第23話 【王女、勇者SIDE】 誤算

「異世界人31人の様子はどう?」


「それなりに強くなってきましたが…」


何故か釈然としない答え方だわ。


「怒りませんから、正直に言って下さい!」


「ハッ…正直言いまして先の勇者、レイラ様より強くなれそうな存在がおりません」


「それは本当なの?」


「…」


目を逸らしたわ。


どうやら、冗談でも何でも無く本当のようだわ。


今回、召喚されたのは32名、そのうち1名は全く役に立たず、城から追い出した。


今回の戦いは、この31名を中心に戦わないといけない。


それなのに、その31名の誰もが『単独勇者』だったレイラより戦闘能力が低いと言うのだ。


『不味いわ』


どう考えても、あの時より強い魔王が現れ、こちらへ攻めてくる。


恐らく、その力は…過去最高戦力。


どんなに魔王が弱くても、カーミラ以下ではないわ。


それに加えて四天王に幹部…それらの強さがどれ程か解らない。


だからこその『異世界勇者』だった筈。


異世界から来た人間は、強力なジョブやスキルを貰い超人のような強さを持っている筈。


その彼らが、成長してもレイラに及ばない。


『あり得ない』


もし、本当に今後伸びないなら、この世界、その物の危機が迫っているのかも知れない。


最初に復活して来る、魔族軍の幹部。


その強さで、相手の戦力を計るしかない。


「本当なのね…その原因は解らないの?」


「こちらでも色々と調べてはいるのですが、原因は不明です…大昔の『異世界勇者』の伝承に比べると能力が現時点では半分もない気がします!これから伸びてくれれば良いのですが、そろそろ実戦の場に出す時期です! 此処で伸びてくれれば良いのですが…それ次第では…」


最悪、異世界勇者達だけじゃなく万単位の軍を組んで対処。


そして、世界で数万、数億の犠牲が出るのかも知れませんね。


◆◆◆


本当に俺達は大丈夫なのか?


異世界転移、勇者待遇…それに浮かれていたが、どうも物語の様に上手くいくような気がしない。


俺達の中で一番強いのは『勇者』の大樹だが、その大樹ですら、騎士相手に戦い、ベテランには勝てない。


『すぐに我々等足元にも及ばない程強くなりますよ』


そう言われて続けているが、本当にそれで大丈夫なのか?


自分達が勝てないから、俺達を召喚した筈なのに…


その俺達が、騎士に勝てない。


これは問題なのではないか?


誰もがこれに気がついている筈だが、黙っている。


盗み聞きするつもりではなかったが、つい聞いてしまった。


『何人生き残れるかな…』


そういう会話を…


楽観的に考えてはいけない。


我々、異世界人は『ハイリスクハイリターン』の取引をしてしまった。


そこ迄、皆は考えていない。


勝てば何でも手に入る。


前の世界では手に入らない『貴族の地位』に『領地』


たかが高校生が政治家を超える権力を手にする。


貴族の令嬢にメイドが居る暮らし、望めば叶うエルフとの婚姻。


前の世界じゃ考えられない。


だが…その代償は『命』


負ければ死ぬしかない。


俺は出来たら…死にたくない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る