おれと比渡
おれと比渡は自分たちの町へ戻ってきた。
もう日が昇っている。
「なぁ比渡」
「なに?」
比渡に訊きたいことは山ほどある。
「比渡の家であった惨劇って何があったんだ……言いたくなければ言わなくていいんだけど」
「……六年前、
六年前か、十歳くらいでそんな体験してたのか……。
「わたしだけは鬼に殺されなかったの、『鬼を憎め』って、鬼にそう言われて生かされた」
「そうか……その鬼ってのは上級の鬼なのか?」
「いいえ、上級よりも上のネームドって言って、ドッグズでは『
上級よりも上だと、そんな鬼がいるのかよ。おれは中級の鬼ですら倒せないのに……セカイは広いな。
「その巖堕羅に復讐したいわけか」
「ええ、そうなるわね」
その復讐は他人事じゃねぇんだよな。おれはその巖堕羅を倒すために犬因子を比渡から託されたんだよな。
「よし決めた――おれは鬼のいないセカイを作ってみせる」
「え?」
「比渡の望みが鬼への復讐だけじゃないって分かったからな。おれは造化鬼神ってのも倒して、このセカイから鬼を無くす」
そうすることでおれの青春ラブコメは永遠に守られる。
「……馬鹿ね」
そうは言ったものの比渡は微笑んでいた。
おれは今よりもっと強くならなきゃいけねぇんだ。中級の鬼程度で苦戦してられねぇ。
「その前に鬼殺しの試練をクリアしなければならないわ」
「そういえば、鬼殺しの試練って何をするんだ?」
「大多鬼山と言われる山で鬼を狩るのよ」
「鬼を狩るだけか?」
「簡単に言えばそうだけど、鬼狩り機関内で中継されるから不正は出来ない」
「不正?」
「低級の鬼十体と中級の鬼一体を倒さなければ試練クリアとはならないの」
なるほど、つまり観客に己の強さをアピールしなければならないのか。
「試練をクリアしたら何か褒美があるのか?」
「階級が上がるだけよ」
「階級……」
「ドッグズには階級があって、下から順に
ボランティアで鬼狩りをしているわけじゃねぇってことか。
「おれたちの階級ってのは決まっているのか?」
「ドッグズにいた時のわたしは犬草止まり。あなたはドッグズじゃないから階級は無いわ。仮にドッグズに入ったとしても犬草からよ」
犬草か。一番下から一番上に這い上がればいいってことだろ。
「分かりやすいシステムだな。つまり、犬神になれば御三家の八木やら霧江に命令できるってことだろ」
「あなたでは無理よ」
おいおい比渡ヒトリさん、飼い犬のおれを信用しないでどうするっていうんだ?
「無理か無理じゃないかはやってみないと分からねぇだろ」
「ドッグズに入る気?」
「どうだろうな、比渡がドッグズに強制的に戻されるなら付いていく」
「そう……」
それから会話はなく、無事に比渡の家の前まで来た。
「それじゃあ、日野君、学校で」
「おう」
返事をしておれは比渡に背中を向けると、
「日野君」と振り向くおれに向かって「……ありがとう」そう言うと家に駆けこんでいった。
おれはひとり、気持ち悪く微笑んだ。
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