第4話 王都ミキ
「伝承によると、善き魂ならば白く、悪しき魂ならば黒に変化するはずなのじゃ。黄色など聞いたことがない。一体お主は何者なのじゃ?」
「え!? こっちが聞きたいですよ。私は、この世界のことを何にも知らないのですから。」
「まあ、そうじゃな。念の為、この勾玉が本物かどうか調べさせて貰うぞ。」
「ええ、どうぞ。」
ミリモルさんは、目を閉じて魔法を唱え、勾玉の情報を探ろうとした。しかし…。
「ワシの魔法が打ち消されよった…。これは呪いか?いや、高位の結界というべきじゃろうか?ここまで高度な効果が付与されている道具は初めてじゃ。やはり、ただの道具ではないな。これは御先祖の作り出した道具以外にはありえんじゃろう。」
「しかし、黄色はどう判断すれば良いか…。ともかくこれは王にも報告する必要がある。まあ、黒では無かった。心配するでない。」
「あの…ミリモルさん。私は、これからどうすればいいんですか?」
「お主の扱いは、王宮にて相談する必要がある。それが済むまではワシが身元を預かろう。王都にあるワシの邸宅に案内しよう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
魂の色の件は、何となくだが、ベストの結果にならない気がしていた。黒でなかったのは良かったが、白でもなくてまさか黄色だとは…。こういう間の抜けた展開は、なんか自分らしい気がする。ミリモルさんのご温情には、心から感謝したい。
(いつか必ずご恩返しします。)
一行は、王都に向けて帰路に就く。私は、帰りの馬車の中で、ある異変に気づいた。パトカーの容疑者のように、護衛の騎士が両脇に密着して座っているのは相変わらずだか、行きとは違い、騎士達の言葉が理解できるのだ。
(えっ!? どうして!? 今まで全然わからなかった言葉が急にわかるようになった!)
「あ、あれ?騎士さん達の言葉がわかるのですが…。」
「何?本当だ!コヤツの言葉がわかるぞ!」
「おお、散々意味不明な言葉ばかり聞かされてたからな。」
「それは、申し訳ありません。これからしばらく御厄介になります。よろしくお願いします。」
「ああ、ミリモル様から伺っている。しかし、忘れるなよ。ミリモル様のご命令で手の枷は外したが、ミリモル様や、この国に牙むくようなことがあれば叩き斬るからな!」
「ええ、もちろんです。恩人であるミリモルさんを裏切るようなことは決して致しません。お約束します。」
思った通り、二人の騎士は真面目な方達で、ミリモルさんを大切に思っているのが良く伝わってくる。人間種の髭面壮年騎士がゼスさん。剣の使い手だ。エルフ種の白髪イケメンがユーリさん。弓と短剣の使い手だ。言葉がわかるようになったので、馬車の中では、二人とも色々な話をした。
「レイよ。言語理解の能力を会得したようじゃな。では、今のお主の状態がどうなっているか調べてやろう。」
そう言って、ミリモルさんは魔法を唱えてまた私の状態をチェックしてくれた。
「フム。生命力に関する能力だけじゃが、ずば抜けて高まっているようじゃ。若返ったのもそれが影響しているのじゃろう。残念ながら、それ以外の能力は全然ダメじゃな。スキルもなしじゃ。言語理解や生命力が上がったのは、恐らくはその勾玉の効果じゃろう。」
「そう言えば、蔵にあった石版に、勾玉には勇者ミキモトの加護が付与されていると書いてありました。」
「やはり…な。御先祖の加護がどの程度のものか、計り知れぬの。御先祖がお主に勾玉を授けたのにはきっと意味があるはずじゃ。そのことを忘れるでないぞ。」
「ええ。肝に銘じておきます。」
馬車は、池の畔を出て大草原まで進んでいた。日は傾き、緑に赤みがかかって、何とも言えぬ美しさが、視界に広がっていた。
(この世界は本当に美しい…)
しかし、景色を楽しむ余裕もなく、その後、何度か魔物と遭遇することになった…。
初めて見た魔物は、キラーウルフと呼ばれる狼のような魔物だった。土色の毛皮は、地面の色に馴染んでしまっており、遠くからキラーウルフを確認するのは、困難だったようだ。恐らくは、獲物に気づかれない様に近づいて、捕食するタイプなのだろう。
(怖い…こんな魔物に襲われたらどうしよう…)
「くらえっ!」
エルフ種のユーリさんが放った矢は、驚異的な速さで舞い上がった...。ピュッという音は、矢が勢い良く放たれ、空気を切り裂く音だろう。矢は100メートルくらい離れていたキラーウルフの頭部に命中し、ウルフの命を一瞬で奪った。
(正確で力強い攻撃だ!)
「ウインドカッター!」
続いて、ミリモルさんが魔法の詠唱を始めた。彼女の杖の先から、風なのか、透明な刃のようなものが放たれた。それは目にも留まらぬ速さでウルフの首筋に刺さった。すると、ウルフの頭部はずれ落ち、地面にポトリと落ちた。非常に恐ろしい攻撃だった。
(これが魔法か!?凄すぎる!)
ミリモルさんの遠距離攻撃とユーリさんの弓による遠距離攻撃が、順調に敵を屠っていった。
「来たか。パワースラッシュ!」
遠距離攻撃を逃れ、接近してきたキラーウルフに対し、ゼスさんは得意の剣技で攻撃していた。一瞬、剣や腕のあたりが光に包まれたように見えた。その後、あっという間にキラーウルフを一刀両断してしまったのである。
(これが特殊能力!?スキルというやつだろうか。やはり異世界には驚かされる。)
三人の連携はもちろん、個々の能力も非常に高く、戦闘は瞬く間に終結した。
私はこの時、初めて魔物との戦闘の恐ろしさと、この世界の人達の強さを知った。同時に、自分にはとても真似できないと感じていた…。
大草原を抜けると、遠くの方にローランネシア王国の王都ミキが姿を現した。王都ミキは、勇者ミキモトから名を授かり付けられたと言われている。余談になるが、ローランネシア王国の名称も、勇者ミキモトの正妻であるアシュレイ・ローランネシアから頂いているのだそうだ。
この王都ミキは、最初は城だけが存在しており、勇者ミキモトや、近しい者達だけで暮らしていた。そこに、勇者を慕い集まって来た者達が周囲に町を造り、王都ミキが誕生したそうだ。この国では、時代の流れとともにミキモトの血筋が貴族になり、王城の周囲を貴族だけの特区として区画整理し、町人達は外壁の近くに追いやられたのだそうだ。
王都は、周囲を城壁で囲っており、魔物や盗賊などの侵入を防いでいる。城壁の高さは10メートル程あって、よじ登って入るのは非常に困難だろう。
王都の入り口には、二台の馬車がゆうゆうすれ違えるだけの幅と、背の高い荷馬車でも問題なく通り抜けられるくらいの高さの、頑丈で大きな扉がある。
昼間は開門されており、検問所を兼ねている。ここでは、罪人や盗賊、身元不明者など、街に危害が及びそうな者の入場を取り締まっている。守衛は、入場、退場それぞれ二人ずつの計四名で対応しており、不測の事態にも対応できるように、近くの詰所には複数の兵士が常に待機しているそうだ。
私はこの世界では身元不明者として扱われるらしい。それはつまり、取り調べや厳しい審査を受けなければならないということだ。普通なら王都に入るのも一苦労だろう。しかし、ミリモルさんが身元引受人になってくれた為に、ミリモルさんの顔パスで難なく王都に入れたのだった。
大きな門を通り抜けると、王都ミキの街並みが姿を見せる。中世を想像する建築様式の建物が整備され、綺麗に並んでいる。決して新しい建物ではないのだが、色彩が全て統一されており、一言で言えば美しいが相応しい。イメージとしては、イタリアのフィレンツェの街並みが最も近いかなと思う。
馬車は、ゆっくりとしたペースで街の中を進んでいる。入り口付近は、主に商業地区のようだ。武器屋、防具屋、道具屋、魔法屋、本屋、飲食店、宿屋など様々なジャンルの店が並んでいる。同じジャンルの店も複数あるらしく、お店の数がとても多い。今度ミリモルさんに頼んで商業地区にも足を運んでみよう。
道を行き交う人々もとても多い。さすが王都だと感心する。人間種だけでなく、亜人種やエルフ種など様々な種族の人々を目にした。
馬車は、商業地区を抜けて一般居住区に差し掛かる。この辺りは、特別目を引く所はない。強いて言うならば、家に個性がないことだろうか。建物が統一されている為に、景観としては大変美しいのだが、どの家も同じなのである。まあ、前の世界のように表札のような物があるので、誰の家なのか困ることはないだろう。
一般居住区を抜けると貴族特区に入る。貴族特区に入る際にも検問所があり、一般人は無闇に立ち入れないようになっている。こちらもミリモルさんの顔でスルーと通過していた。
貴族特区の中には、ミリモルさんの邸宅がある。他にも幾つもの邸宅が建ち並んでいるが、都市として統一感を出している為に、個性的な建物は存在していない。ただし、手が掛かっているであろう庭や、門構え、敷地の広さなどを見ると、一般居住区とは格段な差があるのだと理解した。
ミリモルさんの邸宅は、王城の目と鼻の先にある。馬車は、ミリモル邸に到着した。お出迎えのために、中から使用人が何名か出てくるのを見ると、やはりミリモルさんは偉い方なんだなと実感する。ミリモルさんは、これまでのことを報告するために王城に出向くと言って邸を後にした。
私は、初めて訪れるこの世界の豪邸に、驚きと感動を抱きながら、ミリモル邸にお邪魔することを決意したのであった…。
―――― to be continued ――――
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