中級の鬼

 今までに嗅いだことのない鬼の臭いだ。青臭い……いいや血の臭いだ。


 おれと比渡は鬼の臭いを辿っていた。


「日野君、今回の鬼はたぶん中級クラスよ」


 そうか、中級か。なら安心しろ。おれはベアトリクスの因子を持っている超人だからな。中級だろうが上級だろうが負ける気しないぜ。


「中級の鬼には能力があるの。下手に突っ込んだらいけないわ」


「能力か、分かった」


 と、鬼のいると思われる校舎に来てみればそこら中で酷い臭いがした。


「クセェ」おれは思わずそうつぶやく。


「この臭い、何人か鬼狩りを殺しているわね」


 鬼狩りが殺されているって、ドッグズの連中がやられたってことか? そんなに中級の鬼って強いのか?


「出てこい鬼野郎!」


「バカ犬! 中級の鬼を甘く見ないで! 不意をつかなければあなたでは倒せないわ!」


 注意されたおれはしょんぼりした。でもさ、中級程度で苦戦してたら上級の鬼なんか倒せないだろ。比渡はおれの力を信じてないのか?


「なんだ、また鬼狩りか」


 なんだとはなんだ。てかお前、鬼のくせに少し小柄な鬼じゃねぇか。


「まあいい、先ほど鬼狩りを殺したところだ。ついでにお前らも殺してやろう」


 そのついでにやれるもんなら――


「――ぐっ!」


 おれは吹っ飛ばされ、樹に激突した。鬼のくせに不意をつくなんて卑怯だぜ。


 てか痛ぇ、嘘だろ……超人型のおれが痛みを感じる? この鬼やべぇ。


「おれの攻撃を食らったな?」


 あ? それがどうしたってんだ?


「ペイン!」


 なんだ! 攻撃された箇所が痛ぇ。


「ペイン! ペイン! ペイン!」


「ぐあっ!」


 痛い、熱い、何だこれ……攻撃された箇所がずっと痛ぇ。これが中級の鬼の能力か? こんな痛みの中じゃ戦えねぇよ。


「鬼の能力を食らっても意識があるとはなかなかだ、しかしお前は終わりだ。次は女、お前だ」


 と、比渡は日本刀を構えた。飼い主に戦わせるとか、おれは犬失格だな。


「ん? お前黒犬か?」


「だったらなに?」


「鬼の間でも有名だからな……あの惨劇は」


「殺す!」


 比渡は鬼に突っ込んでいった。


 おいおい、中級の鬼と戦う時は突っ込むなとか言っておいて自分は突っ込むのかよ。おれはツッコミ役じゃねぇぞ。てか痛ぇ。


「怒りで我を忘れれば鬼の思う壺だぞ。鬼狩りであれば精神を鍛えておらねばならぬというのに」


「黙れ!」


 比渡は斬りかかったが、鬼は避けた。


「憎しみは新たな憎しみを生む。鬼が憎いか? 黒犬よ」


 比渡は鬼の攻撃を右腕でガードした。


 ガードじゃダメなんだ、あの鬼の攻撃を食らうとおれと同じようになる。


「ペイン!」


「くっ!」


 鬼の能力を浴びた比渡は日本刀を地面に落としてしまった。


「子犬が中級の鬼に勝てると思うか?」


「殺してやる!」


 比渡はいつもの判断力を失っている。これじゃあ鬼の思う壺だ。


「お嬢、さがっていてください」


 と、そこに現れたのはネネだ。


「ネネ……邪魔をしないで」


「邪魔になるのはわたしたちですよ」


「まさか! あいつを連れてきたの!」


「恨まないでくださいよお嬢、今はこれしか中級の鬼を殺す方法はなかったんです」


 ああクソ! こんな時に男のおれがなに地べたに這いつくばってんだ!


 立て、立ち上がれ! 根性で立ち上がれ!


 と、おれは痛みを我慢して立ち上がったは良いが……痛ぇ、死ぬかも、マジでヤバい、意識が朦朧とする。でも、今あの鬼を倒さねぇとおれの青春ラブコメは守れねぇ。


 動け、日野陽助! 比渡ヒトリを守れ!


 そして前進しようとした――その時、


「さがっていろ」


 と、犬の面を着けた男がおれの前に出てきた。


 おいおい、出しゃばるんじゃねぇよ。今からおれはあの鬼野郎をぶん殴ってやるんだからな。本気だよ? おれ久しぶりに本気出しちゃうよ?


「中級クラスの鬼との戦い方を知らんのに生き残るとはなかなかだ」


 いや、全部ベアトリクスの犬因子のおかげなんですけどね。まあその言葉ありがたく受け取っておきます。


「あんた誰だ? ドッグズ……比渡の家臣か?」


「…………」


 おい、無視かよ。初対面でその対応ってことはおれのことキモいって思っているのか? それともおれを対等の人間として見ていないのか? 


「おい、無視すんなよ」


「黙っていろ、鬼狩りの仕方を見せてやる」


 キャイン、この男怖いです。



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