最低最悪のFクラス

 東雲先生によってドアが開け放たれた。


 教室内は静かだ。せかっくの編入生が来たというのに歓迎のざわめきすら聞こえない。


 うわぁ、おれ歓迎されていない感じ? もしかしてだけど、すでにボッチ確定している感じ?


「ほらみんな、編入生だぞ。歓喜しろ女子、ガッカリしろ男子」


 パチパチパチと、小さいながらも拍手は聞こえた。


 やっぱり歓迎されていないよねこれ。まあ編入試験免除だしそうなるよね。みんな頑張って試験受けて入学したんだもんね。そりゃそうなるよね。


「ほれ、自己紹介」


「あ、初めまして日野陽助です。好きな動物は犬、好きな食べ物は……」


「――あ、分かった! 好きな食べ物はドッグフードだろ?」


『ははははっ!』


 え? 何こいつ、おれ自己紹介しているのに静かにしとけよ。てか好きな食べ物ドッグフードって何? おれのことイジメたいの? 後でぶん殴るよ?


「こら、まだ自己紹介の途中だぞ、静かに聞いてろ」


 と、東雲先生はめんどくさそうに言う。もしかしてこの熱血先生は「イジメはありません!」っていうタイプの先生か? ちょっと失望するよ。


「ええと、好きな食べ物はすき焼きです、よろしくお願いします」


 ふむ、完璧な自己紹介だな。弱点もさらけ出していないし、好きなものだけを答える、これぞまさに自己紹介。


「それだけか? もっと言っていいぞ、時間はあるし」


 え? 今の短い時間での自己紹介はダメなの? 自己紹介ってこんな感じじゃないの?


「特に言いたいことはないっす」


「じゃあまずはわたしから質問してやる」


 えぇ……めんどくせぇ先生だな。


「前の学校はどんな感じだった?」


「ええと……前の学校は、普通の良い学校でした」


「どこら辺が良かったの?」女子生徒が訊いてきた。


 自己紹介で女子に質問されることとかあるのか? もしかしてこの女子おれのこと好きなんじゃね? いや、まて日野陽助、女子という生き物は質問したい生き物だと聞いたことがある。(独自調査で)


「ええと、昼休みとか、屋上を独占できたところとかですかね」


「独占って、何人かで群れてたのか?」


 男子生徒は訊いてくる。


 群れていたというか、おれは犬で比渡が飼い主だった……そんなこと言えない。


「まあ、ひとりではありませんでした」


「それって比渡ヒトリとラブラブしてたってこと?」「うわぁ、犯罪者ってか共犯か」「比渡ヒトリも学校じゃボッチだったの?」「ボッチに決まってるだろ。犬学の中等部でもボッチだったんだから」「ボッチどうし仲良くやってた? どこまでやっちゃったの?」「比渡ヒトリって清楚系ビッチだったんだろ?」「金持ちだったのに没落したらカラダ売るしかないよね」


 なんだこいつら、比渡のこと何も知らないくせに悪く言いやがって。


「質問は一人ずつしろよ」


 とあくびをする東雲先生。あんたも先生ならもうちょっと叱れよ、学生が汚い言葉使っているぞ。


「ええと、比渡ヒトリには感謝しています。おれを退屈な日常から非日常へ連れ出してくれたこともそうですし、鬼と戦う力をくれました。何の才能もないおれが鬼と戦えるようになって少し自分に自信が付きました。だから――比渡ヒトリを悪く言う奴は許さねぇ」


 教室内が静まり返った。


 自己紹介で喧嘩売ってきたのはお前らなんだからな! おれは悪くねぇぞ。


 まあしかし、これでおれはボッチ確定か。まあいいか、おれの目的は馴れ合いなんかじゃないしな。


「うむ、日野の自己紹介はこれにて終了する。日野に自己紹介したい奴は勝手にやってくれ」


 東雲先生は言うと、


「先ほどは目が腐っていると言って悪かった、良い目をしているな日野陽助」と耳打ちしてきた。


 ちょっと耳弱いんだからやめて! 耳を攻める時は個人レッスンでお願いします。


「それじゃあ日野、空いている席に座れ。授業はじめるぞ」


 はぁ、あと数週間で鬼殺しの試験をクリアできるのか? 不安ばかりだ。

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