比渡ヒトリの犬
おれとカイトは豚学の屋上まで飛んだ。
ヒーロー参上という感じでうまく着地できればよかったのだが、おれだけカッコ悪く着地失敗した。
「雑種め」とカイト。
おいおい、今は力の使い方下手くそだけどいつかはお前より強くなってやるからな! 助けてください日野陽助様とか言っても助けてやらねぇからな!
「ヒーローが完璧だと思うなよ。てか雑種は可愛いんだぞ!」
と、おれとカイトの目の前には比渡と暗躍部隊の連中が五人いた。
「日野君!」
「おいテメェら、寄ってたかって女の子ひとりをイジメるなんて恥曝しにも程があるぜ。イジメるならおれをイジメろ!」
決しておれはドMではない。比渡ヒトリの前ではドMになるが、他の奴らの前では絶対にマゾヒストの心は解放しない。
「イジメ? おれたちは比渡ヒトリを殺しに来たんだよ」
「その面見りゃ分かるぜ。ドッグズの下っ端だろ」
「下っ端かどうかは死んでから考えろ!」
と、下っ端共がおれに攻撃を仕掛けてきた。
おれは攻撃を躱し、一人、二人、と気絶させた。
「ほう、人間相手でも少しはやれるようだな」とカイト。
「こいつら本当にドッグズの暗躍部隊なのか? 弱すぎだろ」
「下っ端の雑種だな。暗躍部隊がこいつらでよかった」
あと三人か。この程度ならおれひとりでも余裕だな。
「カイト、比渡を連れて犬学まで行け」
「いいや、お前が比渡を連れていけ」
「おまえの方が足速いだろ。さっさと行け」
「おれにはやることがある」
カイトが言うと、もう一人暗躍部隊の誰かが校舎屋上まで飛んできた。
「鬼殲滅第五小隊隊長カイトか……これはまた結構な奴が来たものだ」
現れた奴はそう言っておれたちの方に武器を構えた。
なんだこいつ、さっきの奴らより桁違いに強ぇな。おれじゃ勝てねぇ。
「暗躍部隊副隊長――ガロウだな」
「ほう、おれを知っているとは……ドッグズの闇に足を踏み入れているな?」
「ドッグズの白い部分と黒い部分は昔から対立しているからな」
白と黒、表と裏か。なんだかめんどくせぇ話になってきたな。
「日野陽助、ヒトリを連れていけ」
まったく、おれに命令するのは比渡だけにしてほしいのだけど、ここではそうも言ってられねぇか。
カイトとガロウの戦いが始まった。
「行くぞ比渡」
「え、ええ」
と、おれは比渡のことをお姫様抱っこして豚学の屋上から飛び降りた。
飛び降りた後に、比渡に引っ叩かれたのは言いたくない事実だ。
「急に抱っことかしないでよ……」
「階段使うよかこっちの方が早いだろ、合理的だ」
そんな言い合いしている場合じゃねぇ。早く比渡を犬学まで連れていかねぇと。
と、おれと比渡は走った。
走って走って、逃げて逃げてと……残念ながら暗躍部隊の連中が追いついてきやがった。
「日野陽助、比渡ヒトリを置いて学園へ戻れ」
おれの名前も有名になったものだな。
相手は五人だ。おれ一人でやれるか? さっきのような強い奴はいなさそうだが、勝てるか分からねぇ。
「おれだけ戻っていいのか? 今殺しておけば御三家の連中が喜ぶんじゃねぇか?」
「標的は比渡ヒトリだけだ、貴様に用はない」
ほんと残念だよ、おれはお前らに用があるんだわ。
「誰の命令だ……」おれは訊いた。
「暗躍部隊が依頼人の名前を――」
と、言い終わる前におれはザコAを殴り飛ばして気絶させた。
「貴様! おれたちとやろうってのか!」
「はいはい、ザコのセリフありがとう」
やってやろうじゃねぇか。おれの青春ラブコメは始まったばかりだぜ。
と、流石に四人相手じゃ分が悪かった。おれはボコボコにされて地面に這いつくばった。
痛ぇなぁ。おれが超人型って言っても防御力には限界があるのか。こいつら結構やるじゃねぇか。
「ふっ、ザコはどっちだ。そこで比渡ヒトリが殺されるのを見ていろ」
おれがザコか。確かにおれはザコい、でもな、気持ちまでザコになってねぇよ。
おれは気合いで立ち上がった。
ここで立ち上がらないでヒーローにはなれねぇ。なあ、日野陽助、陰キャヒーロー爆誕の時だぜ。
「ほう、まだ動けるか」
「ああ、お前らの攻撃なんて全然効いてないね。どのくらい効いてないかって言ったら、ネットゲームで暴言チャットするゴミクズの言葉より効いてないね」
と、血を吐き出すおれは強がってみた。
意識が遠のきそうだ……でもここで比渡を守らなかったら死んでも死にきれねぇ。
「なぁ比渡、最後に願い事を言ってくれ」
「願い……日野陽助、最後にもう一つわたしの願いを聞きなさい」
「ああ」
「――わたしの犬になりなさい!」
元からおれは比渡ヒトリの犬だ。最初に屋上で言われた時と変わらねぇ、おれは比渡ヒトリのたったひとりの犬だ!
「ははっ、犬にでも何でもなるぜ!」
おれは駆け出し、暗躍部隊の四人を気絶させた。
おれ暴行罪で逮捕されないかな? って、もう殴っちまったし遅いか。
と、おれは瞼を閉じてしまった。
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