第五三話 大森林の生き残り
『トレイシア大橋』で行われた魔道教との戦いに俺達は勝った。結果だけ見れば、完全勝利と言っても良い。
枢機卿は死に、神官は全員戦闘不可能、そしてプピロットは、
「あ、ありがとう……ございます」
セラとマナによって致命傷を応急処置してもらい、なんとか立ち上がっていた。とはいえ、顔面蒼白で今にも倒れそうだ。
「えっとお……」
プピロットは頬を指で掻いて、何か言いたげだった。
「言いたいことがあるならハッキリ言え」
「……マナベルク様」
俺が話すよう促すとプピロットはマナに声をかける。
「ん、なに?」
「す、枢機卿殺したって、本当ですか」
「本当よ」
「自分、それ魔道教に伝えなければならないんですが……今から自分、殺されないですかね、マナベルク様に」
「別に伝えてもいいよ。ファル君に免じて今回は見逃してあげる」
マナの言葉でプピロットはホッと胸を撫で下ろした。
そのとき俺はあっ、と声を出す。
「何か忘れ物でもありましたか?」
俺の顔を覗き込んでくるセラ。
「いや、そうじゃない。プピロット、ついでに王国の連中に伝えてほしいことがある」
「えっ、なにかなあ」
困惑顔のプピロット。
「ファル・ファインハーゼが魔道教の理念と腐敗していくだけの魔法王国に終止符を打つと言っといてくれ」
俺はさり気なく実の両親の姓を使って名を名乗った。
「挑発的だなあ、うっ、目眩してきた」
多量出血したこともありプピロットの体調は著しく悪くなっていた。
プピロットは腰を下ろす。
そんな彼を尻目に俺はその場を離れる。そして、セラとマナが俺の後に続いた。
今度こそ橋を渡り終えて魔法王国の領土を抜ける。
「飛空艇はどこに置いてきた」
「森の中に不時着させましたわ」
「壊れてないといいけどな」
一抹の不安を抱えながらセラに案内されて、飛空艇の元へと行く。
森の中の開けた場所に着くと、損傷した飛空艇が煙を上げていた。
「――待て」
俺は歩を進めようとするセラとマナを制止させる。
少女達は顔を見合わせたあと、俺の方を見る。
「船に誰かいる」
「「!」」
俺の発言で二人の少女を目を見開いた。
「マナ、他にも魔道教の連中がいるのか?」
「そんなはずないよ。橋の上にいたので全員だよ……ねぇ信じて」
マナは急にねっとりとした声を出して、俺に寄り添う。
「疑ってない疑ってないって、急に湿っぽくなるな」
「マナだけずるいですわ」
セラはマナに便乗して、反対方向から俺に寄り添う。
「そんなことやってる場合か」
「あらあら、微笑ましいんですけど」
「誰だ!」
船の上から人影が現れる。その人影は船から俺達の前方へと降り立つ。
「あたしの顔忘れた?」
「お前は……リーフ!」
見間違えるはずがない、緑色の髪は眉の辺りで切り揃えているロングヘアで、緑と白を基調としたワンピースを着ている彼女の名はリーフ・ガーディアン。魔法王国に占領された東の大森林にいたエルフであり、王国に留学にも来ていた族長の娘である。ただ以前会ったときと違って左眼に眼帯を付けている。
「あっ、リーフ! お久しぶりですわ」
セラはリーフに向かって手を振る、彼女達は同学年だったので仲が良い。
にしてもセラのその反応はおかしい。
「リーフちゃん生きてたの⁉」
今のマナの反応は理解できる。
「セラ、お前、リーフが生きてたことを知っていたのか? 俺とマナはてっきり王国が東の大森林を攻めたときのいざこざで死んだかと」
「ええ、だってわたくしがリーフを逃してましたもの」
セラは誇らしく胸を張る。
「そうだったのか……お前、ずっと前から王国に反旗を翻していたんだな」
少しセラの度胸に感心してしまった。
「マナさん心配かけてごめんね」
「生きてて何よりだよリーフちゃん」
「ふんっ」
リーフは鼻で笑う。満更でもない様子だ。
「リーフ、左眼どうした」
俺はリーフの眼帯について尋ねる。
「逃亡する際にやられてね、でも問題ないし」
「見えるのか?」
「元の眼球はもう駄目だったけど移植したから大丈夫」
「そうか良かったな」
「にしてもファルさんも派手なことするね、ありとあらゆる国があんたの話題で持ちきりよ」
「だろうな」
大陸最大かつ最も歴史のある魔法王国の王都が滅茶苦茶になったのは史上初の出来事だ。くわえて将軍達も戦闘不能なっている。あれから一ケ月経てば、その話を知らない者はいないだろう。
「ところで、リーフはなんでここにいるのですか?」
セラは疑問を投げかける。
「あんた達を待ってたんだ……今あたしがいる都市国家の元首が王国に反旗を翻した人間を招きたいそうよ」
「そりゃいい、ちょうどどっかの都市国家に向かおうとしてたからな」
俺達はリーフの誘いに乗ることにした。
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