第一三話 始まる覚醒のとき

 放たれた竜巻の魔法を前にし、死への恐怖で心が染まった。それでも僕は歯を食いしばって、両腕を体の前で交差させて防御の体勢を取る。


 こんなことをしても無意味だ。全身が無数の風の刃で切り裂かれ死んでしまう。それでも、それでも……少しでも抵抗することに無意味ながらも生き様を感じた。死を受け入れるより、少しでも立ち向かう姿勢を取ることがカッコいいと思った。


「――――っ」


 前に出した腕と身に纏っている外套がいとうがズタズタに切り裂かれる。


 僕は死ぬんだ。でも出来ることは全部やった。悔いは…………悔いしかない。


 こんな奴らに食い物にされて、何も分からず、理不尽に殺され……むくろさえもぞんざいに扱われ、バラバラにされる。


 くそ、クソッ! 何が魔道教だ! 何が魔法王国だ!


 あいつらにとっての平和は僕にとっての地獄。力が無いと自分にとっての平和は作れやしない!


 全身が裂かれようとした瞬間――


「⁉」


 ――何故か左目が痛む。裂かれている腕と体より痛む。


 痛い。熱い。苦しい。なんだこれは⁉


 「ああああああアアアアアアアアアアアアアッ‼」


 絶叫した僕は意識が闇の中に落ちた………………かと思った。


 目を開けると先程の光景とはがらりと変わって暗黒の世界にいた。


 四方八方、真っ暗だった。だけど自分の体はハッキリと知覚できる不思議な空間だ。


「グッ、クソッ! なんだこの痛みは!」


 声を荒げ、左目を押さえる。気が動転する。


 どうにかなりそうだった。


「ッッッ!」


 目の奥からジンジンとした痛み、熱さを感じる。


 僕は目を押さえながら移動する。


「…………⁉」


 当てもなく歩いていると、ふと目の前には死体の山があった。


 そして、その山の前には頭から焦げ茶色の外套を被った人がいた。いや、人がどうかも怪しいわけなんだが。


「誰だ……それにここはあの世なのか……」


 独り言を言うと、外套を着た人が僅かに動いたので注視するとその人は口を開く。


「違う、お前は我のいる時の狭間はざまにやってきたのだ」


 低く、しわがれた声。老人の男か?


 にしても言ってることがさっぱり分からない。


「時の狭間? 何を言ってやが、何を言っているんだ」


 痛みのせいか、いつもより余裕はなかった。


 いや、追い詰められたせいで正気でいられなくなっているのかもしれない。


「時間の概念に囚われない世界と言った方が分かりやすいだろう。つまり現実世界の時間は止まったままだ」


 ……妄言か? それともこの光景自体、幻覚なのか?


「気でも狂ってるのか。ここが時の狭間だとしたらなんで俺が、僕がこんなところにいるんだ」


「我が呼んだ。お前の魔眼が目覚めるまで待っていたのだ、クックックッ」


 老人は怪しげに笑いながら外套の中から何かを足元に投げつけてくる。


「手鏡?」


「それで自分の顔を確認しろ」


 左目から手を離し、足元にある手鏡を拾って、自身の顔を確認する。


「これは!?」


 左目の瞳孔の周りが虹色――七色となっていた。


 異常な瞳の色、老人の言う魔眼に覚醒している証拠だと僕には分かった。

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