犬学へようこそ
両親に学校をやめて旅に出ると言った時は殴られるのかと思ったが、意外にもあっさりと受け入れてくれた。
ただひとり妹だけは反対のようで、言い合いの末に口を利いてくれなくなった。学校をやめる理由を説明しないおれが一番悪いのは分かっているけど、説明したところで納得してもらえる根拠も理論もない。
妹の理解を得られないまま学校をやめてしまった。
結局旅に出る日になっても妹とは口を利かなかった。旅に出るおれに何も言わず見送りもしてくれなかった。
最後に妹の頭をなでなでしたかったなと思っていてももう遅い。
と、退学したおれは山々に囲まれた山岳地帯へと来ていた。
標高が高いこの場所はまだ肌寒く感じられる。
「やっと着いた」
ここがカイトとの待ち合わせ場所だ。
整備されたかのように開けた場所。町の喧騒が無い静かな場所。
自然豊かなここに開闢犬学園があるのか? 信じられないんだが。
「来たか」
カイトはそう言っておれの背後を取った。
ちょっと、いきなり背後を取るのはやめてくれ。びっくりしすぎてお漏らししちゃうところだったじゃん。
「来たけど、どこに犬学がある?」
「推薦状をよこせ」
おいおい、何の会話もなしにいきなり推薦状をよこせだ? 調子に乗るなよお前、お前には絶対に負けねぇぞ。
と、カイトに言われたおれは推薦状をおとなしく渡した。
「鬼殲滅第五小隊隊長カイトだ。編入生、日野陽助を連れてきた。八坂様の推薦状はこれだ」
カイトがそう言うと、地面が割れて扉が出てきた。どうやら地下に犬学があるらしい。
「入れ」
この野郎、いつも上から目線で話しやがって。まあいいけど。
地下へのエレベーターに乗り込んだおれたちは、地下百階で降りた。
しばらく廊下を歩くと扉が見えてきた。その扉をカイトはノックすると、扉が開いた。
「学園長、日野陽助を連れてまいりました」
おれとカイトの目の前には若い女性がいる。
え? このお姉さんが学園長なんですか? マジで? おれのマゾのカラダが反応してしまうほどのセクシーな女性なんですけど。
「ほう、その子が犬夜叉の因子を持つ子か。犬学へようこそ」
と、若い女性は言っておれの方へ歩いてきた。
「初めまして、開闢犬学園の学園長をしている
「あ、初めまして、日野陽助です」
握手を交わしたおれと柴子は椅子に座った。
「まあ、わたしから話すことはほとんどないよ、諸々の手続きも済んでいるし、あとはカイトの案内に従っていれば迷いはしないさ」
「あ、はい」
「ただ一つ、この学園は甘くないってことだけは言っておこう」
と学園長は微笑んでから、
「改めて、犬学へようこそ、日野陽助君」
おれとカイトは学長室を出た。
「八坂様の推薦状のおかげで編入試験は免除だ。お前は最低最悪のFクラスに入ってもらう」
今最低最悪とか言ったよな? おれそんな不良ばかりのクラスに入らされるの? 嫌だよ、誰か助けて!
「1112号室がお前の部屋だ。この学園全体を案内してやってもいいが時間が足りない、迷ったら誰かに訊け」
おれは自分の部屋に荷物を置いた。
「ではFクラスに行くぞ。
ほほーん、こいつにも怖いという感情があるのか。てかお前が先生じゃないのか、てっきり二十代のエリート教師かと思っていたぞ。
と、おれたちは長い廊下を歩いた。とても静かだ。教室から先生方の声すらしない。
本当にここが学園なのか?
疑問を抱いているおれの前にとある人物が現れた。
「日野陽助を連れてまいりました」
どうやらこいつというか、この女性が東雲先生らしい。
「遅い!」
開口一番にそう言った東雲先生は、次にカイトの頭を掴んだ。
「遅刻はしてません、というか痛いです」
「五分前行動しなかった罰だ」
と、おれの方を見る東雲先生は、
「東雲雪だ。好きなものは熱い少年少女の心! よろしく!」
なんか体育会系の教師だな。おれの苦手なタイプだ。
「あ、よろしくお願いします」
「ふむふむ、なんだか目が腐っている少年だな。わたしの苦手とするタイプの少年だ」
おい、東雲先生! おれの第一印象やっぱりそこなの? 八坂様くらいだよおれのこの目を褒めてくれたの!
「東雲雪先生の階級は犬聖だ、くれぐれも失礼のないようにしろ」とカイト。
犬聖って、上から二番目かよ。この見た目エロい教師が? そんなに偉いの? エロいの間違いじゃないの?
「ではおれはこれで失礼させてもらいます」
「おう、御苦労」
カイトは消えた。
「では日野、教室に入ったら自己紹介をしてもらうからな」
うわぁ緊張するなぁ。おれ自己紹介とか苦手なんだよなぁ。今度こそ友達出来るかな?
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