第五〇話 反逆者vs最年少異端審問官③
プピロットの毒によって俺の体は蝕まれている。気にしないように努めても、どうしても気にしてしまう。
このまま戦い続ければ、体が言うことを利かなくなるだろう。そんなことを考えながら落ちた外套を両手で持ち上げる。
「これで毒に近づくのが怖くなったはずだよ」
プピロットの言葉を聞き流して外套を右拳に巻く。
外套は異様に重くなってはいるがさっき重くされた剣よりは軽い。腕の力には自信があるのでこの程度はなんとか持てる。
「別に逃げてもいいんだよ、『ポイズン・ウェイブ』って――」
プピロットは片腕を振り上げて毒の斬撃を飛ばしてくるが俺は毒の斬撃を『因果律無効の魔眼』で撒布させながら、前に突っ込む。そして、
「――うぐぅえ!?」
俺は跳躍しながらプピロットに向かって外套に包まれた右拳を振るう。プピロットは素早く腕を縦に構えて身を守るが、俺の拳によって左腕がメキメキと音を立てて、ひしゃげる。
そのまま拳を振り抜くと、プピロットは無様にも橋の上を転がり回る。
「ひぃぎぃ! ひぃ、ひぃ、腕が折れたよっ」
プピロットは青ざめた顔で息を乱していた。
「はぁはぁ……外套を重くしたことが仇となったな」
俺も息切れを起こしながら口を開いた。毒の影響が酷すぎる。
「ひぃ、ひぃ……仕方ない」
「おっ、軽くなった」
右拳に巻いていた外套が急に軽くなる。
「もっと重くすれば俺が持ち上げることもなかっただろうに」
俺は巻いていた外套を解いて下に落とす。
「元の物質が軽いとそこまで重くできないんだよ」
プピロットは左腕をだらんとぶら下げて立ち上がる。
「なるほどな……はぁ……どれくらい重くできるか分からないが対象の重さに比例するというわけか……ふぅ……はぁ……」
俺は毒の影響で乱れる呼吸を整えながらなんとか言葉を紡いだ。
「君、限界が、近いんじゃないの?」
プピロットは顔を歪ませながら喋る。腕の痛みに耐えているようだ。
「吐きそうな顔して何言ってんだよ……俺が毒で死ぬかお前が俺に殴り倒されるか、比べてみようか」
「怖いこと言うね」
「まあな……」
互いに無言で見つめ合ったあと、俺達はほぼ同時に動きだす。
「だあっ!」
プピロットは声を出して、『毒の手』を振るう。
「無駄!」
伸びてきた『毒の手』を魔眼の力で上方へと逸らし、空中越しに右ストレートをみぞおちへと食らわせる。
プピロットは前のめりになって倒れそうになるも、
「ぐっ! 『ポイズン・ウェイブ』! 『ポイズン・スピア』!」
さっきより少し小さくなった毒の斬撃と毒の液体で出来た槍を飛ばしてくる。
魔眼の力で魔法攻撃を散らして攻撃に転じようとするが、
「ごほっ……! くっ!」
拳を宙に振るおうとすると口から鮮血が飛び出す。
「もう限界なんじゃないのかなあ、ふべぇ!?」
俺は宙に向かって足を振り上げ、顎に蹴りを伝わらせる。
「はぁはぁ……まだまだこれからだ」
「はぁ……ひぃ……しつこいやつめ! 『ポイズン・ウェイブ』『ポイズン・スピア』!」
プピロットは魔法を連射し続ける。その度に空気中の毒の濃度が上がっていく。
俺は相手の攻撃魔法を魔眼の力で阻止しながら執拗に拳を宙に向かって振るうことで、打撃を与える。
打撃と毒の応酬。プピロットの片目は晴れ上がり、俺は毒によって多量の汗を掻いて体力をより消耗させられる。
俺は次第に拳を振るう回数を減らし、後ろへと後退していた。
「ぐっ……これ以上はまずい」
俺は片膝をつく。
背後には橋の上に突き刺さった俺の剣がある。
「や、やっとだあ……はぁはぁ」
プピロットは疲労困憊といった様子で両膝をついていた。その間に俺は背後にある剣の柄を握る。
「やはりか」
剣の柄を握った俺は小さく呟く。
「そのまま君は死んでいくんだ、やったあ……」
プピロットは勝利宣言をする。
「俺がなんのためにここまで下がったと思っているんだ?」
「え?」
「気付いていないのか……もうお前の魔眼の効力が弱まっているということが」
そう言い切ると同時に、俺は立ち上がりながら後ろにある剣を拾い上げ、そのまま上から下へと前方に振るう、
「がっはっ……!」
空中越しにプピロットへと伝わる俺の斬撃。
プピロットは肩口から腰まで斬られ、血飛沫を上げて倒れる。彼の肌色は紫色から元の色へと戻った。
「お前は魔力を消費し過ぎている。攻撃魔法だけではなく『ポイズン・モード』の魔法を維持するためにも魔力を消費していた。そのうえ魔眼にも魔力を吸われている」
「…………!」
俺の言葉でプピロットは眉を吊り上げる。
「お前が攻撃魔法を行使するたびに僅かながら魔法の威力が弱まっていたんだ。だから俺は魔眼による効果も弱まるはずだと踏んで剣がある場所まで下がった」
「そ、うだったのか……」
プピロットは絶望した表情をし、
「し、死にたく、ない……う……あっ」
呻いていた。彼の血が橋の上に広がる。このままほっとけばいずれ息絶えるのかもしれない。
「ごふっ」
俺は再び血を吐いてしまった。
「まずいな……」
自分の体に危機感を覚えるが、今はセラが神官達を無事に倒したのかを確認しに行かなければ。
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