第2話 ここは異世界?

「まずは…じゃ。お主のことを詳しく調べさせて貰おう。」


 ミリモルさんは、私が悪しき存在でないかを調べるという。必要なことなのか疑問に思うが、私の身体を触ったり、魔法を唱えたりしながら、何かを調べている様だった。


 時々「フム、フム。」「いや、しかし…。」などブツブツ言いながら五分は弄られ続けた。


「よし、もういいぞ。」


 どさくさに紛れて股間を触るのは止めて欲しい…。


「調べた結果じゃが…。身体能力は、お粗末さまじゃった。戦いに向いておらぬ。魔物に踏みつぶされるのが関の山じゃ。魔力に関してじゃが、人並以下じゃな。修練しても大した魔法は習得できんじゃろうな。スキルに関しても…なーんにも持っておらなんだ。全くの約立たずじゃな。勇者の再来かと期待して来てみたが…期待して損したわ。」


(そこまでズタボロに言わなくても…。ミリモルさんに調べられてる間、もしかして勇者だったりするかも?と思っていた自分が恥ずかしい…。)


「では、最後にお主の魂の質を調べさせて貰おう。調べた結果が善き魂であったのならば、伝承の通り多少の支援は約束しよう。」


「良かった。ありがとうございます。」


 迷い人と言われる私の存在は、魂の質によって世界の救世主になる可能性もあれば、逆に世界を滅ぼす原因にもなりうるらしい。そこでミルモルさんは、私の魂の質を調べることにしたようだ。


 しかし、ここでは魂のチェックはできないのだそうだ。その為、今から馬車で一時間ほどかけてチェックできる場合へと移動するのだという。


 ミリモルさんの護衛騎士たちは、私を木製の手錠で拘束し、馬車に乗せたまま私の両脇に座っている。逃げられないようにするための措置なのだろう。しかし、まるで犯罪者のように扱われている気がして、心が重くなる。もちろん、私は邪悪な存在ではないと自信はあるが、もし誤解されたらどうなるのかという不安が心を締め付けていた。

 

 この馬車は、ミリモルさん専用の馬車なのだそうだ。一頭引きの白馬は、毛並みに艶感があって大変美しい。車体は、木造ベースで茶褐色の色彩を用いて統一感があり、落ち着いた雰囲気や、高級感を演出している。

 

 車内のスペースは、ワゴン車程の広さがあり、大人四名で座るには充分であった。

 

 意思疎通の魔法の効果は、一時間程度は持続したが、結局は消滅してしまった。私は、ミリモルさんにお願いして、また魔法をかけ直して頂いた。今後、言葉の問題は、自分で解決する必要がありそうだ。

 

「ミリモルさん。魂の問題が解決しましたら、この世界の言葉を教えて頂きたいのですが。」

 

「うむ。善き魂であれば…じゃ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 この魔法は、意思の疎通を可能にする便利なものだ。ただし、術者と対象者の間でのみ効果があり、護衛の方とはまだ意思疎通ができていない。さらに、その効果は約一時間ほどで消えてしまうため、少し不便な面もある。翻訳を可能にする能力や道具が存在しない以上、今後は自分で学習して覚えるしかないだろう。

 

 馬車は、賑やかな街の喧騒を避け、畑が広がるのどかな道を進んでいった。窓から見える野菜たちは、地球では見かけない不思議な形をしていた。広大な畑の彼方には、背の高い建物がひときわそびえ立っていた。おそらく王城だろう。


 馬車はひたすら進んでいく。景色は畑から大草原へと移り変わっていた。きっと、初日に私が捕らわれた大草原と同じ場所なのだろう。


時間があるので、私はミリモルさんに勇者ミキモトにまつわる逸話について尋ねてみることにした。

 

「コホン。良かろう。その昔、魔物が世界を覆い尽くし、魔族の王が誕生した。人類は蹂躙され、破滅の危機を迎えていた。その時、この世界の神の代理として異世界からやってきたのが御先祖じゃ。御先祖はこの世界に来るまでは普通の農民じゃったが、この世界に来た途端に異常な能力に目覚めたそうじゃ。力、速さ、魔力どれをとっても超人的じゃったという。」

 

「御先祖は、特殊な能力を多数持っており、優れた武器や道具を作り出す力や、相手の能力を見抜く力。魔法を操る力など、様々な能力を開花させて行ったそうじゃ。」

 

「御先祖は、その超人的な能力で魔物を次々に討伐し、最後には、たった一人で魔族の王を討ち滅ぼしたと言う…。」

 

 (勇者ミキモトすげぇ!まるっきりチートじゃん。きっとやりたい放題だろうな。う、羨ましいな…。)


「その後、勇者ミキモトはどうなったんです?」


「ローランネシア王国の初代の王となり、正室と側室二人との間に子を成した。後世の為に御先祖の能力を継承する為にじゃ。しかし、五人の子供達全てに能力の継承はなされなかった。」


「御先祖は、その後『蔵』を造り、後世の子孫に伝承と掟を遺し、姿を消したそうじゃ。ワシは、御先祖の遺した伝承と掟に従い、お主を『蔵』へと連れて行くのじゃ。」


「『蔵』とは一体何なのですか?」


「詳しくはワシにもわからん。何しろ蔵には御先祖の特殊な細工が施されておるのじゃ。ミキモトの一族の者ですら、誰一人立ち入ることがかなわなかったのじゃよ。未だに内部は謎に包まれておる。」


「わかっているのは、異世界から来た者は、蔵の中に入れること。その際に、魂の状態を表す御先祖の道具があって、それを持ち帰れるのじゃ。そして、今向かっているのが、その蔵じゃ。」


「マジですか!?」


「マジとはなんじゃ?」


「あ、あぁ。そっか。私は、蔵に行って勇者ミキモトの道具を持ち帰ればいいのですね?」


「その通りじゃ。」


 なるほど。ミキモト・タイゲンさんのことや、蔵のことなど色々なことを知った。そもそも、能力ミジンコの私が蔵の中に入れるとはとても思えないんだけど…。まあ、その時はその時。今の私には、この運命から抗う術はないのだ。


 馬車は大草原を抜けて緩やかな坂道に差し掛かった。


 (ここは初日に通った綺麗な池から下った時の道だ。)


 馬車は初日に私が通った道と逆方向に向かって進んでいた。私がこの世界で目覚めた場所はこの先にある。しかしあの時、私が目覚めた場所の近くには蔵のような建物は無かったと思う。


 しばらくすると目的地に到着した。少し先にエメラルドグリーンの池が見えた。初めに見た池と同じだろうが、前見た場所とは多少異なるようだ。私は警戒しながら周りを見渡した。エメラルドグリーンの美しい池と竹林のような木々が風情を感じさせていた。それから一際目立つ大岩があった。


 大岩は、幅が70メートルくらいで高さが3メートルくらいあるだろう。大岩の一部をくり抜いた形で『蔵』が存在していた。


 蔵の外観は祖母の家にあった倉に似ていて、瓦の屋根に白く塗られた壁。そして黒塗りの頑丈そうな扉があった。


「これが蔵か。ん、これは…。」


「レイや、どうしたんじゃ?」


「いえ…。」


 私はこの蔵に何か違和感を覚えた…。大岩を利用して造られたからではない。外観があまりにも新し過ぎるのだ。ミリモルさんのような子孫達が仮に定期的に手入れしたとしても、こうはならないだろう。1500年という年月が経過したのなら、必ず傷んだ箇所が出るはずだ。造った時の素材が地球にない劣化しない素材を使っているのか、魔法とかスキルみたいな物で劣化を防いでいるのか不明だが、普通ではないことは無知な私でも分かった。


「レイや、こちらへ。」


「はい。」


 ミリモルさんにエスコートされ、蔵の扉の前に立つ。これから起こりうることに対して、未知なものに遭遇するワクワクする高揚感と同時に、悪しき魂だった場合の恐怖心が入り混じっている。


「伝承によると、迷い人は扉に触れずとも手をかざすだけで蔵の内部に入れると言われておる。やってみるのじゃ。」


「わかりました。」


 私は緊張の中、脅えながら手のひらを扉にかざすと、扉が開いた訳でもないのに、一瞬で内部に移動してしまったのであった…。

 

ー to be continued ー

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