第6話 ローランネシア王
カーテンがゆっくりと開かれ、朝陽が優しく室内に差し込む。その光に目を細めながら、私は自然に目を覚ました。
日本で生活していた頃の朝は、いつもどこか鈍い目覚めで、起き出すことが辛い毎日だった。しかし、今日はこれまでとはまったく違う、別世界の朝を迎えることになったのだ。
「レイ様、おはようございます。朝食の準備ができましたので、お迎えに上がりました。」
メイドのリヨンさんが、私を起こしに来てくれたようだ。彼女は、美しくも穏やかな笑顔を浮かべていた。少しだけ開いた窓からは、心地よい風が吹き込み、リヨンさんの優しい香りがほのかに鼻腔をくすぐった。
「おはようございます。顔を洗いたいのですが、どこでできますか?」
「こちらをお使いください。」
私の行動を先読みしていたのか、適量の水が入った桶と、顔を拭くための布がすでに用意されていた。
「あっ、ありがとうございます。」
両手ですくった桶の水を顔にそっと撫でる。汗や皮脂がきれいに洗い流される感覚が心地よい。そして、リヨンさんが差し出した布で顔を拭く。今日は、なんとも気持ちのいい朝だろう。
私はリヨンさんとゼスさん、ユーリさんと共にダイニングルームに向かった。椅子が引かれ、昨夜と同じ席に身を沈める。紅茶を啜りながら、食事が運ばれるのを待っていると、ミリモルさんが姿を現した。
「ミリモルさん、おはようございます。」
「やあ、おはよう。ゆっくりと眠れたかの?」
「ええ、久しぶりにしっかりと眠れました。ありがとうございました。」
挨拶を交わした後、私たちは朝食を頂いた。パンやスクランブルエッグなどのシンプルなメニューだったが、素材や調理法が異世界ならではであり、驚きや感動を覚えながら味わった。
食事を終えた後、私は部屋で身なりを整えていた。この日は王城への訪問が控えており、自分の服装に不安を感じた。その時、服を抱えたリヨンさんが入ってきた。
「レイ様、今日は王城への訪問がございますので、こちらのお召し物にお着替えくださいませ。」
私が着ていたみすぼらしい服では、王城にはふさわしくないということで、リヨンさんが選んで持ってきてくれたのだ。それは中世の貴族が身に着けるような装いであり、少し恥ずかしい気持ちになるが…。
「とてもお似合いですよ。」
私の不安な気持ちに気づいたのか、リヨンさんが笑顔で声をかけてくれた。
「王城へ訪れる際は、このような服装が一般的です。一般の人や兵士が王城に入ることはまずありませんので、貴族の方がお召しになるような服でないと浮いてしまいますよ。」
「そうなのですね。お心遣いありがとうございます。」
リヨンさんの手助けを受けながら着替え、片眼鏡もかけて準備が整った。
私はミリモルさんとゼスさん、ユーリさんと共に馬車に乗り、王城へ向かった。王城はミリモル邸からすぐ近くにあったが、その壮大さと威厳に圧倒された。高くそびえる塔や堅牢な城壁、美しく彫刻された門や像など、すべてが私の想像を超えていた。
(凄いな、正にイメージ通りのお城だ。やはりここは異世界なんだな。)
馬車は王城の正門をくぐり、広大な中庭に停まった。そこからは歩いて王宮に入ることになった。
王城は、至近距離で見ると、膨大な大きさに圧倒された。私は首をひねりながら、ミリモルさんたちについて歩いた。
「さあ、レイや。今日は王に会うのじゃが、緊張することはないんじゃよ。ワシも一緒に居るからの。」
ミリモルさんが私の肩を叩きながら言った。私は笑顔で頷くと、深呼吸して自分を奮い立たせた。これから始まる出来事に、期待と不安を抱きながらも、王宮へと足を踏み入れたのであった。
城の内部へと足を踏み入れると、エントランスは広大で、壁には金の装飾が施され、贅沢で華麗な雰囲気が溢れている。このエントランスは、様々な通路の連絡口であり、どの通路がどこに続いているのかを把握するのは容易ではない。
私はミリモルさんに案内され、階段をひたすら上っていく。楽々と階段を登るミリモルさんの背中を追いかける。私は汗を拭いながら進んでいた。ミリモルさんの年齢では、移動が大変だったりしないのだろうか…。そんなことを考えながら、ただただ上り続けた。
(あれはきっと魔法の効果に違いないな…。)
私は息を切らしながら、そんな思いを抱いていた。
辿り着いた先は、王の間への入り口だった。金で作られた豪華な扉が中央に国章を刻んでおり、左右には騎士が立っている。騎士たちは王の間への入室を監視しているのだ。ここでは武器などの危険物を預けなければならず、ボディチェックを受けることになる。
「申し訳ありませんが、規定です。武器などの危険物をここに預からせていただきます。」
「結構です。ご確認ください。」
王の間に入室した私は、もともと武器を持っていなかったが、チェックを受けた。
中には待機している近衛騎士がいた。約20人の騎士が整列し、王様の入場を待っているように見えた。王の間は広々としており、ゆとりのある空間を感じさせる。
天井、壁紙、床は光沢のある白っぽい大理石のような石で統一されていた。そして、中央には王の玉座があった。その玉座は金色ではなく、青がかった金色で、輝かしく神秘的な美しさを放っていた。
王は、まだお見えになられていないようだ。その間、ここで待つことになったので、少し時間に余裕があった。そこで、白い石や玉座についての情報を詳しく知るため、片眼鏡を使って調べることにした。
白晶石の建築物 (天井・壁 ・床)
種類 希少鉱物
価値 ☆☆☆☆☆
相場価格 総額 白金貨3枚~
効果 防汚 熱耐性
説明 大変希少な白晶石を使った建築物。硬度が高く、熱耐性がある。
青金の玉座
種類 国宝
価値 ☆☆☆☆☆☆
相場価格 error
効果 劣化防止
説明 非常に希少で、今後新たに採掘するのは不可能と言われる青金の素材て作られた玉座。
これらの情報から、どちらも非常に高価で希少な素材が使われていることが分かった。私は自分が知らない素材やその性能、価値を知ることで、さらなる道具の進化の可能性を感じた。今後はさまざまな経験を積んで自分の知識を広げるべきだと感じた。
玉座の奥には階段があり、王の居室に繋がっているようだ。控えていた騎士の一人が、我々の来訪を伝えるために王の居室へと向かった。しばらくして、王が姿を現したので、静粛な雰囲気で謁見が始まった。
王は長く黒い髪を持ち、美しい顔立ちをしていた。年齢はわかりづらいが、おおよそ30歳前後のように見える。耳がやや尖っており、エルフのような印象を受ける。
「我はこの国の王、ミキモト・キール・オル・ローランネシアである。異世界から来た若者よ、よく参った。お名前を伺ってもよろしいか?」
「国王陛下、この貴重な謁見の機会を頂き、心より感謝申し上げます。私はサカモト・レイと申します。」
「レイか。その名をよく記憶しておこう。我は、君が持つ日本の血と、エルフの血を受け継いだ混血種の王である。我は王としての役割を果たすだけでなく、ミキモト一族の使命も担っているのだ。」
「異世界から迷い込む者は、しばしば特別な能力を身に着け現れるものだ。御先祖のように勇者や賢者の才能を持って現れることもあれば、逆に魔王として現れる場合もあるのだ。君もその伝承を知っているだろう。」
「魔王ですか…。」
「そうだ。伝承によれば、勾玉が白い場合は勇者や賢者とされ、黒または近い色合いの場合は、魔王などの悪しき存在となると言われている。」
「では、私の場合は…。」
「伝承にはない、特殊なパターンに当てはまる。君の黄色い勾玉は、我々の予想をはるかに超えたものだった。だからこそ、我は君と直接対面し、君の本質を確かめたいのだ。」
「なるほど、承知しました。陛下のご意向に従います。」
「感謝する。では、さっそく君の能力を調べたい。用意しておいたものをこちらに持ってきてくれ。」
王が騎士に声をかけると、高価な机が運ばれてきて、机の上には赤い布がかけられた何かが置かれた。
「これは、先祖から伝わる国宝だ。対象者の能力や技能を調べる機能を持っている。」
布が取り除かれ、その姿が明らかになる。一見するとただの水晶玉のように見えるが、念のため、私は片眼鏡を使用してチェックしてみた。
名前 鑑定球
種類 国宝級魔道具
価値 ☆☆☆☆☆☆
相場価格 error
効果 能力鑑定スキル(上級) スキル鑑定(上級) 情報音声変換 破壊不可
説明 ミキモト・タイゲン作。対象者の能力やスキル効果の鑑定ができる魔道具。水晶玉にスキルを付与した。誰でも内容が把握できるように情報を音声化できる。
(やはり、タイゲンさんの作ったアイテムだったのか...。水晶だけの素材が、大変価値あるものになるとは驚きだ。その価値の大部分は、スキルによって付与されたものだろう。タイゲンさんのスキルがそれほどまでの価値を持っているということか。)
「レイよ、水晶に手をかざしてみなさい。」
「承知しました。では...。」
私は指示通りに水晶に手をかざしてみると、水晶が一瞬輝き、その中から声が聞こえてきた。
- 名前:サカモト・レイ
- 性別:男性
- 年齢:20歳
- 種族:人間種
- 職業:無職(迷い人)
- スキル:なし
(何!?この説明は…。年齢は20歳?俺は48歳のはずなのに。しかも、無職にスキルなしか。何とも情けないな。)
私はこの結果にショックを受けてしまった。自分がこんなにも低く評価されてしまうとは思ってもみなかった。自らに対する自信が揺らいだ。
「ふむ、ミリモルの報告通りのようだな。確かに厄災の元凶になる存在とは程遠いようだが、勇者の素質があるとも言い難いな。まあ、良いだろう。君の身柄は、しばらくはミリモルに預け、条件付きではあるが、自由を認めることとする。」
「有り難き幸せにございます。」
私は王の言葉に救われた。玉座の間に立ちながら、王の判断にほっと胸を撫で下ろした。
「レイよ、これからこの世界で何を希望し、何を成すか?」
問いかける王の声が部屋に響き渡り、私は深く考える。
「私は、のんびりとした暮らしを希望します。しかし、そのためには生計を立てる手段となる知識や資産が必要です。ですから、可能であれば行商人になり、各地を旅してみたいと考えています。」
王の目は一瞬輝き、私の望みを受け入れ、商人としての道を歩むことを許可した。
「商人か…。なるほどな。まあ、いいだろう。商人になることを許可しよう。我の名に誓い、レイが商人として成功するように力添えをしよう。追って推薦状をミリモルに渡すことにする。」
王の言葉に感謝の気持ちが溢れ、私は頭を下げた。
(王の質問に対し、戦いに向かないことが理由で、無難な商人を口にしてしまった。これは軽率だったかな?でも、日本で暮らしていた時の知識や経験が役に立つかも知れないな。)
この瞬間、私は自らに迷いが生じたが、商人としての道を選ぶことが最善の選択肢であると確信していた。
「条件についてなのだが、レイが危険な存在でないことが証明されるまでは、監視役を付けさせて貰う。すまぬな。」
「いえ、いえ。賢明なご判断かと存じます。承知致しました。」
「うむ。では、この件はミリモルに一任しよう。」
「はは、承知致しました。このミリモルが責任を持って対応致します。」
このようにして、王城での王との面談は無事に終わった。私は命を奪われることなく、ただただ安堵の念に包まれた...。
ー to be continued ー
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