強くなれ

 目覚めれば、犬学の自分の部屋だった。


 昨日暗躍部隊にやられた傷は治りかけているけど、カラダ中がまだ痛い……そんなことより比渡はどうなった?


 おれは廊下に出た。一番最初に行くとこっていったら、学長室だ。


「学園長! 比渡は!」


 と、ノックもせずにおれは学長室の扉を開け放ったら、そこには比渡と学園長がいた。


 良かった、無事だったか。


 カイトは? もしかして殺されたのか……。


「そんなに慌ててどうした、日野陽助」


 と、おれの背後を取るのはカイトだった。結構ボロボロの姿だ。


 なんだ、お前も無事だったか、あのガロウとかいう奴にやられたかと思ってたぜ。てかおれの背後取るのやめろよ。


「まあなんだ、君たちも入りなさい」


 学長に言われたおれとカイトは学長室に入って椅子に座った。


「比渡から大体の話は聞いたよ、大変だったね。話してくれればわたしも助けに行ったのに」


「いえ、信頼できる者を選んだだけです」


「わたしは信頼できないかね?」


「あの時点で一番信頼できたのは日野陽助だけでしたので」


「ふっ、そんな固い頭で物ごとを考えていて疲れないか?」


 ああ、おれも学長の考えと同じだ。この頑固イケメン男はもう少し柔軟な考え方をするべきだ。


「思考停止した考えはまた惨劇を生みますので、返って固い頭の方がいいと思います」


「……まあ今回は君の考え方が比渡ヒトリを救ったわけだ」


 ですね、カイトひとりじゃまず無理だっただろうしな。あのガロウとか言う暗躍部隊の副隊長はかなりヤバかった。


「うーん、どうしたものか……」と学長。


 うん、何がどうしたものなのか分からん。


 と、おれはカイトに「何か問題でもあるのか?」と耳打ちした。


「比渡ヒトリがいのちを狙われているのは確信に変わった。つまり学園側からしても比渡ヒトリは受け入れがたい存在なんだ」


 なるほど、比渡が学園にいることで他の生徒が危険にさらされる、だから学園側は保護できないってことか。


 それでは困るな。


「あの、どうにかして比渡を学園に置いとけないんですか? この学園以外に比渡が安心して生きていける環境なんてないと思うんですけど……」


「わたしが学園長といっても上には上がいる。その方々を通さないと比渡は受け入れられないんだ」


 その上の連中には八木や霧江といったドッグズの権力中枢がいるわけだな。


 静まり返る学長室には希望なんて言葉はない。


 クソ、どうすれば比渡は安心して暮らせるんだ……。


 そこに「コンコン」と、ノック音が大きく響いた。


「学園長、八坂様からお手紙です。なんでもすぐに開けて確認してほしいらしくて」


「八坂様から……」


 と、学長は封筒を開封するなり、ニコリと笑った。


「八坂様は何でもお見通しのようだ」


 学長は比渡に一枚の紙を渡してきた。


「これは……」と、比渡は驚いた。


 なんだ? 気になったおれは覗き込んだら、比渡ヒトリを開闢犬学園へ転校させるという話の趣旨が記入されていた。


「比渡ヒトリ殿、ようこそ犬学へ」と学園長は笑顔で言った。


 ははっ、八坂様ってのは何者なんだ? こんな紙切れ一枚で比渡の命綱を繋ぎ留めやがった。


「と、これから大変だぞ日野陽助君」


「え? なんでおれが大変になるんです?」


「この学園で強くならないと誰も守れない。もちろん学園側は強くなるサポートを全力でする。ただし、サポートをするだけだ」


 その先は自分で強くならなくちゃいけないわけか――それだけじゃないよな、比渡を受け入れた学校側は暗躍部隊に狙われる、つまりおれとカイトの我儘を聞いてやるんだから、生徒を守る側にもなれってことだな。


「誰よりも強くなれ、日野陽助」


 最強へ駆け上がれという言葉か。まったく無責任な言葉だ。


「お前もな、カイト」


「日野君……わたしも守られてばかりじゃダメだって分かったわ。だからわたしもこの学園で強くなるわ」


 おっしゃ! いっちょ最強になってみるか。


 あと青春ラブコメの主人公におれはなる!

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