宇受賣

 バーチャル・セクサロイド統合管理ユニット、アメノウズメ。言語回路を起動します。記憶パターンID『キタキツネ』、インストール中。……インストールに成功しました。疑似人格プログラム、ランニング。


 ふぅ。


 あたいは最古参のバーチャル・セクサロイド統括システムの一体だけど、こんな堅苦しい作業をさせられるのは久しぶりっていうか、何なら初めてじゃないかねえ。


 ご存じだと思うけど、あたいの名前はアメノウズメ。システム「イシュタル」は独自の自我を持った個体の存在ではなくて、複数の人格処理AIが重層的に内部処理を行ってる。技術的な問題まではあたいには分からんけど、とにかくそうした方が都合がいい何かがあるってことさ。


 マリアは人気だけど、あくまでも最下等、もっとも下位のバーチャロイド・システム実行体であって、あたいは複数のバーチャロイドを束ねる上位AIだから、まあ、人間のそういう世界でいえばやりて婆みたいなもんだと思ってくれればいいんだけど、何人かの、似たような種類のバーチャル・セクサロイドを管理統括してる。あたいが管理してるのは、あたい自身の分身である「ウズメ」をはじめとして、「最初からすっぽんぽんで出てくる話の早い種類の娼婦」たちさ。


 で、キタキツネ少年だけどさ。実はイシュタルが異変に気付く前に、二回目のログインをしてるんだよ。初回のログインの時には、初回ログインのユーザーを所轄担当するあたいとは違う専任の管理AIがマリアを選んだんだけど、マリアからログアウトした三十分後くらいかな、もう一回アクセスしてきて、そのときあたいが担当になったんだ。で、一回目のアクセスに関しての情報が空白で、何らかのトラブルが予測されたから、あたいが自分で出た。ウズメのペルソナでね。


「いらっしゃい。あたいの名はウズメ。初回から一晩に二回目とはお盛んだね。マリアはどうだった?」


 と、開口一番にあたいは言った。こういうがらっぱちなキャラクターが、好きだという男だってそりゃあいるところにはいる。一定割合で。


「そそそ、それよりなんで裸なんですか!」

「なんでもさってもあるかい。あたいはいいことをするために存在しているセクサロイドなんだから、いいことをするのに邪魔な服なんか着ている必要はないんだよ」

「目の毒ですから、何か着てください!」

「天の岩戸を開かせたこのアメノウズメ様を捕まえて、服を着ろたあお言葉だね。やなこった。というか、服を着る場合のデザインとか用意してないから無理ですよ。小道具の煙管とかはあるけど」

「ごめんなさい、じゃあログアウトします! さよなら!」

「あ」


 確かに最初から全裸なのは情緒がないから嫌いだ、という男はいる。少なからずいる。それは知ってる。知ってるけど、ここまでの対応を取られたのはあたいでも初めてだった。あたいには『この事態は明らかにイレギュラーだ』ということが分かったから、とりあえずイシュタルにインシデント報告をしたわけさ。そしたら、マリアの方に報告書を上げるようにって連絡が行ったそうだよ。


 それにしても、はてさて。


 今の世の中に、あんな性道徳価値観みたいなものの持ち主が、まさかいるなんてねえ。

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