第五一話 追い詰めた先に
セラが向かった先を見ると死に体の神官達が橋の上に転がっていた。
「こいつら生きてるのか死んでるのか分からないな」
セラの姿は見えないが橋の先で殴打音や橋が砕ける音が聞こえたので戦闘中なのだろう。くわえて、俺がプピロットを倒したので彼女にかけられていた『重力操作の魔眼』の効力は解けており、存分に力を振るっていることだろう。
「さてと、行くか」
俺は橋の先へと進もうとすると、
「ま……待って」
死にかけのプピロットの声で足を止める。
「まだ何か用か」
俺は背中越しに応じる。
「た、助けてくれ」
また命乞いをするタイプの奴か。この手の敵の心情は理解できない。
「あのな、俺の命を狙っといてそれは虫が良すぎるだろ。ごほっごほっ……毒だって体の中に巡ってんだ。いい加減にしろ」
「た……タダじゃない! げ、解毒剤をもって、る! ほら!」
「なんだと」
俺は思わずプピロットの方に駆け寄る。
プピロットは胡乱な表情でローブの内側をまさぐり、
「っ……これ飲め」
緑の液体が入った透明な小瓶を床に置く。
「いいのか? 俺が先に飲んだらお前をほっとくかもしれないぞ」
「そ、そんなことは君には……できない!」
「お前が俺の何を知っている」
俺は小瓶を拾う。
魔道教や王国から虐げられている人々、もとい、民を救いたいと思っているとはいえ、これは求心力を得るための大義名分でもあるので助けを乞う人間は見捨てないと思っているのか?
俺がそんな義理堅い人間に見えたのだろうか。
「チッ」
俺は舌打ちをしながら小瓶の蓋を開け、
「な……に!?」
プピロットの頬を片手で掴み、空いてる方の手で小瓶の中の液体を少しだけ口に垂らしてやる。
「ごほっ……うぇ!」
プピロットは急に解毒剤を飲まされたせいでむせていた。
「ふむ、毒ではないな……いや自分の毒は効かないとかか?」
俺はプピロットに解毒剤を毒見させていた。
「いくら、自分の、毒でも、口に含めばマズイことになる……」
「まっ、これは貰っとく、じゃあな」
「そ、そん、な……」
そもそも俺にプピロットを回復する手段がない。後でセラに頼もう。
その前に生きている神官にも解毒剤とやらを無理やり飲ませて確かめるか。
――――しばらく、橋の上を歩いていると煌めく白色のオーラが漂っていることに気付く。これはセラの魔力だ。
オーラの出所を視線で追うと倒れている神官達に紛れて枢機卿ジャスティン・バーバーが尻餅をついてセラを見上げていた。
「ひぃぃぃ! か、金ならやるのである! 見逃してくれえええ!」
王族だったセラが金に釣られるわけないだろ。
セラは俺に気付いたのか、後ろを振り向く。
「ファルさ……大丈夫ですか⁉」
セラは慌てて俺の近くまでやってくる。今の俺は鼻や口から血が出た跡が付いているのでセラが気にするのも無理もない。汗も未だに搔いている。
「大丈夫だ。プピロットの『毒属性魔法』で危うく死にかけたがな」
「毒を食らったのですか⁉ そんな! 早くなんとかしないといけませんわ」
セラは所在なさげにおろおろと足踏みをする。そんな彼女の姿を見て鼻で笑う。
「大丈夫だって言っただろ。解毒剤は飲んだ」
「……ああ、良かったですわ」
セラは俺の言葉で心底ホッとしたような表情になる。
生きている神官に無理やり解毒剤を飲ませた結果、問題は無かったので俺は残った解毒剤を服用していた。
「ば、ばぎゃな! 貴様がいるということは! プピロットの奴は負けたのであるか!」
ジャスティンは泡を食ったように叫ぶ。
「そういうことになるな」
俺はジャスティンに応じたあと、セラに耳打ちしてプピロットを後で回復させるように伝える。
「いいのですか?」
「ここで義理を果たさなければ、理不尽を敷いてくる魔道教の連中と変わらないからな。プピロットは見殺しにすれば俺の気分が収まらない、それだけだ」
「分かりましたわ」
セラは快く俺の頼みを引き受けてくれる。
そのとき、ジャスティンが、
「ぐふ、ぐふふふっ」
と、不気味に笑うので俺とセラは彼に顔を向ける。
「お前気でも触れたか?」
「セラフィ王女はほぼ無傷とはいえ体力は大きく消耗しているとみた、そしてファル! 貴様は毒を食らったばかりである! 解毒剤のことはよく知らぬが安静は必須!」
尻餅をついたジャスティンは冷や汗を掻きながら立ち上がる。
「今の俺達ならお前一人でも勝てると思っているのか?」
「さっきまで怯えてたくせに意味が分からないことを言いますわね」
「ここに連れて来たのはプピロット一人だけではないのである!」
ジャスティンは右拳を強く握りしめ、右腕を振って叫ぶ。
「そいつなら俺らに勝てると」
「そうである。貴様達が消耗するこの瞬間を狙った! 実力者でもあるうえに、お前達が最も戦いにくい相手だ!」
ジャスティンが言った『最も戦いにくい相手』という台詞で俺はセラと顔を合わせる。
「その名も――」「マナか」「マナですわ」
俺達はジャスティンの言葉を遮り、彼が言うであろう名前を言った。
「うぐっ……よく分かっておるではないか、さあ来いマナベルクよ!」
ジャスティンは戸惑いながらもマナを呼んだ。
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