第三一話 反逆者vs王国最強の盾①

 約三メートルの距離で俺はファルカオと対峙する。


 ファルとファルカオか……ややこしいな。


「ふぅうううううう!」


 どうでもいいことを考えていると ファルカオは左拳を前に突き出し、右拳を顔の横に構えながら息を吐いていた。


「お主の行動はこの国を脅かしている! よって、わしが討つ!」


「この国の存続がそんなに大事か?」


「笑止!」


 ファルカオは口角を上げる。


「ビタム家は長年王国を守ってきた。先祖から受け継がれていた使命を果たすまでだ」


 ファルカオ・ビタム――装備は青い鎧のみ、見るからに屈強な老兵であり、武器は露出した拳そのものだ。あいつが有する『鋼属性魔法』は肉体を硬化させ、物理攻撃を無効化にする。またファルカオは歴代のビタム家でも最強と言われており、その所以ゆえんは彼の『鋼属性魔法』が皮膚に刃物を通さないようにするからである。


 ファルカオが出血したところを誰も見たことがないという。


「そうか、それも一つの生き方だな」


 そう言って、俺は半身の構えを取る。


 兵士達はファルカオが戦うからか近づいてこない、他の将軍達は物見遊山気分だ。


「それではいくぞ! 『インペリアル・バースト』!」


 ファルカオは宙に向かって右拳を殴りつける。すると、直径三メートルの白い光線が怒涛の勢いで向かってきた。ちなみに『インペリアル・バースト』は正拳突きから魔力の塊を飛ばす魔法だ。


 俺は七色の瞳で真っすぐ光線を見据えたまま、そのまま光線に体が呑まれた……に見えたに違いない。


「⁉ 見るまでは信じられなかったが魔法の威力関係無しに無効化できるというわけか……!」


 ファルカオは目を見開いていた。


 俺の周囲一帯は抉られていたが俺自身は無傷だった。


「よっと」


 抉られた地面に降り立った俺は背後にいたマナとジャスティンを気にしたが、さすがに『インペリアル・バースト』を避けて、それぞれ別の方向に移動していた。


「こ、こら! 危ないのである!」


 ジャスティンはファルカオを咎める。


「…………『フルメタル』」


 しかし、ファルカオはジャスティンのことを気にせず、俺を睨みしながら『鋼属性魔法』で全身を硬化させる。


 刃物を通さない肉体になったわけだ。だが俺の因果律無効の魔眼で攻撃を有効にさせてやる。


「いくぞ」


 俺はファルカオがいる方向に向かって剣を振るおうとするが、


「っ⁉」


 剣を上段に構えて振り下ろそうとすると、ファルカオは両拳を地面に叩きつけ、その反動で俺に向かって飛んできた。それはまさに瞬きする瞬間だった。


 俺の剣は宙ではなくファルカオが交差させた腕を斬りつけていた。相手の肉体を傷を付けることができず、俺は剣を当てたことを利用して後方に跳んだ。


「チッ……!」


 俺は舌打ちをしていると、ファルカオは斬りつけられた部位を擦っていた。


「なるほど、これは中々の腕前だ……『フィジカルアップ』も使わずにここまでの膂力を身に付けるとは……膂力だけなら他の兵士を寄せつけぬな」


「その言葉、素直に受け取って感謝しよう」


 悪い気分はしない。


「そして……攻撃に素手が当たりさえすれば、無条件で体を傷つけることはできないようだ。まだ確証はもてぬが」


「…………」


 俺は押し黙る。


 さすが青の将軍だ。たったの一撃で魔眼の性質を見破るとは。


 魔眼は攻撃面に関しては、攻撃が効かない結果を無効化し、攻撃を有効化できる。例えば、物理攻撃が効かない相手や遠距離にいる相手を斬りつけることができ、また、鎧越しに肉体を攻撃ができる。


 だが、肉体そのもので攻撃を受け止められてしまえば、それは攻撃が当たっているということになる! 


「まともに攻撃をくらっても傷を負わない、これが『鋼属性魔法か』」


 攻撃が通じているのにほとんど効いてないというわけだ。


「お主の野望はここまでだ」


 ファルカオは俺に追撃を加えようとする。


 やはりそう簡単、この壁は越えれないか……だがまだセラに助けを求めるには早い、無論、最悪の場合は逃走することも考えているが。


 こんなところで逃げれば大事を成すことはできない。越えさせてもらうぞ、その壁を。

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