第四九話 反逆者vs最年少異端審問官②

 俺は今一度、下に突き刺さった剣を見る。


 両手ならかろうじて持てるか? だが、いくらプピロットの攻撃を魔眼で避けれるとはいえ、動きが鈍くなるというリスクを背負いたくはない。


 両拳を前に構えたまま、中腰の姿勢になる。


「覚悟は決まったのかなあ?」


 プピロットは挑発的な言葉を送ってくる。


「なに勝ち誇った気でいるんだ、殺傷能力がなくなっただけで打撃も魔眼で生きるんだよ」


 俺は宙に向かってコンパクトに右フックを打つ。


「うぶっ⁉」


 宙に放った打撃がプピロットの顔面に伝わり、プピロットは鼻を押さえた。


「それぐらい予想して、っ⁉ かはっ!」

 

 俺はプピロットに喋る暇を与えず、コンパクトに右と左のフックを宙に繰り出し続ける。


 プピロットは上半身をなぶられ、尻餅をつく。


「くっ……!」


 プピロットは殴打による影響で鼻血を出していた。


 彼は右腕で鼻血を拭ったあと、


「だあっ!」


 右腕を突き出してくる。彼の腕は俺の足元まで伸びたように見えた。実際には、彼は腕に毒の液体を纏わせ、液体を手の形に変形させたもの――『毒の手』を伸ばしてきていた。


 魔法を唱えた様子はなかったのでこれも彼が先ほど唱えた『ポイズン・モード』とかいう魔法の一部だろう。


「はっ!」


 俺は側宙で一回転し横に移動して『毒の手』を避ける。


 しかし、背後から『毒の手』が迫ってくるのを感じたので魔眼の力で近づけないようにし、上方へと向かわせた。


「当たらない……!」


 プピロットは一言漏らす。


「これが君の魔眼の力……!」


 次にプピロットは『毒の手』を引っ込めた、その瞬間、


「おらぁ‼」


「ぐぶっ!?」


 俺は宙に向かってアッパーを繰り出すと、プピロットの体が後方に一回転する。


「うぅ……! 『ポイズン・ウェイブ』!」


 プピロットはうつ伏せになって、呻いたあと、魔法を唱えて片腕を振り上げる。すると、毒の斬撃が飛び出してくる。


「無駄だ」


 俺は斬撃に向かって突っ込むと、毒の斬撃は散布していく。そのまま、立ち上がったプピロットの顔面を宙越しに殴ろうとする。拳が直接届く距離にはいるが、体に触れてしまうと毒を食らう可能性がある。


「んなっ!」


 拳を振り抜こうとすると、俺の視界は空一面になる。


「外套が重い!」


 おそらく外套が相手の『重力操作の魔眼』によって重くされている!


 俺はすぐに外套を脱いで、足を後ろへとバタつかせながらも立った状態を維持する。一方、外套は橋の上に落ちると鈍い音を響かせて下へとめり込む。


「鉄の塊かよ……」


 俺は外套をチラッと見て呟く。


「痛いなあ、こんなに痛いのは始めてだ」


 プピロットは未だに俺のアッパーを食らったことで苦しんでた。


 俺は遠くからでもだけ打撃を与えれるがあいつの攻撃は俺の『因果律無効の魔眼』で防げる――


「……!」


 ――俺は目を見開く。形容しがたい不安が胸中に迫っていた。


「なんだこれ……鼻血か……?」


 違和感を感じて右手で鼻を擦ると血が出ていたことに気付く。


「ふぅ……はぁ……息切れもしている?」


 まだ疲れるほど動いていないのに呼吸が乱れ始めていた。


「自分も鼻血を出したけど君も出した、これでおあいこだね」


 プピロットは俺の様子を見てほくそ笑んでいた。


「まさか毒を食らったのか……? あいつに触れた記憶はないが……」


「でも自分が『ポイズン・モード』になってから一〇分は経ってるし無理もないよ」


「あ? そりゃどういう意味だ?」


 俺は相手の言葉から逡巡し、


「まさか、この空気中に散らばっているのか!」


 俺は首を振って辺りを確認する。


 仮に毒が周囲に散らばっているとしても覚醒している俺の脳が空間内の物質や生命の動きを把握してくれるはずだ。それができていないということは目視どころか顕微鏡を使っても見えないぐらいの毒が撒布されていて、俺の脳が気付かなかった可能性がある!


「ようやく状況を飲み込んだみたいだね」


「一応聞くが、この毒って致死性ある?」


「一時間以上その状態が続くとヤバいかなあ? もっと毒を取り込むとヤバくなるのが早まるのかも」


「ハッキリしないな……ごほっ……咳まで出てきやがった」


 だが、これでプピロットがわざわざ国境に連れてこられた理由が分かったな。魔道教は俺にプピロットの毒が効くかもしれないと判断したんだ。

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