鬼を憎め

 ベアトリクス、おれに知恵を貸してくれ。頼む、このままじゃおれの可愛い妹が殺されちまう。


<ワオーン!>


 とベアトリクスは遠吠えのような声を発した。


 すると、みるみるうちにわんわんパークの犬たちが集まってくるではないか。


「なんだ! 何をした!」


 と、鬼は警戒を強めるが、時すでに遅し。犬たちは鬼を攻撃し始めたのだ。


 鬼が慌てて犬を追い払おうとしている隙に比渡と暗子と妹は鬼の手から逃げた。


 スゲーなベアトリクス。おれあんたを尊敬します。


「ここは危険だから逃げて!」と比渡は暗子と妹に言う。


 いや、君も危険だよね。武器持ってないと戦えないなんて……今の状況だとおれより足手まといのお姫様じゃん。比渡も強がってないで逃げていいんだよ。


 まあ、そんなことはどうでもいい。鬼ども! これで振出しに戻ったぜ。


「クソ! ただの犬が調子に乗りやがって!」


「キャイン!」と犬を蹴り飛ばす鬼。


 おいおい、おれの目の前で犬に暴力振るとはいい度胸してるな。殺しちゃうよ? いいの? おれを怒らせたらほんとヤバいんだよ。


 おれは鬼を蹴り飛ばした。


<そんなことでは鬼を殺せませんよ。鬼狩りの基本は玄冬エネルギーを込めることです>


「だからそのげんとうエネルギーがおれには分からねぇんだ。どうやったら発動できるんだ?」


<未来ある人々のために鬼を憎むことです>


「はぁ?」


<あなたは友達を鬼に傷つけられた。鬼に妹を殺されそうになった。未来を背負う者たちが鬼に脅かされる……それでも鬼を憎く思えませんか?>


 憎いってなんだ? おれは残念なことにボッチだし、家族の愛を受けて育ったんだ。憎いなんて思えるほどおれには感情が無いんだ。


<ここで鬼を殺さなければ、この先の未来であなたの大切なヒトは鬼にされるか殺されるかのどちらかです。鬼を憎む以外に選択肢はありません>


 鬼は憎しみで攻撃しなきゃ殺せない。でも憎しみは憎しみしか生まないだろ。


 おれも比渡ヒトリのように復讐するだけの人間になるのか? 復讐は新たな復讐しか生まないのに、おれは鬼を殺せるのか?


「日野陽助、鬼を殺しなさい」


 比渡は抑揚なく言った。


<日野陽助、鬼を憎みなさい>


 ベアトリクスもまたフラットに言う。


 鬼を殺す。感情を表現できる天災を殺す。


 …………悪く思うなよ鬼ども。お前らは暗子を傷つけた。お前らはおれの妹を殺そうとした。


「わりぃな……鬼ども」


 おれは憎しみをもって鬼の核を攻撃した。


「……貴様ら人間のしたことを我々鬼の一族は忘れぬ」


「ああ、地獄で会おうぜ」


 この日おれは、四体の鬼を殺した。


 おれの青春ラブコメは強くなければ守れない。憎しみが無ければ守れない。


 なぁラブコメの神様……おれは間違っているのか? それとも周りが間違っているのか?


 おれの青春ってなんなんだ…………。


 おれは眠気に誘われ、瞼を閉じた。

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