授業

「歓喜しろ男子、悲しめ女子、Fクラスに入ることになった比渡ヒトリだ。みんな仲良くしてやれ」


 東雲先生がめんどくさそうに言うと教室はざわめきが起こった。


「マジか? あの比渡家の生き残りがどうしてFクラスに?」「御三家って言えばSクラスに入るのが普通じゃない?」「まああいつは犬学出戻りだし当たり前じゃね?」「ここに戻るためにコネでも使ったんじゃない?」「どうせカラダでも売ったんだろ?」「清楚系ビッチってのは噂じゃねぇかもな」「頼めばやらせてくれるかな?」


 と、事情も知らないとなると色々言ってくれるな。


 それでも気にしない凛とした態度の比渡は、おれの隣に腰かけた。


 どうしておれの隣に座ったの? もしかしておれのこと本気で気になってきた?


「よし! じゃあ授業始めるぞ」


 お、授業か、そういえば犬学の授業って何やるんだ? 昨日は体力測定だけだったし、授業っていう授業はしなかった。


「まず最初に言っておく、鬼殺しの試練で生き残れるのは半分もいない」


 それまず最初に言っちゃいけないでしょ。おれ怖くなってきたよ。


「と、脅しは止めておこう。Fクラスだからといって卑下することもない、Sクラスの奴らでも全滅するかもしれないし、Fクラスの奴が全員生き残るかもしれない」


 ん? もしかしてFクラスって能力が低いヒトの集まりだったの? おれベアトリクスの犬因子持ってるのにFクラスなの? なんで?


「粒揃いと言われていたお前たちの世代でも、今回ばかりは死者がでるかもしれない」


 いや、生徒が死ぬ前に先生方が鬼を殺せよ。


「わたしたち教師陣は傍観者だ、死にたくない奴は鬼殺しの試練を受けなくていいが、今後犬草から階級は上がれなくなる。つまり一生下っ端ということだ」


 えぇ、それって給料低いのに死ぬような仕事を永遠と続けなくちゃならないってことだよな。嫌だなぁ、怖いなぁ。 


「ちなみにわたしが鬼殺しの試験をクリアしたのは十歳の時だ」


 え、マジか。このやる気のない教師がそんなに凄いわけ? あ、東雲先生の階級って犬聖だったっけ。てことは滅茶苦茶強いってことか。


「君たちにはまず犬闘を目指してもらう。犬闘になれば小隊の副隊長クラスにはなれるだろうが、まだまだヒヨコだから死ぬ確率も高い」


 犬闘か、じゃあカイト小隊の隊長だから犬豪クラスの実力を持っているってことか。


「犬闘階級になれれば後は実績を積むだけで犬豪や犬聖になれる。犬闘は一番大事な階級ということで、皆本気で頑張れ」


 と、東雲先生は言うとタバコを取り出して火をつけた。


「では今日の授業の内容を説明する。今日はわたしが決めた班に分かれて犬闘の先輩方と戦ってもらう」


 えぇ、格上と戦うの? 


「では名前を呼ばれた奴から着替えてグラウンドに行け、第一班――」


 と、東雲先生は班を分けていった。


 そして最後に教室に残ったのは……


「日野陽助、比渡ヒトリ、三島秋、茅原実凪かやはらみなぎ君たちは第十班だ――それと、君たちの相手はこのわたし、東雲雪がする」


 ほほーん、組手でもやるのか? まあ何でもいいけど、犬聖の実力というものを見れる数少ないチャンスが巡って来たわけか。


「さて、ではグラウンドに行くぞ! 少年少女たちよ!」


 この時のおれは単なる腕試し程度だと思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る