第5話 ミリモル邸

 ミリモルさんは、私の件を報告するため、王城へ向かってしまった。


 私は使用人に案内されて、ミリモル邸に入った。そこは、洋館のような建物だった。エントランスにはシャンデリアが吊るされていて、柔らかな光を放っていた。


(電気はないのに、どうやって光るんだろう?)


 私は疑問に思って、片眼鏡を取り出した。これはタイゲンさんの道具で、鑑定のスキルが付いている。私が使えるのは『勇者ミキモトの加護』のおかげだ。


名前: 魔光灯まこうとう

種類: 魔道具

価値: ☆☆

相場価格: 銀貨5枚

効果: なし

説明: 魔石を使った照明具


(魔石か…。この世界のエネルギー源は魔力なのかもしれない。)


 片眼鏡は驚くほど便利だった。落ちることもなく、視界も悪くならなかった。とりあえず、このままつけておこう。


「お客様、お部屋へご案内いたします。」


「あ、ありがとうございます。」


 使用人の案内に従って、私は二階へと移動した。


「私はリヨンと申します。お客様のお名前は?」


「私はサカモト・レイと申します。」


「レイ様ですね。滞在中は私がお世話致します。よろしくお願い致します。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


 案内してくれたメイドさんは狐耳としっぽを持っていた。彼女は狐人族という亜人種だという。人間と変わらない容姿だが、そのプロポーションは素晴らしかった。日本で出会ったどの女性よりも美しく、そして官能的だった。


 彼女には苗字がないということだ。この世界では、貴族や爵位を持つ者だけが姓名を持ち、一般の人々は名前だけを使うのだという。


 二階にある部屋に案内された。清潔で整頓されていて、リビングと寝室に分かれていた。窓にはカーテンが垂れ、寝室には心地よさそうなベッドが置かれていた。


 ベッドに横たわってみた。一週間も独房に閉じ込められていたから、こんな快適さは久しぶりだった。目を閉じればすぐに眠りに落ちそうだったが…。


 外から馬車の音が聞こえてきた。ミリモルさんが王城から戻ってきたのだろう。


 しばらくして、リヨンさんが部屋にやって来て、一階のダイニングルームへと案内してくれた。


 ダイニングルームには、既にミリモルさんが座っていた。私は彼女の近くの席に座った。


「ミリモルさん、お疲れさまです。改めて、これまでのお力添えに心から感謝申し上げます。」


 私は心からの感謝の気持ちを述べた。


「レイよ。良いのじゃ。これも我が御先祖のご意向じゃよ。『迷い人』に手を差し伸べるのは、ミキモトの一族として当然の義務じゃ。気にすることはないのじゃよ。」


「ありがとうございます。」


「さて…先程は王城に赴き、王にこれまでの経緯を報告して参ったのじゃ。王もお主に大変関心を寄せられたようじゃった。明日、朝一番でお主を王に引き合わせることになった。申し訳ないが、そのつもりでいてほしい。」


「私が王様に!?大丈夫なんですか?」


「なに、王もミキモトの一族だ。悪いようにはしないじゃろう。ただ、王という立場があるから、悪しき存在に変じる可能性のあるお主を直接見極めたいのじゃよ。」


「なるほど、よくわかりました。」


 正直なところ、王様など私には負担が大きすぎる…。本当はお断りしたいところだが、ミリモルさんの顔を潰してしまうことになる。従って、私はミリモルさんの提案を受け入れることにした。


「さあ、堅い話はここまでだ。お腹が空いただろう?さあ、召し上がれ。」


 最初に、果実酒で乾杯した。芳醇な香りと味わいが口中に広がる。


 次に登場したのは、予想外で驚きをもたらすものだった。


「これは、我が国の特産品である『米』という作物から作った食べ物じゃ。水と共に煮込む少し変わった料理じゃ。できあがったものを『ごはん』と呼んでおる。」


「本当だ!まさか、異世界でご飯が食べられるとは!!」


 やはりご飯は最強だ。


「昔、異世界で農民だったご先祖は、こちらへ来る際に偶然服についていた米の種を見つけた。それを育て、少しずつ数を増やし、この国に広めたと伝承に伝えられている。」


(う~!ナイス!タイゲンさん。)


 心の中でガッツポーズをした。


「それから、こちらはマルポーの肉を使った焼肉じゃ。隣のタレをつけて食べるといいのじゃ。ご飯とバッチリ合うから試してみるといい。」


 マルポーというのは、向こうの世界でいうところの豚に似た家畜らしい。


 私は早速焼肉を口に運んだ。


「ん~美味い!!」


 肉汁たっぷりで甘みのある肉だった。


 その他にも煮魚やスープなど、美味しいものをお腹が悲鳴をあげるほど頂いた。


「レイよ、その眼鏡だが、まさか…。」


「ええ、蔵で頂きました。タイゲンさんの道具です。『鑑定』のスキルが付与されています。」


「やはりな。どうだ、少し見せてくれるか?」


「もちろんです。どうぞ。」


 片眼鏡を外してミリモルさんに差し出した。しかし…。


《バチッ!!》


「いつっ…。」


 ミリモルさんが片眼鏡に触れた瞬間、バチッという音が鳴り、彼女は思わず片眼鏡を手から滑らせ、落下させてしまった。使用人たちは慌てて彼女の周りに集まったが、彼女は片手で制止した。


「ワシは大丈夫じゃ。しかし、何じゃ。これは…。落雷にあったかのような鋭い痛みを感じたわ。」


 私は無傷なままの片眼鏡を拾い上げた。


「ミリモルさん、大丈夫ですか?おそらくですが、この道具には盗難防止スキルが付与されている可能性があります。蔵にあった他の道具にも同様のスキルが付いていたので、同じ効果がこの片眼鏡にも備わっている可能性があります。私が道具を問題なく使えているのは、『勇者ミキモトの加護』の効果だと思います。」


「なるほど…じゃ。お主の言っていることが正しいようじゃな。」


「では、鑑定能力を試したい。ワシのローブを鑑定してくれぬかの。」


「わかりました。では…。」


名前: 賢者コリンのローブ

種類: 防具

価値: ☆☆☆☆☆

相場価格: 金550枚~

効果: 炎耐性、闇耐性、物理ダメージ軽減、劣化防止

説明: 魔大戦で活躍した英雄、賢者コリンのローブ


 私はスキルで見たままの情報をそのまま伝えた。


「ほほう!ここまで詳しい情報を得られるとは見事じゃ。ワシが知らなかった効果もあったしの。しかも、あの賢者殿のローブじゃったとは知らなんだ。」


「この性能ならば、御先祖の道具として疑う余地はないようじゃな。」


「それで、お主はこれからどうしたいのじゃ?御先祖の道具で何を成すか?」


「そうですね…。特別な何かをしたいとかはありません。のんびりと自由気ままに過ごせたらと思います。ただ…この世界は、こんなに美しく素晴らしいのに、私が知らない場所がとても多そうです。もっと色々な場所や人々に出会ってみたいと思います。」


「ふむ、それは良い考えじゃ。お主はまだ若い。この世界の色々な場所を旅してみるのも悪くないじゃろう。ワシも若い頃は、色々な国や大陸を巡っておった。その時に得た経験や知識は、今でもワシの財産じゃ。」


「ミリモルさんも旅をされたんですか?どんなところに行かれたんですか?」


「ほほう、興味があるか?それならば、ワシがお主に旅の話をしてやろう。」


 そう言って、ミリモルさんは笑顔で私に話し始めた。


 彼女はこの世界の歴史や地理に詳しく、私にとっては貴重な情報源だった。彼女が語る旅の話は、私の想像力を刺激し、異世界の魅力を感じさせてくれた。


 私は彼女の話に聞き入り、時に驚き、時に感動し、時に笑った。


 そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


 私はミリモルさんと一緒に食事を終え、部屋に戻った。


 部屋で一人になり、私は改めてこの場所が異世界であることを実感した。


 そして、自分がどうしたいのかを考えた。


(明日は王様に会うんだ…。どうなるんだろう?)


(でも…この世界に来てから、色々なことが起こったけど…楽しいこともあった。)


(心強いタイゲンさんの道具もある。このままこの世界で生きていくのも悪くないかもしれない。)


(もしかしたら…この世界が私の本当の居場所なのかもしれない。)


 そんなことを考えながら、私は眠りについた。


 夢の中では、タイゲンさんやミリモルさんやリヨンさんや賢者コリンや…色々な人々と一緒に冒険していた。


 それはとても楽しく幸せな夢だった。


 そしてその夢は…永遠に続くような気がした。


 ―――― to be continued ――――

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