第一一話 社会と結びつき過ぎた魔道教

 突如、現れたクノクーノ大将軍は顎を触りながら喋る。


「アルスター家もとんだゴミを養子にしたものだね」


 彼は僕をさげすむように見ていた。


 眼前には僕の命を狙う人間が一〇人以上いる。もう背を向けて逃げれる状況じゃない。なら……。


 僕は腰に携えているロングソードに目を向ける。無論、相手も僕を殺すつもりなのでロングソード、ハルバート等の近接武器を持っている。


 まともに戦って勝てるわけがない。剣による一撃には自信があるけど……相手は皆、魔法で二、三倍ほど身体能力を上げたうえで中距離から魔法を連発してくる。


 話し合いでもする? そんなことしても無駄に決まってるけど。


「…………大将軍様が……なんで僕を……お金が、目的ですか!」


 言葉足らずだったが、精一杯、勇気を出して口を開く。


「ファルだったかね。お前は馬鹿なことを聞くね、私は王家だぞ。お金が目的ではない」


「ではなぜ!」


 たまらず声を大にして聞く。


「私は難しい立場でね。分かるだろ」


「……大将軍様は王室に婿入りして今の地位を得たので、他の将軍や貴族の方からはあまりいい目では見られない立場であることは知っています」


「その通りだ」


 クノクーノ大将軍は後ろ手を組む。


「ですが、それが僕を殺すことと何が関係あるというのですか」


「お前を殺せば魔道教という強力無比な後ろ盾が手に入るのだ。魔道教が私の味方をしてくれれば、私の地位が確固たるものになり、うるさい連中も逆らわなくなる!」


 クノクーノ大将軍は両腕を広げて嬉しそうに語っていた。


「!」


 僕は目を見開いた。


 意味が分からなかった。


 魔道教は一〇〇〇年前に人々の求心力となり、この国が建国されたときの立役者でもある。そして、一〇〇〇年建った今では魔道教の影響力と存在感が周辺諸国にすら行き渡っている。また、莫大な財産と戦力を保有しているので、王族ですら無下にできない存在である。そのため、魔道教がクノクーノ大将軍の後ろ盾になれば、彼の地位は確かに確固たるものになる。


 それは分かるが、なんで僕を殺す必要があるんだ!


「なぜ、魔道教がそこまで僕を目の敵にしているの分かりません!」


「私だって知らん」


「なっ!」


 僕は呆気に取られていると、クノクーノ大将軍は再び口を開く。


「まあ、無能で落ちこぼれのお前は存在しても仕方はないだろう。魔道教は魔法使いの血統を重視し、魔力がなかったり魔法が使えない者は魔力がある者に尽くすと説いている。貴族なのに魔力がないお前は死ぬ運命だ!」


「それは間違っている……」


「なに?」


 僕が小声で囁くと、クノクーノ大将軍は不機嫌そうな声を出す。


「それは間違っています! 建国時、魔道教の理念は元々、民は魔法を扱える者に尽くし、魔法を扱える者は民を導き恩恵を与えることです。今は平民を搾取するために魔法使いの血統を重視する縦社会となって、魔力がないものや魔法が使えない者をないがしろにしているに過ぎません! 今の世の中は間違っています!」


 剣を振るっている時間以外は勉強に費やし、王女であるセラが持ってきてくれた禁書の中には建国時の歴史書もあり、そこで得た知識を喋った。


「それがなんだというのだ。魔道教があるからこそ、貴族達は楽して生きていける! 魔道教があるからこそ得する! 平民など知らん、その考えに至るのはお前が落ちこぼれだからだ! 力が無いからそんな考え方をする。違うかね」


 クノクーノ大将軍は瞠目し、自身の価値観を語る。


 確かに僕が迫害されてきたから、現状に不満を持ち、今の価値観が生まれたのかもしれない。


 世の中は不平等かもしれない。持たざる者が持つ者に虐げられて当たり前かもしれない。


 だけど僕はこいつらを認めたくない。


「確かに、僕の価値観は今の現状から生まれたものかもしれません」


 僕はうつむいて語り出し、


「だけど僕は君達のような人間じゃなくて良かったなと今でも思います。弱い立場の人を虐げることしかできない人なんかカッコ悪くてダサいので」


 最後に顔を上げる。


「っ! 落ちこぼれがほざきおって‼」


 クノクーノ大将軍は怒りを露わにしていた。


 言ったぞ言ってやった! 思ってたことを!

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