第五四話 多種族が集う都市
俺達は上空を飛空艇で低空飛行している。好き好んで低く飛んでいるわけではない、高く飛べないほどに飛空艇が損傷してしまっている。
飛空艇の帆が張ってある柱のてっぺんには今から向かう都市国家の旗が掲げられている。リーフが他の都市国家に攻められないようにするために張ってくれたものだ。
船に空いた穴を適当な木材で埋めたあと、セラ、マナ、リーフらと共に談話室に移動した。
ソファーにはセラとマナ、そして向かい合うようにリーフが座っていた。一方、俺は壁に背中を預けて腕を組んで立っていた。
リーフが今から向かう都市について説明してくれている。
「今から向かう『魔境都市ブラッドライト』は眠らない都市と呼ばれているわ。夜でも人の往来が絶えなくて、明るい場所よ」
「皆、寝ないの?」
マナは純粋な疑問をぶつける。
「あの都市は高度な工業技術を持っていてね。その技術のおかげで深夜でも町中は歩くのに困らないぐらいに明るくて、人々の活動時間が自然と伸びてるって感じ」
リーフは説明しながらテーブルにあるカップを手に取り、紅茶を口に含んでから、二の句を継ぐ。
「特徴としては多種多様な種族がいることかな。この話だけでもあんた達の安全が保障されるんじゃないかしら」
「そうですわね。魔道教は人間のみを至高とした教えですし、多様な種族がいる場所には魔道教の息がかかったものは少ないはずですわ」
セラの言う通りだ。一〇〇パーセント魔道教の連中がいないとは限らないが安全である可能性は高い。
「種族の内訳を教えてくれ」
俺は口を挟む。
「人間、獣人、エルフそして……ヴァンパイア」
「「ヴァンパイア!?」」
セラとマナは同時に驚嘆していた。
「珍しいな。というかよく他の種族とヴァンパイアが共存できるな。あいつらは生命の生き血を吸うから相容れないとは思っていたが」
俺は持論を述べると、
「共存せざる得ないのよ、都市の高度な技術もあの場所で土地を確保できるのも元首であるヴァンパイアのおかげだからね」
さらに驚くべき事実を告げていた。
「ヴァンパイアが統治している都市国家か、魔法王国の連中が来るはずないな。むしろ魔道教の粛清対象にされているはずだ」
俺は『魔境都市ブラッドライト』には王国や魔道教に関わっている連中がいないという確信を得た。
「そのヴァンパイアは街を統治する代わりに生贄を出せとか言ってくるタイプに違いありませんわ」
「セラちゃん、それ偏見だって」
セラの言葉に呆れ気味なリーフ。
「ではその方はどうやって生き永らえているのかしら?」
「病院で献血を常時行っているから、そのときの血分けてもらって生きてるらしい。『やっぱり人間が一番美味いのう~!』って抜かしてた」
「台詞だけだと末恐ろしいな」
俺は率直に思ったことを述べた。
「かなり腕も立つし戦うことを考えたら確かに怖いかも、とまあこんなところかな今から向かう場所についての話は」
リーフは説明を切り上げて立ち上がる。彼女は俺達の顔を
「ほんとあんた達とんでもないことやらかし過ぎよ。セラちゃんは大将軍を殺して、マナさんは枢機卿を殺して、ファルさんは……」
リーフは言葉を詰まらせた。
「……大物は誰も殺してないな」
「あっ、なんかごめんね」
なぜか気を遣ってきやがった。
「別に気にしてな――」
「でもファル様がいなければわたくし達が行動することもありませんでしたわ」「そうだよ、それにファル君は名立たる人達を倒してるんだよ」
俺の言葉を遮ってセラとマナが擁護してきた。
「あらあら、信者達に火を付けちゃった」
「俺が気にしてるみたいな感じにするのやめろって、全く」
頭が痛くなってきた。俺は片手で頭を押さえる。
そのあと、俺達は解散し、単独行動を取った。
俺は適当な空き部屋で上半身を裸にし、剣――フランベルジュで素振りをしていた。
一心不乱に剣を振り続けるこの瞬間がたまらなく楽しい。
最近は戦うことも多かった。そのせいか、この行為に意味が持たされ、なおかつ力が身に付いているという事実を知って満足感を得ているのかもしれない。
「――誰かと思ったらファルさんか」
素振りの音が気になったのだろうか。リーフが部屋に入って来た。
「鍛練中だ」
「見れば分かるし、もしかして大物を殺してないことを気にして一心不乱に剣を振るってたとか」
「変なこじつけをするな。鍛えたいから鍛えているだけだ」
「あはは、冗談だし」
俺は再び剣を振るい、それをリーフはずっと眺めてくる。ときおり、会話をし、剣を振るい続けた。
「にしても随分と口調変わったね」
「本音を曝け出すようになっただけだ」
「以前のあんた、雰囲気なよなよしてたからね。今の方が好みよ」
「そりゃどうも」
俺が言葉を返すとリーフは去って行く。
いつまた敵が現れるか分からない。修業は欠かせないので都市国家に着くまで鍛練を続けよう。他の連中に手合わせをしてもらうのもいいかもしない。
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