人質

「青春してるねぇ、お嬢ちゃんたち」と鬼は暗子と妹のほっぺを舐めた。


 やめろー! おれの可愛い妹を舐めるんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!


「クソ鬼野郎」


「あ? そんな口利いていいのか? この子たち殺すよ」


 ヤバいヤバいよ、暗子だけじゃなくおれの可愛い妹が鬼に人質に取られちまったよ。いや待て、一瞬で移動して一瞬で助ければいいじゃねぇか。


 と、おれが動こうとするば、


「おい鬼狩り、動くなよ。動こうとすればこいつらを殺す」


 ははは、まったくもってベタな展開だな。悪役のセリフとしては間違っていないぜ。でも悪役ならもう少し余裕みせた方がいいな、例えば人質を解放するとかさ。


 比渡はどうした? さっきから何も言ってこねぇぞ。


 と比渡を見れば……また新たに現れた鬼に捕まっている。おいおい、囚われのお姫様じゃねぇんだからもうちょっと警戒しろよ。鬼に捕まるの二回目だろ! まあ、最初の一回目はおれのせいだとして、二回目はおれのせいじゃないよな。


 気が付けば最初に気絶させた鬼も起き上がっているではないか。


 鬼四体か……どうする日野陽助。この展開はベタだが実際に遭ってみると死ぬほどヤバいぞ。


 ああ、そうだ! いいこと思いついたぞ。


「降参するから目的を言ってくれ」


 おれは地面に座った。頼む、時間を稼ぐから他の鬼狩りの方々助けに来てください。こうなったら比渡の居場所がなんだの関係ない。お願い助けて。


 ドッグズが来たら来ただ。いまこの状況を乗り切るにはドッグズに頼る他ない。そのあとで比渡を守ればいいじゃねぇか。


「目的だと? おれたち鬼が人間への復讐以外に目的があると思うか?」


 人間への復讐だと? 幅が広すぎだろ、復讐ならもっと狭いところでやれよ。キレていいか? おれがキレたら大変だぞ。町の一つや二つ、いいや、国の一つや二つ滅ぶと思え。


「貴様鬼狩りだろ?」


「だったらどうした」


「そこの鬼狩りの女を殺せ」


 殺す? 比渡をおれが? 無理無理、そんな命令犬のおれが聞いてやると思うか?


「おれは鬼を殺したこともない人間だ。つまり鬼狩りではない」


「ならばお前の目の前でおれたちが女どもを殺してやろう」


 は? この鬼野郎、本物のクズか。鬼はどいつもこいつも人間に命令しやがるのか? ふざけやがって。


「ほら、腕がポキッと」


 と、鬼は暗子の腕を掴むと握り絞めた。


「痛っ!」


 骨が折れるような音が聞こえた。瞳に涙を浮かべる暗子をおれは見ていることしかできない。


 この鬼野郎! おれは立ち上がろうとしたが、


「おっと! 動くなよ」


 ちくしょう。どうすればいいんだ。早くドッグズとか言う組織来いよ。人間が鬼に殺されそうになってるぞ。


<起きてみたら何ですかこの状況は>


 と、ベアトリクスが久しぶりに声を出力した。


 寝起きで悪いなベアトリクス。


「お姫様たちを人質にとられちまった。なんとかならねぇか……」


<はぁ、仕方ありませんねぇ>


 この最悪の状況をどうにかできるなら願ったりかなったりだ。

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