第四章 日常
第15話 いつもの朝
「おはよう…ハァハァ理人くん…」
私は枕元にあったナイフで理人くんのお腹を突き刺した。
衝動によって刺す場所が違う。
朝起きた時、衝動が激しいとお腹、激しく無い時は四肢の何処か。
一番快感が走り、気持ち良く感じるのはやっぱりお腹みたい。
「うぐっ…ハァハァレイラ、おはよう」
理人くんは、私が刺すのを解っているから、私がナイフを持った時に、その痛みに耐える為に口に手ぬぐいを咥える。
今日は『裂きたい』そういう衝動がないからこれで終わり。
暫く、私の様子を見て、体が回復した理人くんがシーツをかたづけ始めた。
これが、毎日の日課だ。
「ゴメンね、今日は抑えられなくて…」
「うん、今日は裂かれなかったから、ほらもう治っている…だけど本当に良いの? 嫌々しているんじゃない? 俺は…その凄く嬉しいけど?!」
「ううん、全然足りない位だよ…なんだかゴメン、あのしたくなったら、あっちもしても良いからね」
私はせめてものお詫びから、下着姿で理人くんと一緒に寝ている。
本当は裸でも良いんだけど、理人くんに止められた。
『顔が赤くなって眠れなくなるから止めて』だって…
普通の人間が死ぬ様な怪我や苦痛を味わせて、その代償が下着姿なんてどれだけ私が好きなのよ…全くもう。
「いや、それは『罪の意識』で愛じゃないから、本当に好きになってからで良いからね」
もう充分好きになっていると思っているんだけどな?
「そう?…解った」
私は勇者として生きてきたから、男女の愛という物が良く解らない。
だけど、こんな私を引き取り、死なないとは言え、流血する毎日を選んだ理人くんが愛おしく感じるんだけど…愛とは少し違うのかな?
まぁ、解らないから『理人くんが望む事を全部してあげる』
それで答えるようにしようと思う。
尤も、何も要求して来ないから、本当に困るんだけど。
◆◆◆
「あはははっ、本当にゴメンね!」
「大丈夫、座ってて、一人暮らしが長いから家事は得意だから」
そう言うと理人くんは台所で朝食の準備をし始める。
最近、借りた宿には台所があり、そこで理人くんが料理を始める。
朝の行為の後、朝市で理人くんが買い物をしてきてご飯を作ってくれる。
私は…あははっ、朝が弱いし家事は苦手だから…それをただ見ているだけ…
「本当にゴメン…」
これで、本当に私は奴隷なのかな?
扱いが桁違いに良い気がするんだけど?
「良いよ、良いよ…さぁ、もうできるよ」
「ありがとうね…本当に!」
この朝食が凄く美味しい。
只の卵焼き、スープ、パンなのに、味が全然違う…
「どう致しまして」
う~ん絶対に奴隷の扱いと違うよね。
◆◆◆
「ハァハァ…」
「ハァハァ…」
理人くんが左手人差し指に糸を巻いて口に手ぬぐいを咥えた。
左手の人差し指第一関節に刃の厚いナイフを当てて、振り降ろした。
「うぐうううっっっーー、うんぐっ」
「ハァハァ…頂戴、あむっぺろちゅばっうんぐうんぐ」
指は切断され、指先から血が流れ落ちてくる。
私は、待ちきれず理人くんの手を口に運び咥える。
「ううっ、しみる….」
「ごめんね、あむちゅばっうんうんごくっ…」
私は一心不乱にしゃぶる様に血を吸い続ける。
バンパイアじゃないから食事じゃない。
だけど、血を吸わないと、血が欲しくなり思考が可笑しくなる。
だから、必要な事…なんだと思う。
呪いに寄って植え付けられた本能に近い衝動。
今迄は耐えてこられたけど…手に入る、貰えると解るともう駄目なのかも知れない。
「そろそろだな」
「あっあっ、うんぐちゅぽっ」
指が生えてきて血が出なくなっちゃった…まぁ何時もの事。
「それじゃぁハイ!」
「うんぐ…ありがとう」
理人くんは飴玉みたいに切断した指先を私の口に放り込んでくれた。
直接じゃないけど、これはこれで美味しい。
◆◆◆
異世界人の祖先が作った国『ワシン国』ではソードマスターが罪を犯した時の一番重い責任の取り方は腹切りだって聞いた事がある。
また、その国のマフィアは責任を取る為に『えんこ切り』といって指を切り落とすそうだ。
それを毎日、私の為にしてくれる理人くん。
胃袋、血、欲望…それを全部くれる理人くんに私は何を返せば良いのだろう…ハァ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます