第四八話 反逆者vs最年少異端審問官①
俺とプピロットは睨み合う。
数瞬後、
「――!」
前方にいたプピロットは俺の左斜め上に現れ、右腕を突き出して突っ込んできた。
「速い!」
予想を越える動きに虚を突かれたが、俺は体一つ分後ろに跳んで突きを回避する。
「駄目だあ、避けられたよ」
そのままプピロットの右腕は俺が立っていた場所に深々と突き刺さり、砕けた橋の破片が俺の顔に飛んできた。
「破壊力もあるのか、どういうことだ」
俺は疑問を口にする。
プピロットは身体能力を向上させた気配もない。何よりあの細身の体からは予想できないほどに速く、力強い攻撃をしてきている。
「お前、少し不自然だ。その力の源、確かめてやる」
吐き捨てるように言いながら、俺は腰の鞘を取り出して左手に持つ。
プピロットの体から滴る液体が溶解性を持っており、抜き身の剣を当てたくないので俺は鞘を振るうことにした。
「二刀流ってやつか?」
プピロットは気怠そうに俺の持っている剣と鞘を交互に見る。別に二刀流を習得しているわけではない。
「なんでもいっか、大人しくやられてくれよ」
プピロットは両手を手刀の形にする。
「無理に決まってんだろ」
俺は左手に持った鞘を横に構える。すると、プピロットは素早く距離を詰めて手刀を突き出してくる。
持っている鞘で手刀を下から上へと押し退けようとするが――
「は⁉」
――俺は素っ頓狂な声を出す。あまりの重さに相手の腕を押し上げることができず、鞘を落としてしまったので、俺は半身になることでなんとか手刀を避ける。
「どうしたのかな!」
プピロットは白々しい態度で、突き出した手刀を横に振るう。
「ふざけやがって」
素早い動きだが俺は身を屈むことで振るわれた攻撃を避けつつ、飛び込み前転で相手の背後に回り込む。しかし、プピロットは素早く振り向いて距離を取った。
「なるほど、そういうことか……お前の身体能力が不自然に高くて、今の攻撃を鞘で跳ね除けれなかった理由が分かったぞ」
俺は肩の力を抜いて語り始める。
相手の動きは素早いが単調な動きだ。戦い慣れた人間のそれではない……俺も戦闘経験が多くないので偉そうに言えたものではないが、知識と脳の処理で戦いの経験を補っている。
「何が分かったというのかな?」
「毒の体は厄介だが、やはりお前の戦い方は俺と同じで魔眼頼りだ」
「ふむ……そこまで分かったんだ」
プピロットは顎に手を当てて、得心したような顔つきをする。
「お前は移動した瞬間、『重力操作の魔眼』で体を軽くして速く動けるようにしている。そして、攻撃を当てる瞬間は体を重くして破壊力を生み出している、そうだろ?」
「うわあ、君凄いなあ」
プピロットは呑気にも拍手をしていた。どこまでものんびりしたやつだ。
「今度はこっちからいくぞ」
確かにプピロットは速いがサムエルよりは圧倒的に遅い。ならば、サムエルのときみたいに相手の速すぎる動きに脳の処理が遅れて、魔眼による遠距離の斬撃が当たらないということもないはずだ。
俺は剣を振り上げようとするが、
「持ち上がらない、重い」
つい手から剣を落としてしまう。すると、地面に剣が突き刺さる、それも柄まで深々と。
俺は落ちた剣をマジマジと見てしまう。
「君の殺傷能力は殺させてもらったよ」
プピロットの言葉につられて俺は顔を上げる。彼は俺に指を向けていた。
攻防の中で剣を重くされたのか?
「……やりやがる」
俺は不敵に笑いつつ、両拳を前に構えた。
「余裕みたいだね……」
「いや、結構焦ってるけどな。ハッキリいって追い詰められた」
「ふーん、そうは見えないなあ」
「例えピンチでもあえて笑うんだよ」
「それって意味あるの?」
「さあな、おまじないみたいなもんさ。気にするな」
ピンチのときでもあえて笑うことで、自分の脳を騙す。無理くりポジティブな思考に切り替えて武器を無くした窮地を乗り越えよう。
それに……ようやく、この戦いが楽しくなってきたなあプピロット!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます