戦い方

 鬼狩りの仕方を見せてやる。だと? ふざけんな、おれは見ず知らずの人間に教わることなんて無いんだよ。いつもボッチだったから問題の出し合いとかもしたことねぇんだよ。やんのかコラ。


「邪魔なのはお前の方だ。見ていろよ、今からあの中級だか何だか分からねぇ鬼を成敗してやる」


「なら見せてみろ」


 え? そこは「邪魔だ、どけ」って言うのがセオリーでは? おれこのままじゃあの鬼に殺されちゃうよ? いいの? おれは良くないと思うなぁ。


「どうした? 鬼を成敗するんじゃないのか?」


「ははは……おれの出る幕じゃねぇからな。今日はお前に譲ってもいいぜ」


「ふっ、そうか。ならそこで這いつくばっていろ――雑種」


 くっそムカつくなコイツ。いいかお前、名前は分かんねぇけど今日からお前はおれの宿敵だ! 光栄に思え!


「ベータ階級因子――武器強化型、開」


 と、男の持つ槍が光を放った。


 その光に気が付いた鬼は男の方を向いた。


「ほう、面白い。貴様、鬼狩りの中でも上の方だろ?」


「すまないな、おれは鬼と話したくない」


 言うと男は槍を――投げた。高速で飛んでいく槍を鬼は掴んだが、男は槍の石突を蹴り鬼の左胸に切っ先を当てた。


 だが、鬼はまだ消えていない。


 核に当たっていないんだ。


「やるな、鬼狩り」


 次の瞬間鬼の光の如き連打が男を襲ったのだが、全て槍で撃ち落としていく。


「近距離型の鬼か……運が悪かったな」


「どうした? 鬼とは話さないのではないのか?」


「独り言が多い者でな」


 目の前でハイレベルな戦いを繰り広げる鬼と男をおれは見ていることしかできないでいた。


「日野君、大丈夫?」


 そんな中、比渡はおれに近寄ってきた。


「ああ、痛みが治まった」


 と、おれは男と鬼の方を向いて、


「あいつは誰なんだ?」


「カイトって言うドッグズの一員よ。わたしが一番警戒していた人物」


「男のドッグズって……じゃあ――」


「ええ、もうわたしはドッグズから逃げられない……」


 それじゃあ、比渡は捕まっちまうってことか……。比渡は殺されちまうのか……。


「比渡、今のうちに逃げよう!」


 とおれが言えば、比渡は悲しい表情をした。


「無理よ」


 そう言って比渡はカイトと鬼のところを見つめた。


「鬼狩りめ……貴様らは許さん、人間は許さん」


 中級の鬼は核を攻撃されて消えかかっていた。


 あれだけ強い鬼を無傷で……おれはベアトリクスの犬因子を持っているのに、あの鬼に攻撃さえできなかった、なのにあいつは中級の鬼をひとりで仕留めたのか。


 格が違いすぎる。


 あんなに強い奴がドッグズにはいるのか。こんなにもおれは弱いのか、これじゃあおれは比渡を守れねぇじゃねぇか。何が青春王におれはなるだ。


 クソっ!


 鬼を狩り終わったカイトはおれと比渡の方へと歩いてきた。


 そしてカイトはおれの方には目もくれず、


「ヒトリ、なぜベアトリクスの犬因子を持ち出した……」


「復讐のためにきまっているでしょ。強い力が無ければあの鬼には勝てない」


「強い力を持っていたとしても、勝てるとは限らない」


「そうね、あなたでも勝てないわ」


 カイトは比渡を睨みつけた。


 あの、ネネさん、この空気どうにかしてくれます? あなたがカイトとかいう奴を連れてきたんですよね? この重苦しい空気を清浄にしてくれませんか?


「ふっ、いまここで殺してもいいが……選択肢をやろう」と、カイトは指を二本立てて、「戻って殺されるか、戻って拘束されるかを選べ」


「ふざけんな……」


 おれはふたりの会話に割って入った。


「そんなの選択とは言わねぇ。比渡は復讐のために生きているんだ、そんな選択どっちもあり得ねぇ」


「部外者……でもないか。貴様がベアトリクスの犬因子を持っている雑種か」


「だったらどうした? おれを殺すか?」


「負け犬め、雑種は雑種らしくかしずけ」


 雑種雑種って、雑種の何が悪いんだ。おれの家にいるダンゴ――飼い犬――も雑種だぞ。雑種をバカにするなよ。雑種は可愛いんだぞ。


「雑種でも何でもいいが、おれは日野陽助だ。その足りねぇ頭の中の辞書に書いとけ」


「ふっ、面白い。ベアトリクスの犬因子を持った奴がいた場合は拘束しろと命令されていたのを今思い出した。が、鬼に殺されたことにするのもいいかもな」


 あらやだ。ごめんなさい、許してください、お命だけはどうか!


「カイト隊長、口を挟むようで申し訳ありませんが、上の命令は絶対です」とネネ。


 いや助かりましたありがとうございますネネさん。あなたを今度からネネ姐さんとお呼びしてもよろしいですか?


「ふっ、冗談だ」


 嫌な冗談言うなこいつ。言うならもっとマシな冗談言えよ。


「そんなことよりネネ、比渡とこの雑種を拘束しろ。連れていくぞ」


「了解」


 とネネはなぜかおれだけをお縄で縛った。嫌よ、こんなプレイ嫌よ。もう少し緩く縛ってくれないと手首が痛いわよ。


「比渡お嬢、ここは穏便に」


「ええ……わかっているわ」


 比渡は諦めたように言った。


「で、おれと比渡はどこに連れていかれるんだ?」


「ドッグズの本部――犬屋敷だ」


 なんだそれ、わんわんがいっぱいいそうでおれはワクワクが止まらないぞ。

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