第三〇話 宣戦布告
何やら懺悔しないといけないらしいがそんなことするわけがない。俺は前に一歩出て、ジャスティンとマナを背に前方にいる人々を見下ろす。
「まずお前達に言うことがある。俺は懺悔をしにきたわけじゃない」
民衆は色めき立ち、将軍が率いている兵達は武器を構えて警戒する。
「ファル……君?」
背後からマナの戸惑う声が聞こえてくるが構わず話を続けた。
「この国は腐敗した。度重なる税収、塩や鉄の専売による利益確保、極端なまでの言論弾圧、土地の強制的な併合が行われてる。これが平民の為ならばいいが、王国と各地にいる貴族は互いを牽制しあうように利益を溜め込み続けている。これでは弱い立場の人間を追い込むばかりだ」
演説じみたことを言いながら、俺は腰にある剣の柄に手をかける。
この剣は宝物庫にあった刀身が波打っている剣――フランベルジュだ。今着ているものも宝物庫からくすねたもの、魔道具の一種ではあるが魔法を発動するものではなく防御力や攻撃力上昇の効果が込められているものだ。
「くわえて、魔道教の歪んだ教えが強烈な縦社会を産み、理不尽が横行している。魔道教の理念を盾に王国は民から武力と財力を奪い、各地にいる貴族は領地を私物化し、高い税や厳しい労役を課している。もはや、この国の天命は尽きたとみた」
俺は剣を抜き、掲げる。
「そして天命が尽きないと言うのなら俺がこの国を――破壊する」
「ふ、不届き者め‼」
ジャスティンが非難してきたので肩越しに様子を確認する。
「予定は変わったが、もはや生かしてはおけぬことが明白である! こいつを殺せ!」
次いでジャスティンは俺に向かって指を差して、抹殺することを命じた。
元々の予定は知らないがどのみち俺が何を言おうが今の結果が待っていただろう。
マナの様子を確認すると、目を丸くしていた。
その間、前方から青い鎧を着た兵士達が近づいてきた。あれは青の将軍ファルカオの手勢だ。
「下がれ」
俺はマナに言い放つ。
「でも!」
「俺なら大丈夫だ」
と、言いつつ左眼を覆っている赤い布を取る。俺の七色の魔眼が露わとなった。
「っ!」
息を呑むマナ。
「それがさっき言ってた魔眼……?」
「ああ、これがあるから大丈夫だ」
「でも……でも……」
それでもマナは動かないので俺は前に歩を進めて高台から降りる。
「行け!」
ファルカオは腕を差し伸ばして兵達に突っ込むように命じると、槍を突き出した兵士達が突っ込んでくる。
魔眼で俺の剣が届かないという因果を捻じ曲げてやるか。
「散れ」
一言と共に右手に持った剣を宙に振り払う。
その瞬間、
「「「あがっ⁉」」」
兵士達の首から赤い液体が飛沫を上げ、彼らは首を押さえて苦しみながら膝をつく。
「ぐっ」
「このままではっ……死ぬ……!」
まだ兵士達は死んでないが戦闘不能には違いない。
当然、この光景をみた民衆達は、
「う、うわああああああああああああ!」「こ、殺される!」「きゃあああ!」
逃げ惑って方々に散っていく。
「こんなことは報告になかったが……!」
ファルカオはいきなり首を斬られた部下を見て驚嘆していた。
「く、よくも仲間を!」
青い鎧を着た兵士が一人、憤って近づいて来る。
仲間を傷つけられて怒っているようだ。他にも言葉こそは発さないが、今にも俺を攻撃しようとする兵士達が何人かいた。
「それ以上、進めば死ぬぞ、忠告したからな」
「王国を舐めるなよ! 『フィジカルアップ・サード』!」
一人の兵士が体の身体能力を向上させて白いオーラに包まれると他の兵士も同様の魔法を唱えて身体能力を向上させる。
「チッ、やるしかないか」
舌打ちをしながら向かってくる兵達と相対する。
敵が間合いに入る前に俺は剣を宙に振り続ける。右側にいる敵に向かって剣を切り上げ、左側にいる敵には剣を振り下げ、鎧の中を容赦なく傷付ける。そして手を止めることなく、俺は前方から向かってくる敵に対して、剣を横に払うことで、鎧の中の腹を裂く。
近づいてきた敵は皆、俺に触れることもできずに倒された。
未だに俺に近づこうとしている兵士がいたが、
「止まれ!」
ファルカオが兵士達を制止させる。
「わしがやろう」
ついに来るか…………『魔王王国最強の盾』――ファルカオ!
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