昇格?

 治療室で目覚めたおれはカラダに残る傷を確認していた。


 そういえば鬼殺しの試練はどうなったんだ? おれが生きているってことは試練クリアしたってことだと思うけど、途中からあんま憶えてねぇ。


「おや、起きたかね」


 と女性が言ってきた。治療室の先生だろうか?


「起きたら学園長のところへ行くようにと言伝を預かっていたのだけど、立てるかい?」


「まあ、立てます」


 おれはベッドから起き上がって学長室へ向かった。


 気になることが沢山あったから、早く向かわねば。





 おれは学長室の扉を開をノックした。


「どうぞ」


 と学園長の声が聞こえたので扉を開けた。


 学長室には学園長と明日香さんがいた。


 どうして明日香さんが学園長室にいるんだ?


「よ! 少年!」


「あ、どうも……それで、何かおれまずい事しちゃいました?」


「いいや、鬼殺しの試練の話でここへ呼んだだけだよ」


 おれだけ呼ばれるの? つまりおれって凄いから二階級特進みたいな感じで一気に犬豪とかになれちゃったりするの? それがマジならラッキー。


「それで、結果はどうだったんですか?」


 はぁ、とため息をついた学園長は、


「日野陽助君、君は現状維持らしい」


 え? つまりおれって犬草のままってこと? なんで? あんなに頑張ったのに何が足りなかったの?


「あの、おれの評価シートとか無いんですか?」


「それが無いんだ」


「え? 中継にも繋がっていましたよね? おれが中級の鬼を倒したの観てなかったんですか?」


「低級の鬼を十体以上倒したところと中級の鬼にとどめをさしたところは映ったんだけどね、中級の鬼との戦闘過程が映らなかった。たぶん何者かがカメラに細工を施していたのだと思うよ」と明日香さんが答える。


 ボロボロになって戦ったのにどうして大事なところ映ってねぇんだよチクショー。


「――あ、じゃあ、犬の仮面を着けた奴も映ってないんですか? その犬の面を着けた奴は鬼と手を組んでいたんです!」


「犬の仮面……残念ながらそれは映っていない」


 そんなのありかよ……おれ殺されそうになったんだぞ。


「しかし、君の証言から得られた情報は大きい」と学園長。


「え? それってどういう意味ですか?」


「この学園内には裏切り者がいるということだよ。まあ、元からドッグズには光の部分と闇の部分が見え隠れしていたからね」と明日香さんは答える。


 裏切り者がおれのいのちを狙っている? 比渡が狙われるのは分かっていたけど、どうしておれまでいのち狙われてるんだ?


「闇の部分は何を目的に行動しているのか分からないが、より強い犬因子を持つ者を狙っている」


「そして昨日の鬼殺しの試練で少年は標的にされたわけだ」と明日香さん。


 強い犬因子を持っているから命を狙われるのか……。


「君はベアトリクスの犬因子を持っているから狙われるというわけだ。まあ仮説にすぎないが――君の中の犬因子を取り出す技術があるなら君を殺してでも連れ去りたいわけだよ」


 おれを殺してでもって……八木か霧江しか心当たりがねぇぞ。


「まあ柴子、この辺で表と裏の話はやめよう。学生を関わらせるのは危険だ」


 いやいや、もう十分に関わっているじゃないですか。おれいのち狙われたし、比渡が暗躍部隊に狙われているの知っているし、もう関わり過ぎていると思うんですけど。


「そうですね」


 てか学園長の名前を呼び捨てって、明日香さんって何者なんだ……。


「まあ、話を戻して――鬼殺しの試練で君は犬闘に昇格できなかったわけだ」


 それ二度も言わなくていいっすよ。結構落ち込んでいるんで。


「昇格には八木家と霧江家が関わっているからねぇ……まあ、少年は八木家当主と霧江家当主に嫌われているわけだよ」


「嫌われるような事してないんですけどね……」


「まあ少年、落ち込むな! 中級の鬼とやりあって生きているなら儲けもんだ!」


 けど、これからというか一生犬草は正直ツラいっす。


「そう、落ち込むことはない。鬼殺しの試練は言わばスカウトする場だ」と学園長。


「スカウト? なんのスカウトですか?」


「インターンシップだよ」


 インターンシップって……学生を奴隷のようにこき使うインターンですか? 嫌よ嫌よ! おれは比渡の犬であり続けていたいわよ!


「日野少年、わたしのところで少しの間働いてみないか?」と明日香さんは言う。


 働くか……働きたくないです、とは言えないので、


「働かせてください」


 これといった感情を乗せないでおれは言う。


「よし! 決まりだ! 別にいいだろ? 柴子」


「ええ、構いません。ですが、学生のいのちに関わるようなことはさせないでくださいね」


 これから先の展開はどんなものになっていくのか……この時のおれはまだ知る由もなかった。

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