第一二話 死の瞬間

「私を愚弄した、その罪、命で償ってもらおうかね!」


 顔を歪めたクノクーノ大将軍は勢いよく喋っていた。


 クノクーノ大将軍が連れて来た兵は私を見てニタニタと笑うが、私を追っていた三人の兵やトルグ達は少し不満そうな顔をしていた。


 彼らは賞金目当てに私を殺そうとしていたのでクノクーノ大将軍に手柄を取られることが不服に違いない。


 くそ……人の……僕の命をなんだと思っているんだ。


「あ、あの! 大将軍様」


 トルグは何か言いたそうにしていた。


「なにかね、今取り込んでいるのが分からないのかね」


「す、すみません!」


 彼はすぐに平謝りする。


 次に私を追っていた王城の兵士が口を開く。


「そ、その大将軍殿……あの落ちこぼれがここにいるのは、俺達三人がここまで追い込んだおかげでもあるので何か――」


「なに?」


「い、いやなんでもありません!」


 クノクーノ大将軍に人睨みされると兵士は怯えて口を閉じる。


「だがまあ……私はあいつを殺した実績が欲しい、聞いてのとおり魔道教という強力な後ろ盾を得るためにな……」


 クノクーノ大将軍は一旦、黙ってから再び口を開く。


「つまりお金などいらぬ。言いたいことは分かるかね。クズの首は私が貰う、それ以外の部位は好きにしろ。一〇〇〇万ゼニ―は貰えなくともある程度のお金は貰えるだろ」


 そう言って、クノクーノ大将軍はニヤリと笑うと、王城の兵士が破顔する。


「無論、学生達もあいつの体の一部を持って行っていい。私は優しいからね。はっはっはっ!」


 笑い出すクノクーノ大将軍。


 その言葉にトルグとキリゲも口元を緩めた。


「あ、ありがとうございます!」


「このご恩は忘れないでやんす!」


 二人は大将軍に感謝する。


「胴体は俺達が頂こうか!」


「じゃあ俺は右腕!」


「左腕!」


 三人の兵士達は宣言する。


 身の毛がよだつとはこのことか。何故、こんなにも邪悪な考え方をしているんだ。僕がおかしいのか。


 いや……僕が弱いからだ。こいつらの良い標的になってる! 悔しい……悔し過ぎる!


「ひっひっ、てめえの足が金に見えてきたなあ!」


「その通りでやんす」


 トルグとキリゲは剣を手にした。


 こいつらを……倒せる……いや、殺せる力が欲しい! 理不尽に抗える力を!


 僕は歯軋りを立てる。


「やれ!」


「はっ。『ファイア・ビーム』!」


 クノクーノは連れてきた兵に命じると、兵の一人が指を向けて炎の光線を放ってくる。『炎属性魔法』を扱えるものが行使できる魔法だ。


 指の方向から熱光線の射線を読んで回避を試みる。


「ぐっっっ!」


 横に跳んで避けようとしたが、横腹を熱光線が掠める。


 今までの非じゃない、血が流れ始める。


「避けただと⁉ 馬鹿な! 『ファイア・ビーム』!」


 熱光線による追撃。そのうえ、


「貰ったああああ!」


 トルグは剣を振るおうとしてきた。


 この怪我で避けれる自信が無い! だけどこんな奴らの食い物にされてたまるか!


 地面を転がり腹部に向かって飛んできた熱光線を上手く避ける。


 速く立ち上がってトルグの攻撃を避けよう!


「っ!」


 熱光線によって負傷した部位が傷んで動きが鈍る。


「ひっひっ! 死ねい!」


「ぐっ!」


 なんとか上体を反らすが、ニヤケ面をしたトルグの剣によって首の薄皮を横一文字に裂かれる。


「はぁ……はぁ……死ぬっ!」


 僕は後ろ向きに倒れたあと、四つん這いでその場から離れる。


 首からは大量に出血していないので致命傷じゃない、だが、首を斬られた事実が僕の動悸と呼吸を速めた。


 身体能力を強化する魔法を使ってないから負傷しても避けれた! もし使われてたら死んでいた。


 涙が出てくる。不思議とこの涙は死への恐怖によるものじゃなかった。死に抗えない悔しさからだった。


 なんとか僕は立ち上がる。追撃がこないのは、もう私が逃げる力もないと判断されたせいかもしれない。


「くそ避けやがって! だがもうてめえは終わりだ! ひっひっ!」


 依然、トルグは笑っており、他の人達も笑っているように見えた。


 次第に周りの人達の表情が見えなくなり、歪んだ口元だけ見えるようになった。追い詰められて、目がおかしくなっていた。


「止めは私だ!」


 クノクーノは両手のひらを向けてくる。確か、あいつの使える魔法属性は『無属性魔法』と『風属性魔法』だ。殺傷能力を考えると放たれるのは『風属性魔法』!


「『トルネード・スラッシュ』」


 あいつの両手のひらから竜巻が放たれる。あれに巻き込まれれば、全身が裂かれるだろう――終わりだ。


 死を感じた僕は、竜巻がスローモーションで迫ってくるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る