ドッグズへ来い

 比渡を家へ送ったおれは自分の家へ帰ろうと歩いていた。こんな朝っぱらから歩くのは初めてだった。それが理由なのかおれは気分が良かった。


 と、気分良く歩いているおれの前に現れる人物がいた。


 おれは歩く足を止めて、


「なんか用か?」


「助かったと思うなよ日野陽助」


 そう言ってきたのはカイトだった。昨日会ったから忘れもしない、こいつの強さは中級の鬼以上だ。てか友達みたいにおれの名前呼ぶなよ、友達だと勘違いしちゃうじゃないか。


「助かっただろ。誰も死刑になっていないんだからな」


「バカめ。ヒトリは無罪放免というわけではない、ヒトリに下された判決は『鬼を狩り続けろ』という無期懲役だ」


 バカだと! おれをバカと罵っていいのは比渡だけだぞ。許さないかんな!


「死罪よりはマシだ」


「貴様があんなことを言ったから、今後もヒトリはいのちを狙われるだろう」


 は? 何言ってんだコイツ。頭大丈夫ですか? 日本語通じますか?


「おれのせい? なんでおれのせいで比渡が狙われる?」


「貴様の中にある犬因子は特別だ。やろうと思えば貴様を操り国を支配することもできる。貴様は言っただろ? 〝比渡ヒトリの言うことしか聞かない〟と」


 確かに言ったな。でも誰も信じていないだろ。もし拷問でもされたらおれ寝返っちゃうぞたぶん。


「今後ヒトリはドッグズの管理下に置かれるだろう。全て貴様のせいだ」


「そうか、おれのせいか……」


 と、おれは歩き出そうとしたら、


「日野陽助」


「まだ何か?」


「ヒトリを本当に助けたければ鬼狩り機関ドッグズへ来い。今の貴様の力では鬼殺しの試練をクリアできん」


 こいつにどんな権限があるか分からねぇけど、そんな簡単にドッグズに入れるのか? おれはドッグズの御三家に嫌われてるんだぞ、そんな簡単にドッグズに入れるものか。


「仮にドッグズに入ったら学校はどうなる? おれにはまだ青春をする時間が必要だぞ」


「ドッグズが所有する学園がある、そこで貴様の好きな青春とやらを送ればいい――しかし、青春など送れるような学園ではないぞ」


「じゃあどうやったら青春を謳歌できる?」


「強くなれ」


 おれよりも格上だからって勝手言ってくれるぜ。そんな簡単に強くなれたらおれは人間やってねぇよ。


「いまより強くなりたければドッグズに来ることだ。おれが案内してやる。それと、八坂様に感謝しろ」


 と、カイトは封筒を残して消えた。


 おれは封筒を拾い、中身を見た。


 中には鬼狩り育成機関、開闢かいびゃく犬学園と書かれた案内状とおれの名前が書かれた推薦状があった。


 八坂様に感謝か……。


 確かに今のままじゃ中級の鬼にすら勝てないよな。どうにかしてベアトリクスの力をコントロールしねぇとおれは死刑になっちまう。


 それにカイトの話が本当なら比渡はおれのせいでいのちを狙われるってことか。おれが死刑になったら、比渡は鬼狩りするだけの人形にされちまうのか。


「はぁ」


 ドッグズの学園にでも通おうかな。


 青春を送れない学園ラブコメか……駄作もいいところだな。


 なあ比渡、おれたちこれからどうなるんだ……。

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