ドッグズ?
鬼を殺す日々が続いた。そのおかげで鬼を殺すのにも慣れたものだ。
お父さんお母さん、青春ラブコメ要素皆無なおれの学生生活は鬼を殺すだけの生活になりそうです。それも青春の一ページって? いいや、おれはまだ真の青春ラブコメを諦めていないぞ。
おれは真のラブコメの帝王となるのだ。
「今日もよくやったわ、日野君」
と、鬼を殺したおれに比渡は労いの言葉を言ってくる。そしていつものようにおれの頭をなでてきた。
比渡のご褒美が頭なでなでになったのはいつの事だったか忘れた。ご褒美に比渡の手作りキビ団子でもいいのだが、頭をなでられると気持ちがいいのでこのご褒美をありがたく受け取っておこう。
「あのさ、気になってたことがあるんだけど」
「なにかしら?」
「この町、おれたちの他に鬼狩りしている奴いるのか? おれたちが鬼と戦っていても全然姿見せなくないか?」
鬼狩りをしてから結構経つし、そろそろドッグズのメンバーと遭遇してもいいと思う。
「いるわよ。絶対にいる」
そう比渡は言うが、根拠というものはないのだろう。
「今日はこのくらいにしましょう」
「おう、家まで送るぞ」
「いいえ、今日はひとりで帰るわ」
「そっか、気を付けろよ」
と、おれと比渡は帰路に立つ。
うむ、久しぶりにゲーセンでも行くか。
「日野陽助だな……」
と、やや高めの声で言ってきたのは犬の仮面で顔を隠した人物だった。
え、誰? もしかしておれの熱心なファン? でもおれってそんなに有名じゃないぞ。鬼狩り始めたのもちょっと前だし……あ、分かった、比渡のストーカーだろ。おれが比渡と一緒にいるから、「比渡ヒトリ様に近寄るな」とか定番のセリフを言いに来たんだろ。フフフ、悪いがおれは比渡の犬だからそうはいかないぜ。
「そうだけど、どちら様?」
「わたしのことはどうでもいい。貴様、比渡お嬢とどんな関係だ?」
いや、どうでもよくないんだけど。てか比渡お嬢? なんだ、こんなタイミングでドッグズと遭遇か? もしかしておれ殺される? ボッチだのキモいだの陰キャだの言われてから首を刎ねられたりする? それだけは勘弁して、おれまだ青春という青春送ってないし、そんな死に方絶対に嫌だよ。
「どんな関係もないけど」
「本当か? 先ほど一緒にいるのを見かけたが、何もないのか?」
何もない、とは言い切れないが、ここでは何もないと言った方が賢明だろう。
「さっきそこで会って、一緒に帰ろうかと誘ったら断られただけの同級生だ」
「そうか、ならば今後は比渡お嬢には近寄らないことだ」
おいおい、見ず知らずの奴にどうしてそんなこと言われなきゃならないんだ。いいや待て、ここは穏便にことを済ませよう。
「分かりました」
と、おれが犬の面の人物に背中を向けると、
「おい! 何か隠しているだろ? 聞き分けが良すぎるぞ」
殺気だ! ヤバい、殺される。
と、そこで遠吠えが聞こえた。ってのはどうでもいい。てかどうしよう、もし本当にドッグズだったらおれが犬因子だのを持っていることバレちゃうんじゃね? バレたらどうなるの? 本当に殺されるの? 嫌よ嫌よも嫌なのです。
「…………」と沈黙が続く。
なんか言えよ、それかもういっそおれの肩を掴むとかしてくれよ。
「…………」それでも沈黙が続く。
ええいままよ。
おれが振り返ると、先ほどの犬の面を着けた人物は消えていた。
助かったのか? まあいい、今日は家に帰ろう。さっきみたいな逆恨みを持った連中に遭遇するといのちがいくつあっても足りねぇよ。
犬の面を着けた奴ら、これがおれとドッグズの初めての接触だったことをこの時のおれは知らなかった。
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