう固くならないでください。どんなお返事でも受け入れますよ」
「はい。あの…」
「はい」
「もしも、晴明様がご迷惑でないのでしたら、どうか私に陰陽道のご指南をしていただけないでしょうか」
「それは、弟子入りしていただけると言う事で間違いないですね?」
「はい。晴明様がご迷惑でなければ」
弟子入り?と一瞬思うものの、晴明の元で教えを乞うと言う事はそう言う事なのだろう。
そう自己解決した瞬間、晴明は緋眼に近付き手を握った。
「ありがとうございます。実を言うと断られてしまうのではと心配していました。でも、そのお言葉が聞けて安心しましたよ」
「此方こそ、こんな私に声を掛けていただいて、ありが…」
その時だ。
横から鋭い視線が突き刺さった。
その先にいたのは董禾だ。
(滅茶苦茶睨まれてるー)
緋眼を見る董禾の目は刃物の様に鋭く、絶対零度の冷たさがあった。
「ああ、改めて紹介しましょう。貴女の兄弟子となる董禾です。暫くは、私の代わりに彼が貴女の面倒を見て、陰陽道について教えてくれます」
「え?」
緋眼は思わず耳を疑った。
「董禾は非常に腕の立つ優秀な術師です。安心して彼から学んでくださいね」
「………」
晴明の言葉とは対照的に、董禾からは明らかに拒絶のオーラが放たれていた。
「大丈夫ですよ。董禾は私の愛弟子ですから」
晴明の底知れぬ笑みが安心どころか、緋眼の不安を一層掻き立てた。
これは引き受けてはいけない案件だったかもしれない。
今更そう思ってももう遅い。
晴明は、では明日の卯一刻に来てくださいね、と話を続けていた。
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