第五五話 魔境都市ブラッドライト①

 『魔境都市ブラッドライト』の城門に着いたのは辺りが暗くなってからだ。それにも関わらず城壁に囲まれた都市内はやけに明るそうだった。


 普通、城壁は石か土造りなのだがこの都市の城壁は鉄で出来ているようだ。それだけで都市の技術力が高いことが分かる。


 城門の前には二人の門兵がいて、マスケット銃という兵器を持っていた。マスケット銃は殺傷能力は高いが装填や連射性に難があり、魔法王国では使われていない。


「よっ」


 リーフが『魔境都市ブラッドライト』の門兵に話しかける。


「リーフ様、お帰りなさいませ」


「お帰りになられたということは……もしやその方達が」


 兵士を恐る恐る、俺、セラ、マナの顔を遠くから窺った。


「リーフ、お前もしかして位の高い役職か地位に就いているのか?」


 俺はリーフに慇懃に接している兵士が気になってしまった。


「地位が高いというか、この街のエルフをまとめているのはあたしだし」


「族長の父親はどうした?」


「元気に生きてるけど、今はあたしの方が強いから」


 実力でまとめたということか。


 それから俺達は城門を通る。


「「「…………」」」


 街並みを視界に入れた瞬間、セラ、マナと共に思わず足を止めてしまった。


 どの建物も堅牢で背が高く、目の前に広がるメインストリートは夜にも関わらず燦々さんさんとしており、様々な種族が往来していた。


 まるで別世界に来たようだ。


 俺達は前を歩くリーフに続いて、メインストリートを闊歩かっぽする。


 周囲は人々の話し声で騒がしかったが、


「お、おい! あいつ見ろよ!」


 犬耳の獣人が俺に指を向ける。すると、周囲は騒然としながらも徐々に静まり返った。


「あいつが噂の」


「七色の魔眼だ……不気味だ」


「宝石みたいだわ」


「お前の感性はおかしい」


 人々は俺達を見てひそひそ話を始める。


「あれが大将軍殺しの王女か」


「俺、魔法王国の王族にあんまり良い印象ないんだよな」


「あの人、魔道教の聖女よね」


「魔道教からしたらもう聖女でもなんでもないだろ」


 セラやマナについて話している人達もいた。


「騒がしくなってきたね」


「ああ、予想はしていたがな」


 俺はマナに同調した。


「リーフ殿!」


 若いエルフの男が数人駆け寄ってきた。知り合いなのだろうか。


「……あんた達、大森林の生き残りよね。最近、あんまり見ないけど何してるの?」


 同郷のエルフらしい。


「わ、私達は今、警備隊として働いています」


「へぇ……で、あたしになんか用?」


「確認を取りますが、その方が王国の反逆者でしょうか?」


 警備隊の者達はリーフ越しに俺達をジロジロと見る。


「本当にあの王国の将軍達を倒したのでしょうか」


「正直、私にはあの国の人間を受け入れる納得ができてないのです」


 俺達に何か思うところがあるらしい。


 俺は前に一歩出て警備隊と向き合う。


「俺達をどう思うかは勝手だ。だが、将軍達を倒したのは事実だ」


「口ではなんとも」


「あーもういい。ファルさん構えて」


 痺れを切らしたリーフは俺と向き合って距離を取りながら喋った。


「なにをするつもりだ。手合わせでもするつもりか? こんな人の多いところで」


「手合わせまでしなくても、魔眼の力を一回見せつけてやればいいんじゃない。相手が納得しないなら実力を証明するしかないよ」


「それもそうか」


 俺はリーフの文言に納得すると、リーフを素手で弓を構えたようなポーズを取り、


「『シルフィードの弓矢』」


 呪文を唱えるとリーフの手元に白色の弓矢を発現する。あれがエルフ族特有の魔法だ。精霊から力を借りて武具や魔法を発現させている。


「いい?」


「やるなら早くしろ」


「せっかちな……っ!」


 そう言ったあと、リーフは白色の矢を放つ。


 その瞬間、


「速い!」


 すでに矢は俺の目前に到達し、『因果律無効の魔眼』の効力によって霧散した。


「「「おお……」」」


 感嘆の声を上げる警備隊達。


「俺も何か投げようかな」


「やめとけやめとけ」


 盛り上がる野次馬達。


「別にナイフでもなんでも投げていいぞ」


「えっ」


 俺は野次馬達を煽る。


「やっぱやめとこうかな」


 煽った瞬間に野次馬はよそよそしい態度になった。つまらん奴だ。


「これで実力には文句ないはず、じゃあ通るから」


「は、はぁ」


 リーフは強硬気味に警備隊を突破する。


 引き続き俺達はリーフに付いて行く。


「良かったですわ」


 セラがぽつりと一言言う。


「そうだな。無事に町を歩けて良かった」


「いいえそうではなくて、野次馬達がもしファル様にナイフを投げようもんならぶっ飛ばすとこでしたわ」


 えへっと笑顔を見せるセラ。


 それこそ警備隊に目を付けられるだろう。


「ですわよね、マナ」


「私はファル君を守ろうとして盾になるかな、それこそボロボロになってもね……」


 病みを孕んだ発言をするマナ。


「俺がそんなこと黙って見過ごすわけないだろ。自傷行為はやめろ」


「ファルくぅん優しい」


 急に甘えてくるマナ。


「ファル様わたくしも」


「おい、三馬鹿。早く着いて来てよ」


 セラも甘えてこようとするとリーフは俺達を馬鹿呼ばわりして歩くのを促す。


 さて、これからこの都市で一番偉い人物に会いに行くか。

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