第二九話 待ち受ける四人の将軍と枢機卿②
俺が噴水広場に現れると人々はざわついていた。歩を進めると民衆達は道を作るように横へと移動する。喧噪の中、俺は民衆そして兵達の間を通り、噴水広場の高台前にいる四人の将軍を視界に入れる。
代々、唯一無二の『鋼属性魔法』を有する家系であるビタム家の中でも歴代最強と言われている青の将軍ファルカオ。
魔法王国で唯一、魔法属性を四種類有している天才でもあり、無尽蔵とも言われている魔力を持つ白の将軍ナナ。
剣速と素早さについては他者の追随を許さず、あらゆる攻撃を受け流すことの出来る技量を持つ赤の将軍サムエル。
遠距離の攻撃魔法においては右に出る者はなくセラと同じく二人しかいない『光属性魔法』を有する黄金の将軍レイズ。
こうして将軍が揃っているのを見ると流石に圧巻されるがこんなところで気圧されるわけにはいかない。
それから、俺は高台に目を向ける。
魔道教のナンバーツー……枢機卿ジャスティン・バーバラがいるな、それと――
「なっ、なんで」
――声を押し殺して近づいて来るマナがいた。
いつも明るい彼女だが今日ばかりは表情が沈んでいる。
「なんで来たの……殺されるよ」
目の前まで来たマナは改めて声を出す。
「それにその眼は怪我してるの?」
マナは布の奥にある俺の左眼を見ようとする。
「何も聞いてないのか? 魔眼の事とか」
「え、う、うん……?」
困惑気味のマナ。
俺が魔眼に目覚めたことは枢機卿や将軍なら把握しているはずだ。それ以外の連中には何も伝えていないのか?
「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
気弱な声を出すマナ。
「まっ、必然だな。遅かれ早かれこうなるのは決まっていたのさ」
「ファル君? 変わった?」
俺のあっけらかんとした態度を見たマナは怪訝な顔をする。
「おおお! これはファル殿! よくぞ来てくれたのである!」
ジャスティンはわざとらしく大仰に腕を広げ、
「ささこちらに来て、懺悔し、無罪を勝ちとるのである」
手を仰いで、高台へと上るように誘う。
俺はマナと目を合わせる。彼女は俺に行ってほしくないようだが、顎で高台を指して歩くように促す。
ゆっくりと歩くマナに歩幅を合わせて高台へと移動する。
「最後まで一緒にいるからね」
マナはぽつりと呟く。このあと、俺が死ぬと思っているんだろう。
もう俺のことに関しては諦めの境地にいるようだ。魔道教の教えと俺との友情? の狭間で揺れているのだろう。仕方のないことだ、教皇の孫である以上、彼女にも立場というものがある。
「私も最後まで一緒だから、最後まで……」
「ん……?」
やたらと最後って言葉を念押ししてくるな。
「何をする気だ?」
高台の上へと到達する俺達。
「ファル君を一人で逝かせないから……セラもきっと分かってくれるはず」
マナの眼の焦点が合ってない。
「私も一緒に死ぬから、寂しい思いはさせないよ」
⁉⁉⁉
「あ……?」
俺は思わず口を開けてしまう。どういう思考をしてたら俺の後を追って命を絶つことになるんだ。
ふと、先日、セラが言った言葉を思い出す。
『ファル様はマナの本質を見抜けてないですわね』
確かにそうだな……こんなことを言う子とは思わなかった。
「さあファルよ! 罪を聖女に告白せよ、さすれば慈悲深い魔道教が許そう!」
ジャスティンは人々の関心を俺に集めようとしていた。
「クッ、ハハハハハッ!」
俺は顔を上げて笑うと、周囲が色めき立つ。突然、笑ったから無理もない。
一緒にいてくれた二人のことを何も分かってなかった自分自身に対して笑っていた。
笑い終わって向かい合っているマナを見ると、力なく微笑んでいた。死を覚悟した人間の表情だ。
「ほんと、笑うしかないよね」
俺の気が触れたから哄笑したと思っているらしい。ある意味、間違ってはいないが。
さて、マナが自死させないためにも、セラが凶行に至らないようにするためにも、そして世界を変えるためにも、そろそろここにいる連中に表立って反抗してやるか。
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