東雲雪の実力

 おれたち第十班がグラウンドに来てみたら、Fクラスの生徒がみんな倒れていた。


 え? どういう状況?


「第一班! 休んでいないで立て! 実戦では待ってくれないぞ!」


 と先輩らしき人物が大声を出していいる。


「ほうほう、先輩方に勝ててる班はいまだ無しか」と東雲先生。


「あの、これって何をやっているんです?」


 おれは東雲先生に質問した。


「見ればわかるだろ、戦っているんだ」


 いや、Fクラスのみんな地面に寝転がっているだけだし、戦いとかしてなくね。


「東雲先生!」


 近寄ってきたのは先輩らしき人物だ。たぶん階級は犬闘だと思う。


「おう、Fクラスの生徒はどうだ?」


「まだまだダメですね。ベータ階級因子に頼りすぎている子もいれば、アルファ階級因子防御型で守るばかりの子もいます」


「そうかそうか、引き続き鍛えてやってくれ」


 と、先輩は一礼して自分の担当している班へと戻っていった。


「じゃあわたしたちも――の前に、班員になった者に自分の犬因子の特徴を教えときなさい」


 東雲先生は言うので、まずおれから紹介してやろうではないか。


「日野陽助です、犬因子は超人型です」


「比渡ヒトリです、アルファは攻撃型、ベータはまだ発動できません、オメガは大器晩成型なので成長は遅いです」


「三島秋です。アルファは適合しませんでした、ベータは身体強化型です、オメガは平均型です」


「茅原実凪です。アルファは防御型です、ベータは一応身体強化型と武器強化型両方使えますが、武器強化型の方が得意です。オメガは早熟型です」


 そんな感じで犬因子の紹介が終わった。


 犬因子紹介して何に役立つのか疑問だが、まあ情報共有は大切という意味だろう。


「どれ、じゃあわたしたちも一戦やるか」


「一戦やるって……ルール――」


 と言い終わる前におれは東雲先生に殴られ、吹き飛ばされた。


 痛ってぇ~、教師が生徒殴るとか許されるの? 両親にもぶたれたことないのに!


「ルール? ああ、言い忘れていたな」


 遅いよ! おれを殴ってからルールの説明するとかあんた鬼かよ、ていうか鬼よりもたち悪いよ!


「ルールは簡単――昼までにわたしに一発攻撃を当てれば君たちの勝ち」


 なにその一発って、おれは何発でもやれるよ? でもその一発は個人レッスンでお願いします。比渡にバレないようにお願いします。


 てかどうやって一発当てればいいんだ?


 と、おれが考えていると、秋と実凪が東雲先生に突っ込んでいった。


「ベータ階級因子身体強化型、拳、開」と秋。


 秋は東雲先生に拳の連打を始めたが、躱す躱すと、秋を殴り飛ばした。


「――遅い! そんな遅くては中級の鬼に勝てないぞ!」と、東雲先生は実凪の方を向いて「次は、実凪!」


「防御型! 剣、開!」


 咄嗟の判断で実凪は剣に防御型を付与して守りを固めるが、


「防御型の使い方は上手いが、防御だけでは相手は倒せない。防御型の利点はカウンターを狙える点だ」


 防御の上から実凪は殴り飛ばされた。


「ただ相手が悪い。防御の上からねじ伏せるのが格上の攻撃型だ」


 おいおい、手加減ぐらいしろよ。おれたち犬草だよ? 犬聖のあんたに勝てるわけないじゃん。


「どうした比渡! 強くなりたくないのか!」


「あの、東雲先生、武器を使っていいんですか? わたしベータ階級因子を持ってないんですけど……」


「武器? 全然使って構わないぞ。実凪も使っているし、まあわたしを殺す気で来ても今の君たちの力では一発も当てられないし」


 と、比渡はムッとしてから日本刀を鞘から抜いた。比渡は意外にも負けず嫌いな性格らしい。


「参ります!」


「おいおい、四人で来ないとチームワークにはならないぞ、何のために班に分かれて犬因子の特徴を教え合ったのか考えてみろ」


 東雲先生は日本刀を素手で掴むと、比渡を蹴り飛ばした。


 え? 刃物って素手で握っても大丈夫なの? このひと人間か? いや人間じゃねぇよな。


 と、東雲先生はタバコに火をつける。


 一瞬にしておれたちを地にねじ伏せた東雲先生は余裕の面持ちだ。


「作戦を練る時間をやるから、次はチームワークを活かしてみろ」


 このひとバカ強ぇ。犬聖ってのはこんな化け物みたいな奴らなのか。

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