謝罪

 修行修行と日は経ち、明日は鬼殺しの試練だ。


 結局シミュレーションでは中級の鬼に勝てなかった。けれど中級の鬼のスピードには追いつけるようになってきたから良しとしよう。


「はぁ」


 と、おれがため息をついて廊下を歩いていた時、


『あ』偶然にも比渡と出会ってしまった。


 あの反省会から一度も口を利かなかったおれたちの間には、少し気まずい空気が流れている。


『あの……』とおれと比渡は口を揃えた。


『反省会の時は……』とまたしても口を揃えた。


 何この空気、滅茶苦茶苦手なんだけど。てかどうやって比渡に謝ろう……。


「あの、おれから言っていいか?」


「ええ、なにかしら……」


「あの時の反省会では悪かった。犠牲が合理的な作戦だとか言って、比渡の感情を考えていない発言をした……ほんと、ごめん」


 うわぁ、おれって初めて他人に謝ったんじゃないか? 今まで友達もできなかったし、喧嘩とかもしたことなかったし……おれって人間してなかったんだなぁ。


「いいえ、あなたの考え方も一理あるわ。どうしても勝てない敵の前では犠牲もやむを得ないもの……わたしの方こそごめんなさい」


「いいや、比渡が謝ることはない。人間の感情を考えなかったおれが悪いから……だから、おれが一番悪い」


「…………」


「…………」


 滅茶苦茶気まずいな。自分の過ちを認めて謝るのってこんなにも難しいものなのか。口から内臓が飛び出しそうだ。


「あ、ヒトリさん!」


 と、この気まずい空気を入れ換えるように現れたのは三島秋だった。


 その秋はおれと比渡を交互に見て、


「もしかしてお取り込み中だった?」


 ばつが悪そうに言ってきた。


「いいえ、少し話をしただけだから……」


「ああ、ちょっと、明日の鬼殺しの試練について話していただけだ」


 おれは嘘を言う。だって反省会の時のことを謝ったとか言いにくいんだもの。


「そっか、ついに明日だよね。日野君は合格できそう?」


「あ、いや、どうだろうな」


 低級の鬼十体は簡単だろうけど、中級の鬼は難しい。でも、クリアしなければおれに明日は無い。


「秋はどうなんだ? クリアできそうなのか?」


「ふっふっふ、わたしは結構自信あるんだぁ……相手が遠距離型じゃなければだけどね」


「そうか」


 自信ありか……おれは中級の鬼を倒せる自信がねぇからな。その自信を分けてほしい。


「比渡はどうなんだ? クリアできる自信あるのか?」


「わたしは、まぁまぁ自信あるわ」


「――ヒトリさん凄いんだよ! ベータ階級因子無しで訓練ホログラムの中級の鬼に勝っちゃうんだもん!」


 え? マジ? たしか比渡はオメガ階級因子が大器晩成型だったよな。それなのに中級の鬼を倒したのか! スゲーな。


「そうか……おめでとう比渡」


「それを言うのは早いわ、明日が本番よ」


「ああ、そうだな」


 はぁ、成長があまり感じられないのはおれだけか。やっぱり学校でのボッチって生き残るのツラいよなぁ。


「照れなくていいんだよヒトリさん。流石攻撃型は違うね!」


「そうね……」


 アルファ階級因子の攻撃型は生まれ持った才能だったっけ。鬼を殺す才能がある……なんか複雑な才能だな。


「じゃあ、おれは失礼する。明日早いし、休んどかねぇとだし」


「ええ……おやすみなさい」


「おやすー!」


「ああ……」


 と、おれは自室へと向かおうとしたら、


「日野君、一緒に生き抜きましょう」と、比渡は言ってきた。


「おう」


 おれは手を上げて返事をした。


 明日でおれが生きていけるかが決まるんだよなぁ。今日比渡に謝ることができてよかったのかもしれないな。

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