第3話 勇者の蔵

 ミリモルさんの言う通りに蔵の扉に手をかけると、一瞬で蔵の内部に移動した。


◇ 蔵の内部 ◇


(まさか、能力ミジンコの俺が本当に入れるとは…。)


 驚きと不安で喉が詰まった。深呼吸してから辺りを見渡す。今の所、生命の危険になりそうな状況ではなさそうだ。


 蔵の内部は、暗いものだと身構えていたが、天井には前の世界で言う蛍光灯とは違う種類の灯りがこちらを照らしている。この灯りの仕組みは魔法なのか、魔法の道具なのか、私には理解することはできない。そして、内部も驚く程に新しかった。


 部屋のスペースは、感覚的に、外観の寸法と大きくは違わないように思われる。壁には、勇者ミキモトと思われる肖像画や、妻や子供達の肖像画が多数飾られており、勇者ミキモトが家族を大切に思っていたことが伺い知れる。それ以外には、武器や防具、用途不明な道具、数多くの本などが山積みで置かれていた。


 その中で興味を引いたのは、片眼鏡だ。その名の通り、片方だけの眼鏡だ。丸いレンズに紐が掛かっている。これは、目から脱落した際に、床に落下しない為だろう。


(こういうの使ってみたかったんだよね。)


 蓋なしの木箱の中に、真っ赤な布が敷き詰められ、その中央に片眼鏡が置かれていた。それだけで大切な物であると理解できる。


 おそるおそる手に取って覗き込む。特に何らかの変化がある訳ではなく、レンズの先の景色が見えるだけだった。この片眼鏡には、特別な能力はなさそうだ。レンズを元の場所に戻し、奥へと進む。


 最奥には台座があった。近づいてみたが、台座の上に高価な物や、魂を調べる道具らしいものは見当たらなかった。今回ここに来たのは、私の魂を調べる道具を持ち帰る為である。まずは、そのことを調べる必要がある。一度引き返してもう一度探すことにした。


 目当ての道具を探す為に、入り口の方まで戻り、また台座の方まで移動しながら探していく。やはり見つからない。


 しかし、再び台座に近づいた時に、近くに石版が置かれていることに気がついた。石版は日本語で書かれており、劣化がない為に、容易に読めてしまった。


「よくきた 祖国の同胞よ 我この世界を救いし者也」

「この力 この世界に役立てよ」

「我の加護 主に 授ける この勾玉まがたまを首に」

「我道具 主に 授ける 加護の元に 扱えし」

「我 願う 子孫達に幸あれ」

「更なるを 求めるなら 台座に触れて 我を呼べ」


 口に出しながら石版の文章を口ずさんでいたら、台座の上に勾玉の首飾りが現われた。


「おお!凄い!勾玉の首飾りが出てきた!」私は、目を見張って思わず叫んでいた。


 それは、無色透明なガラス細工のような勾玉の首飾りだった。


「これが例の道具だね。」


 私は、石版に書かれていた通りに首に掛けてみた。


 これで任務完了である。


(石版の言葉通り、勾玉の首飾りが『勇者ミキモトの加護』ならば、さっきの片眼鏡も使えるかも知れないな。さっき使った時は反応なかったから一度試してみたい。)


 さっきの片眼鏡を箱から取り出して目に当ててみる…。


( !!!)


 偶然、眼鏡越しに見えていたカバンに文字が浮かび上がった。


名前 タイゲンのカバン

種類 伝説級アイテム

価値 ☆☆☆☆☆☆☆

相場価格 error

効果 無限収納 内部時間停止 変形 破壊不可 盗難防止

説明 タイゲンの愛用していたカバン。


「おお!なんじゃこりゃ!」


 片眼鏡の能力が発動して道具の解説してくれたようだ。


(この眼鏡には、鑑定の能力があるのか。結構使えそうだな。そしてこのカバン。伝説級アイテムって書いてあるんですけど!!価値が七つ星だし。価格はerrorか…値がつかないっことなのかな?)


(効果もあるのか…。無限収納ってことはいくらでも収納し放題だな。これは便利だ。ん?内部時間停止?これは必要なのかね?でも、盗難防止はいいね。伝説級アイテムだしね。どういう風に盗難防止してくれるか興味ある。耐久性能向上も必要か?まあいっか。このカバンも有難く頂くことにしよう。肩掛けのバックで、移動の際にも邪魔にならなそうだ。変形の能力もあるしね。)


 思わぬ収穫があったな。しかし、ミリモルさんを待たせている。そろそろ帰らないと…。


 私は、蔵から出ることを決意した。出入口の扉に手をかざしてみた所、再び元の場所に戻されたのである。


◇ 蔵の外 ◇


「わっ!お主は誰じゃ!」

 

 蔵から出ると、ミリモルさんが私を待ち構える様に立っていた。


(しかし、一体何を言っているんだろう?)


「ミリモルさん、何言っているのですか?私ですよ。レイです。」


「な、何じゃと?お主、レイか?」


 私の返答に周囲の人達がざわついていた。


「どうかしたんですか?」


 私は、ミリモルさんの反応に首をかしげた。


「お主、その顔!どうしたんじゃ?」


「顔ですか?特に何にもしておりませんが…。」


 ミリモルさんがあまりにおかしなことばかり言うので、池に移動して水面に写る自分の顔を覗き込む。


「なんじゃこりゃ!!」


 20歳頃の自分の顔が写っていた。余りの驚きに一瞬固まってしまった。よく見ればお腹も綺麗に引っ込んでいるではないか。


「お主、一体何をした?」


「いや、言われた通りに勇者ミキモトの道具を持ち帰っただけですよ。これが、例の道具です。勾玉の首飾りです。」


「ほほぅ、これが…。ふむふむ。いや、これはおかしい!」


「どうかしたんですか?」


「この勾玉は、今のお主の魂を示しておる。伝承によれば、善き魂ならば白くなり、悪しき魂ならば黒くなると言われておる。」


「しかし、お主の玉の色は黄色じゃ。」


「え、えぇ~!!」


 また、新たな波乱の予感がするのだった…。


ー to be continued ー

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