惨敗
「おら! どうした! 超人型が聞いてあきれるぞ!」
「おわぁああああ!」
と、東雲先生は狩りを楽しむ獅子の如くおれを弄んでいる。
ヒエェー! 東雲先生の方が超人型なのではないですか? さっきからおれのパンチもキックも全然当たらないじゃないですか! どうなってんのこれ?
「陽助君! 作戦Bで行ってみよう」
と、実凪は言ってきた。
この戦いの中で友情が芽生えたのであろう彼とは少し仲良くなっていた。陽助君って呼ばれるの慣れてないからなんか恥ずかしいな。おれもボッチ卒業か、なんか悲しいな。
ええとそんなことは今はいいとして、作戦Bは……たしか、攻撃型の比渡を待機させておいて、おれと秋と実凪で東雲先生の動きを封じる作戦だったな。
この化け物相手には三人で動きを封じるしか手はねぇはず。
「うおりゃ!」「はあぁ!」「せい!」
おれと秋は東雲先生の腕にしがみつき、実凪は両足を掴んだ。
「それは一発に入らないぞ」
「分かっていますよ、こんな格上相手には犠牲の駒が必要ですから」
それにしても東雲先生良い匂いするなぁ、タバコの臭いもするけど。独身なのかなぁ? って、そうじゃねぇ!
「今だ! 行け! 比渡!」
「やあぁ!」と比渡は突撃した。
「なるほどな、一番俊敏な攻撃型を後方に置く戦闘形態か……しかし少年少女よ! 年季が違うのだよ! わたしの力にひれ伏せ!」
いや、あんた教師でしょ? どうしてそんな鬼みたいなセリフ使ってんの? もうちょっと教師っぽい説教でもしてみたら? それかアドバイスしろよ。
「うおらああぁぁ!」
と東雲先生が地面を殴ると学園が震えた。
「ちょっと東雲先生! 学園が壊れます! 少し手加減をしてください!」
「あ? ああ、すまない。少し調子に乗り過ぎた」
おれが最後に見たのは先輩方に注意される東雲先生だった。
学園のチャイムの音で目が覚めた。
授業はどうなった?
「一番最初に目覚めたのは日野でした。パチパチパチ」と東雲先生は拍手をする。
「え?」
と、周りを見るとFクラスの奴らはみんな倒れていた。
「超人型は回復が早いな」
「それより先生、授業は?」
「はっはっは、Fクラスは惨敗だ。一人として先輩方に一発当てた者はいない」
マジかよ……おれたちは東雲先生を相手にしていたから一発当てられないのは分からなくもないけど、先輩方って犬闘だろ? 犬闘と犬草の差ってそんなにあるもんなのか。
「いやいや、もうちょっとやると思っていたんだけどねぇ。わたしの教育がまだまだ甘かったようだ」
クソ! こんなんじゃ鬼殺しの試練なんてクリアできねぇ。
「もう一回お願いします」とおれは立ち上がった。
「まあ待て、今の君ではどう足掻いてもわたしに一発当てられない。焦る気持ちも分かるが、今日のところは休め」
「休んだところで――」
言おうとしたところで東雲先生はおれの方に人差し指を立てた。
「――休めば犬因子が育つ、これは早熟型でも大器晩成型でも同じことだ」
「…………」
「それに昼だ、昼食でも取ろうじゃないか」
「……うす」
こんなことで鬼殺しの試練をクリアできるのか……。
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