第4話 それぞれの家族と美味しいご飯
「不味い…、美味しくない」
此処へ来てから何日か経った夕餉の席で、漸く部屋から出られるようになった彩耶香が、出された食事を口にして眉をしかめた。
彩耶香はこの数日は緋眼の持っていた携行食やお粥を食べていたので、この世界の食事を口にするのはこれが初めてだった。
この世界では平安時代同様、料理自体に味付けがされている訳ではなく、
なので美味しく味付けがされている食事に慣れた緋眼や彩耶香の肥えた口に合うかと言えば、言わずもがなだ。
「姫の口には合わなかっただろうか」
「九条さん、この醤とかを付けて食べたら美味しいですよ」
緋眼は醤等を指して彩耶香に勧める。
緋眼も最初こそ慣れない食事にあまり食は進んでいなかったが、数日経った今は慣れもあって気にせず食べている。
自分がそこそこ順応力がある事にも驚きだ。
「全部同じ味になるじゃない。それにしょっぱいし…。塩分過多だわ」
「そうかぁ?美味いと思うけどなー」
公時は不思議そうに塩を付けて食べる。
ただ、彼は少々どころではなく調味料を付け過ぎているので、緋眼も心配している。
「姫達とは、食文化も違うんでしたっけ」
「私達の世界でも、昔はこういう食事もあったようなのですが…」
「出汁ダナ」
ロトがそこへ割って入った。
「食材ノ旨味ヲ引キ出ス出汁、調理法。ソレト火ガ使イ放題ジャナイ。調理ニ拘レナイ」
「出汁か…」
「火の使い放題…とは?」
「そこら中燃えてんのか?」
ロトの話に想像し難かったのだろう。
貞光と公時が疑問符を浮かべた。
「あ、私達の時代ではガスと言う火を起こす為の燃料が各家庭に行き渡るように整備されていて、対価を払えばある意味火が使い放題…ですね」
「IHなら電気だけで良いしね」
「あいえち…?」
「えと、電化製品と言って、電気と言う燃料で動く生活に必要なもの?…で、コンロ…お鍋…」
「オクドサン ガ薪無シデ、ガス カ電気アレバ何時デモ好キナ時ニ使エル。火力調整簡単。調理シ放題」
説明に困った緋眼に代わりロトが説明する。
「どの様なものか想像するのは難しいが、恐らく便利なものなのであろう」
「薪で火を起こすよりは、ずっと楽に火が使えるようになります」
「その がす なるものや、でんき なるものは湿気らないのか?」
「え?湿気りはしませんよ」
「タダ扱イ間違エレバ危険」
「湿気りはしないけど、扱いに危険が伴う…一長一短な気がしますねー」
綱の質問に返ってきた答えに、季武は肩を竦めた。
「コンロは兎も角、せめて味付けしてほしいわ」
「調味料揃ッテナイ。此処ノ人達味付ケ分カラナイ」
「うむ、庖丁人が姫達の故郷の料理を作れれば良いのだが…」
「調味料とかどうにかならないかな?」
緋眼はロトを見遣った。
「醤ヤ煎汁ハ調味料ノ基礎。出汁取レル素材モアル。出来ナイ事ハナイ」
「じゃあ、美味しいご飯作れるのね」
「緋眼作ルカ?」
「うん!私で出来るなら」
「いや、姫にその様な事は」
「私は姫ではありませんし、料理くらいなら出来ますから。ご迷惑でなければ、どうかさせてください」
緋眼は頼光に向かって頭を下げた。
「頼光様…」
「うむ…、まあ良いだろう。無理のない範囲で行ってくれ。必要なものがあれば取り寄せよう」
「ありがとうございます!」
「姫達の故郷の料理が食べれるなんて楽しみだね~」
「俺は美味ければ何でも良いぜ!」
綱は仮にも姫とされる相手に調理をさせる事に賛同し兼ねる様子で頼光も考える仕草をしたが、直ぐに許可を出してくれた。
材料も取り寄せてくれるそうなので、早速明日から準備に取り掛かろう。
取り寄せてくれるとは言え、緋眼達の時代のように何でも揃っているわけではないだろうが、この世界ではどんな料理が出来るだろうかと期待に胸を膨らませながら夕餉の時間を過ごした。
夕餉を終えると、彩耶香の部屋に来ていた。
彩耶香は出された食事に殆ど手を付けなかったので、残りのインスタント食品をあげる為と、スマホの電池が無くなりそうだと言うのでロトが充電する為に立ち寄る事になった。
「ありがとう。本当に助かるわ」
「ドウイタシマシテ」
充電中のスマホを見ながら彩耶香は笑みを浮かべた。
彩耶香のスマホを充電するのはこれが二回目で、まだ彼女が床に伏せっていた時も、スマホの電池が切れてしまいそれを充電したのだ。
無論、緋眼もロトの充電機能により、スマホの電源を維持している。
この様な事態は想定していなかったが、緋眼もロトやリネットの機能には非常に助けられていた。
「九条さん、ドライカレーが出来ましたよ」
緋眼は弥彦に手伝ってもらいながら作った、カップに入ったドライカレーを彩耶香に手渡した。
調味料の入ったアルファ米にお湯を注いで調理出来るタイプのドライカレーだ。
そして、ティーパックもいくつかキャリーバッグに入れていたので、湯呑みにお湯を注いで紅茶も作った。
通常は登山での携行食は持てる分量に限りがあるが、緋眼にはリネットがいる分多く携行出来て今回非常に助かっていた。
「ありがと。あのさ、前から気になってたんだけど」
「はい」
スプーンを手にした彩耶香が切り出した話に、何となく緋眼は襟を正した。
「その九条さんって止めない?なんか他人行儀で嫌なのよね」
「え…?でも…」
「彩耶香で良いわよ。私だって緋眼って呼んでるし」
「えと…、じゃあ…彩耶香さん」
「だからそれが他人行儀なの。さ・や・か!」
「…彩耶香ちゃん」
緋眼にとっては呼び名はそこまで気にする程でもなかったのだが、改めて彩耶香に指摘され名前で呼んでみる。
しかし、相手を呼び捨てにする事に抵抗のあった緋眼は、申し訳程度に「ちゃん」を付けてみた。
すると、彩耶香はフッと吹き出した。
「ふふっ、可愛いからそれで許してあげる」
「ありがとう、ございます」
どうやら彩耶香の許しを貰えたようだ。
「まだ信じられないけど…こうして写真見るだけでもちょっと気持ちも違うかなって…」
彩耶香はドライカレーを口に運びながら、片手でスマホを操作した。
「彼氏さんですか?」
「ええ、そうよ」
遠目で見えた写真を改めて緋眼に見えるようにしてくれた写真には、笑顔で写る彩耶香の隣に真面目で優しそうな男性が写っていた。
「
彩耶香は愛おしそうに写真を見た。
それだけ彼の事が好きなのだろう。
そして、その分寂しい筈だ。
「緋眼は彼氏いるの?」
「私は…その…、いなくて」
「あら、勿体ない。早く出来ると良いわね」
「そう、ですね…」
急に振られた話題に曖昧な相槌を返す。
今まで緋眼は異性を好きになる事はあったが、告白する勇気も持てず、誰かから告白されるなんて夢のシチュエーションすらなかった。
今は気になる異性もおらず、毎日学校生活や部活の弓道に明け暮れる日々を送っているだけだ。
少女漫画のような恋は疎か、普通の恋にすら縁がないのではないか。
まだ高校生ではあるものの、最近は特にそう思うようになっている。
「私はね、パパとママと三人家族なの。昔から来てくれてるお手伝いさんも家族みたいなものかしら。緋眼は?」
ご飯を食べながらの彩耶香の話は、どうやら世間話になったようだ。
今までそういった話にまでならなかったので、緋眼にとっても彼女の事を知れる良い切っ掛けに笑みを浮かべた。
「私は、父と母と弟が一人います」
緋眼も自分の家族の面々を思い浮かべながら述べた。
みんなみんな優しくて大好きな家族だ。
「弟がいるのね!私は一人っ子だから羨ましいな~。お名前は?いくつなの?」
「名前は
「じゃあ、今年高校受験なんじゃない。てか、緋眼も大学受験でしょ?大丈夫なの?」
「えっと…」
「緋眼、AO入試頑張ルトコロ」
それまで黙って聞いていたロトが横から口を挟んだ。
「凄いじゃない。どこ受けるの?」
「保育系の学校に行ければと思って」
「じゃあ、将来は保育士かしら?子供好きなの?」
「はい。好きなのもあって、子供の役に立てる仕事に就けたらなと考えています」
「色々考えてて偉いわね。私なんてまだ未来のビジョンもなく大学も普通に過ごしちゃってるしなー」
ドライカレーを食べ終えた彩耶香は紅茶を飲みながらこぼした。
「あ、ねえ、弟くん達の写真ある?」
彩耶香は思い出したように乗り出してきた。
「はい、ありますよ」
緋眼は自分のスマホの画面を見る。
画面にはアシスタント機能のマスコットである2Dの女の子が表示されていた。
「何それ、可愛い~」
それを彩耶香は興味深そうに見てきた。
「アシスタント機能のマスコットです。多分、機能なら彩耶香ちゃんの機種にもあると思いますが…」
「あー、OK何とかとか言うの?探せばそう言う可愛いのあるのかしら?」
「コレ出タノ最近。彩耶香チャンノ年、モウチョット待テバ色々出テクル」
「5年の間にも色んなアプリ出てきてるって事ね」
5年間も自分が行方不明になっている事を思い出したのだろう。
彩耶香の表情が曇る。
「あ、あの…」
「そう言えば、ロトはいくらしたの?」
明るく振る舞う彩耶香から出た質問に緋眼は固まった。
ロト達は購入したわけではないからだ。
「あの…ロト達は買ったわけではないんです」
「えっ?じゃあ貰ったの?新商品の景品とか?」
「ロト モ リネット モ商品違ウ。空カラ緋眼ノ家族ニナリニ来タ」
「えー?何それ?」
ロトの話に不可解そうに彩耶香は首を傾げた。
「あ、分かった。はぐらかしてるのね。5年待てば値段も分かるって言うんでしょ?でも、気になるのよね。私も欲しいから」
ジーッとロトを見る彩耶香に、ロトもジーッと彩耶香を見つめ返している。
「彩耶香チャンナラ、ロト一体プレゼントスル」
「ホントー?本気にしちゃうわよ?」
「本気、本気」
「て訳だから、ロト一体貰うわね、緋眼」
「え?ロトが良いなら…」
話に付いていけてなかった緋眼は、取り敢えず相槌を返した。
ロトとリネットは、ロトの言う通りある日突然緋眼の前に現れた。
特に害をもたらす訳ではなかったし可愛い姿もあり追い払ったりする事もなく、気付けばずっと緋眼の家に居着いていた。
そして、緋眼を助けてくれている。
そんな漫画のような話を信じてくれるだろうか。
否、今のこの状況で、同じ境遇の彩耶香ならば信じてくれるのではないか。
そんな事を思いながらも、スマホの操作をして家族の写真を表示すると、彩耶香に差し出す。
「ふふっ。弟くん、緋眼に似てるわね。ホント姉弟って感じ。って、これって緋眼が中学くらいの写真?」
家族全員が写ってはいるものの、緋眼が今より幼く、また弟も中学生にしては幼い姿に彩耶香は首を傾げた。
「はい、これは私が中学に入って間もないくらいの時のです」
「今の写真はないの?」
「今の…」
「緋眼、今家族ト離レテ暮ラシテル。オ祖父チャン、オ祖母チャント一緒」
「一緒に暮らしてないの?」
「はい、今の学校の都合で…。あっ、でも連絡はしてますよ!登山する前も弟から連絡があって」
「まあ…、色々と事情もあるんだろうしね。そうだ、弥彦!弥彦の家族は?こっち来て話しなさいよ!」
あまり深入りしない方が良いと察したのか、彩耶香は話の矛先を几帳の向こうに控えている弥彦に向けた。
護衛と言う名目なのだが、どちらかと言うと緋眼や彩耶香が逃げ出さないかの監視の意味合いが強いのだろう。
篷蝉が東寺へ戻った後も弥彦は残り、こうして二人の傍に控えていた。
「え…?僕ですか?」
「そうよ、そんな所にいないでこっち来なさいよ。ロト」
「了解」
彩耶香が指示すると、ロトは几帳をずらして弥彦との間の壁を無くした。
彩耶香は自分の傍に座るように指を指したので、弥彦は渋々と言った様子でそっと距離を詰めて膝を付いた。
「で?弥彦の家族は?」
彩耶香は弥彦の様子を気にせず話を続けた。
「僕は…、孤児でしたので家族と呼べる者はいません」
「え?」
思いもよらない弥彦の返答に彩耶香は聞き返す。
「物心付いた頃には一人でしたので親の顔も覚えていませんし、姫達のような家族と言うものを知りません」
「ごめん…なさい」
彩耶香としては話を変えるつもりだったものが、更に立ち入ってはいけない話題を振ってしまった気まずさから謝罪の言葉を述べた。
「謝らないでください。別に僕は孤児である事も家族がいない事も気にしていませんから。僕が浮浪児としてさ迷っていた時、越後に修行に来られていた篷蝉様が保護してくださったのです」
「越後って事は、弥彦は新潟出身なの?」
「にいがた?姫達の故郷では、その様に呼ぶのですか?」
「えっ?そ、そうね」
「では、弥彦様は篷蝉様に保護されて此方へ?」
「ええ。そのまま篷蝉様の弟子にさせていただき、今に至ります」
「そうだったのね…」
まだ気まずさの残る彩耶香は、所在無く視線を漂わせていた。
「弥彦様のそのお名前は、篷蝉様がお付けになったのですか?」
「はい。僕がいたのは越後の彌彦と言う所だったのですが、その土地の神より土地の名をお借りして僕に授けてくださったのです」
「私達の世界にも、新が…越後に弥彦村と言う所があって、昨年の夏休みに弥彦山に登りました」
「確かに彌彦山があり、その麓でした」
緋眼は弥彦山に登山した際の写真をアシスタントに引き出してもらい、それを彩耶香と弥彦に見せた。
「緋眼ってば、色々行ってるのね」
「次は戸隠山に行ってみたいと思っているんです」
「気を付けなさいよ。また変なとこに飛ばされたら洒落にならないわ」
彩耶香の指摘には苦笑を浮かべた。
そもそも、此処から戻れるのかも分からない状況だ。
しかし、希望を捨てるにはまだ早過ぎる。
同じ境遇の彩耶香とこうして何気無い話で気を紛らわしてもバチは当たらない筈だ。
「それにしても、その写真なるものは不思議なものですね。その板の中に人や自然を封じる事が出来るのですか?」
弥彦は景色の写真が写し出されたスマホを見て、不思議そうに首を傾げる。
「これは封じ込めてるんじゃなくて、写真…人とか景色とかを写してるのよ」
「はあ…」
「ソノ時見テルモノ、見タモノ、ソノママ記録出来ル。記録装置ト認識スレバイイ」
弥彦はロトの補足にも初めて見るもの故か理解には追い付いていないようだ。
「そう言えば、昔の人って写真撮ったら魂抜かれるとか騒いでたんだっけ?」
「魂を抜くのですか!?」
「抜けるわけないじゃない」
「昔ハ写真ニナルマデ時間カカッタ。姿写ルマデ動イチャイケナカッタ。人ノ姿ソノママ写スカラ、魂ガソコニ封ジラレルト勘違イシタ」
「電話が発明された時も、電話線に荷物を括れば届けてもらえると思った人達がいたって話もありましたね」
「でんわ…ですか?」
「離れてても、何処にいても話が出来るの。私達にとっては当たり前だけど、その当たり前が無い時って人って面白い事考えるわよね」
「知識大事」
「便利な時代に生まれて良かったと思うと同時に、とても有り難い事なのだと今は特に痛感しますね」
平安時代と同等の生活を強いられている現状に、緋眼と彩耶香はどちらともなく顔を見合わせると苦笑した。
「あ、そろそろお湯をいただいてきますね」
「ありがとう。お願いね」
「僕もお手伝いします」
ふと外を見て日が暮れてきたのを見ると、緋眼は思い出した様に立ち上がった。
此処では水浴びは出来るようなのだが、毎日お風呂に入る事が出来ず体を拭くしかない。
なので、お湯を貰ってそれを適温に水で調整してから手拭いで体を拭いていた。
緋眼は石鹸を持ってはいたが、環境を考えて米糠を貰いそれで髪や体の手入れをしていた。
昔の人も、そうして体を綺麗にしていたらしい。
彩耶香にもその方法を勧めていたので、緋眼は毎日彩耶香の分と自分の分のお湯を
弥彦が先導し、その後に続いて厨へと向かった。
翌日、朝餉はいつもお粥とお漬け物なので、夕餉に向けて庖丁人や弥彦の手を借りながらご飯の準備をしていた。
出汁として煎汁や干し椎茸等を使い風味を出し、お醤油やお味噌はないので代わりにその元となったと言われる醤や塩で味を整える。
お砂糖がないので甘味が出せないが、今後の為に大麦を使って麦芽糖を作る準備もしている。
今日はお吸い物と野菜の煮付け、干し魚の混ぜご飯を作る予定だ。
竈で火を起こしているので思った以上に暑く、汗もダラダラ垂れてきた。
「緋眼殿、失礼いたします」
弥彦が手拭いで汗を拭ってくれた。
「ありがとうございます」
「緋眼、疲れたら休みなさいよ?」
彩耶香は厨の外で様子を見ていた。
「ありがとうございます。もう直ぐご飯も出来ますよ」
「良い香りだし、すっごく楽しみだわ」
「本当、美味しそうな匂いだね~」
広間の方から季武に公時、貞光が歩いてきた。
「
「ついつい来ちゃったんだよねー」
「すみません。もう調理も終わるので、もう少しお待ちください」
「やはり、十六夜殿を急かしてしまうだけでしょう。戻りましょう」
申し訳なさそうに頭を下げた緋眼を見た貞光は、二人に広間へ戻るよう目配せする。
「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだけど。じゃあ、行こっか」
「悪かったな。急がなくて良いからさ。待ってるぜ!」
三人は食事の話をしながら戻っていった。
「皆、待ちきれないみたいね」
「皆様のお口に合うと良いのですけれど…」
「大丈夫よ、緋眼。味見した弥彦も女房さん達も美味しいって言ってたんだし。…私はお夕食まで我慢我慢!」
ずっと様子を見ていた彩耶香にも味見をするか聞いたのだが、彼女は夕餉までの楽しみに取っておくとそれを断った。
けれども、お腹が空いている分匂いに釣られて何度も物欲しそうな表情を浮かべていた。
「では、わたくしどもがお運びしますので、姫達は先に広間へお行きください」
料理を台盤所で盛り付け終わると、
「ありがとうございます。では、お願いいたします」
「行きましょ、緋眼」
緋眼は雑仕女達に頭を下げる。
そして、彩耶香に手を引かれて弥彦と共に広間に向かった。
「うっまそ~」
高杯に並べられた料理を見て、先ず公時が目を輝かせた。
「調理中から食欲をそそられる匂いで溢れていましたが、味付けをされるだけでこんなにも香りが違うものなのですね」
「緋眼ちゃんが頑張って作ってくれた料理、早くいただきましょう、頼光様」
「うむ、ではいただこう」
季武に急かされつつ、頼光の合図を受け皆でいただきますをする。
「んー!美味しいわ!緋眼!」
「うむ。まさかこの様な深い味わいになるとは」
「うんめぇ!お代わりあるか!?」
「公時、ご飯粒を飛ばすな」
「美味しいと思われるなら、もっと味わって食べたらいかがですか」
がっつく公時に綱と貞光は溜め息をこぼした。
「お口に合ったのでしたら良かったです。沢山作ったので、良かったら召し上がってください」
美味しそうに食べてくれる皆の様子を見て、緋眼はホッと胸を撫で下ろした。
全て緋眼の居た世界通りにとはいかなかったものの、ロトのアドバイスを受けながら頑張って作った甲斐があった。
調味料はこれから取り寄せてもらいながら作ったりして揃えていき、色んな料理を作って彩耶香や皆が喜んでくれたら良いな。
美味しい、美味しいと食べ進める皆の姿に、緋眼も自然と笑顔がこぼれるのだった。
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